第5話

文字数 2,376文字

エジンバラ空港に着くと到着ロビーにメアリーの姉は座っていた。
「心配したんだぞ!今までどこに行っていたんだ!」
メアリーの姉の旦那さんは泣きそうな顔でそう言った。
その間に二人の子供がメアリーの姉である母に駆け寄って行き抱きついた。
メアリーの姉は
「ママの約束ちゃんと守れた?」
と尋ねると、子供たちは
「うん、僕たち秘密は守ったよ。このお姉ちゃんにはバレちゃったけど・・・」
とクリスティーンを指さした。
クリスティーンは一礼を彼女に捧げた。
「あら、メアリーまでどうしたの?」
「お姉ちゃん、『どうしたの?』じゃないよ!急にいなくなるなんて!」
「ああ、ごめん。あなたにも迷惑かけたみたいね」
メアリーはため息をついた。
メアリーの姉の旦那もほっとした表情になり普段の優しく冷静な振る舞いで尋ねる。
「でも今までどこに?」
「ああ、私、今までヒースロー空港の臨時スタッフで働いていたの。ほら、この前まで今空港で人がいなくて大変ってニュースでやってたでしょう?」
「それはみたけど・・・君がどうして?」
「2週間の臨時アルバイトスタッフの募集を見つけて行ってきたのよ。それで終わったから帰ってきたってわけ」
「アルバイト?どうしてアルバイトなんかを?しかも、なぜグランドスタッフなんだい?」
メアリーの姉の旦那は首を傾げた。
「そうよ、お姉ちゃん、キャビンアテンダントになりたかったんじゃないの?」
メアリーの姉は下を向いた。
「それは、段々とグランドスタッフの方が魅力的に見えるようになったからじゃないでしょうか?」
クリスティーンが口を開いた。
「あなたは?」
「お姉ちゃん、私の友人から紹介してもらった探偵さんなの?」
「あら、小さいのに・・・でも探偵さん、どうやらあなたには全てお見通しのようね」
メアリーの姉はそう言って微笑んだ。
クリスティーンは恥ずかしそうに髪を撫で始めた。
そして再び口を開いた。
「ご自宅の写真はローマのコロッセオの入り口での家族写真や空港の入場ゲート、アメリカのディズニーワールドの入り口、マチュピチュの朝日、クレタ島の夕焼けなどが飾られていました。どれも始まりと終わりを象徴するものと言えます。空港で言えば始まりと終わりは飛行機に乗り込む前のロビーとも考えられる。それからキャビンアテンダントというのは今後も働くことを前提としているので、あなたのような高い身分ではいずれ身元がわかってしまい働けなくなってしまう。もとより長く働く気もないという思いもあったのではないかと思いますが・・・」
メアリーの姉は深くうなづいた。
「その通りよ。続けてちょうだい」
「はい。とはいえ、航空業界で働きたいと思っていたあなたは人生で一度は空港で働いてみたいという思いが強くなり、お忍びで空港で働ける求人を探し始めた。そこでちょうどロンドンのヒースロー空港で臨時アルバイトの求人が出たことを知り、ヒースロー空港で面接を受けることにした。面接が通らなければ当日にエジンバラに帰るも予定していた。ただ、面接は通り、働くことになったので、そのまま2週間ロンドンに滞在し、勤務して今に至るということではないでしょうか?」
メアリーの姉は笑い始めた。
「本当に全部お見通しなのね。面白い」
クリスティーンはさらに恥ずかしさを感じ、髪を触りながら下を向いた。
「でもどうしてお忍びで?」
メアリーの姉の旦那は顎を触りながらそう尋ねる。
「由緒正しい家系でそんな仕事をしているとなれば、すぐにお屋敷の周りの人たちの間で噂になるでしょうし。旦那さんも今はどうか知りませんが、それを冷静な状態で聞いたらお許しにはならないでしょう」
メアリーの姉の旦那は一瞬考えて、
「ああ、そうかもしれない」
と答えた。
「とはいえ、普段からメイドとして働いているアレクサンドラさんにこのことを知らないわけがない。色々説明して、黙っててもらうようにお願いしたのではないですか?」
アレクサンドラは静かに
「その通りです」
と答えた。
「そして、お子さんたちを心配させてもいけないので、秘密にしてもらう約束をして、代わりの報酬を与えると伝えた。そのキャリーバックの中にはハリーポッターの期間限定のグッズが入っているのではないですか?」
「その通りよ・・・でも、どうしてもそれもわかったの?」
「お子さんの見つけているものや写真からハリーポッターのグリフィンドールのロゴがいくつか見えました。おそらくあなたに似てお子さんたちもハリーポッターが好きなのではないでしょうか?」
「ああ、なるほど!そういうことね!」
メアリーの姉の逃走理由もわかったところで皆ほっと胸を撫で下ろす。
そして、メアリーの姉は子供に優しい視線を送りながら、語りかける。
「でも人生一度は『やってみたい!』って心から思うべきことはやったほうが良いわ!本当にやりたいって思うことも実は経験してみるとそれはそんなに素晴らしいものではなく、あくまで幻想だって目が覚めることがあるし、もっと良いものを自分は経験したりすでに持っていることにも気づけるものよ。今回私はそういうものに気がついたわ。もう別に空港のグランドスタッフで働こうとも思わないわ」
良い話だなーと大人が感心していると、メアリーの姉の娘が指を咥えて何かを考え始めた。
「どうしたの?」
メアリーの姉が問いかける。
「もし、『やってみたい!』って思うことにリスクがあるとしたら?」
「そうね・・・」
メアリーの姉は天井を数秒眺めてから満面の笑みで答えた。
「挑戦したリスクで失われるものと天秤にかけて、それが別に大事なものではないと気づくことかしら!」
それを聞いてメアリーの姉の旦那さんは「ゾッ」としたような怯えた顔を見せた。
これはメアリーの姉より旦那さんの思いの方が強いことを彼女が知っているが故にできる態度である。
『やはり母親は強かである』とクリスティーンは
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