人を救う死神
文字数 1,458文字
死神は笑う。
様々な理由で死にたいと思っている人間が自分の手で死んでしまう前に、ひとり、またひとりと冥界へ連れて行く。
死神は、助けてという声なき声に耳を傾ける。
もともとは人間だった彼は、自分も死神に助けられて、その後を継いだ。
死後の世界では、何もせずに生きていける。
休んだり、好きなことをやって満足したら、自然と消えていくだけだ。
お金だとかそういう概念もない。
その中で、死神になることを選んだ唯一の人間だった。
「自分で命を絶つぐらいなら、俺が救ってやる」
声なき叫びを上げている人間は、それだけ優しい性格をしている。
周りに迷惑をかけたくないとか、こんなダメな自分じゃ生きてても無意味だとか。
そんな人間を救えるのもまた、似たような人間なのだ。
何か好きなことを持っている人間に、それが嫌いな人間の気持ちが分からないように。
今日もまた一人、飛び降りようとしていた人間を救った。
ちょっとした原因で虐められて、精神を病み、自分の存在理由が分からなくなっていた人間。
だけど、死んで心も身体も動かなくなって、自分というものが認識できなくなって。
そうして辛い現実から消え去りたかった人間にとっては、それは救いとはいえないのかもしれない。
「なんで助けたんだよ!俺は、自分という存在を消したかっただけだ!それなのに」
「俺もそう思ってたよ」
「え?」
「だけど、死神の仕事をしてみて分かった。こんな俺でも、誰かの役に立てる。自分と同じような思いをしている人間を救えることに喜びを感じた。お前みたいに、消えてなくなりたかったやつも大勢見てきた。俺がそうだったから気持ちはわかる」
「なら、なんで」
「見てられないんだよ。過去の自分を見てるみたいで。せめて俺が死神でいる間は、もう悲劇は起こしたくない。もう誰も、自分から死を選ぶことが起こらないような社会になればいいのにな」
死神の体が光る。
それは、寿命が来たというサインだった。
「死神は人を救う。そうすると、誰かを救えたという満足感が蓄積されていく。だから、死神はすぐ消えちまうんだ。俺はまだまだ満足してないはずなのに。これじゃあただの自己満足だ」
「あんた、助けられてから今までずっと死神をやってきたのか?」
「ああ。ここに来てからずっとな。俺を助けてくれた死神は、それからすぐに満足の上限に達して消えちまった。だからその役目を引き継いだんだ」
「あんたは、死んでから消えるまでの時間を他人のために尽くしたのか」
「まあ、そういうことだな」
目の前の死神を見る。
もう体の半分が消えかかっていて、紫がかった冥界の空と同化し始めていた。
「俺、やるよ。死神。俺があんた願いを継いでやる」
気づくと俺はそう口に出していた。
「お前……。いいのか?決めたら、最期まで後戻りはできないぞ。死神になれば、冥界で普通に過ごす二倍の速さで命が失われていく。
まあ、死んでる俺らが命ってのもおかしいが」
「ああ。構わない。それで誰かが辛い思いをせずに済むなら。俺みたいな人間はこれ以上いらない」
「お前、俺と同じでお人好しだな。損するタイプだぞ?見返りもなく自己を犠牲にする精神は、ほどほどにした方がいい」
「もう死んでるんだ。どっちにしろ今更だろ」
「それもそうか。じゃ、頼んだぞ……ありがとな」
死神の姿は完全に空に溶けた。
死後の彼の使命は終わったのだ。
「俺は届く限り手を伸ばしたい。冥界に居場所を作ってくれたアンタのためにもな」
俺はかつて死神が来ていた衣装を見に纏う。
夜空にひときわ大きく輝いている星が、応援してくれているような気がした。
様々な理由で死にたいと思っている人間が自分の手で死んでしまう前に、ひとり、またひとりと冥界へ連れて行く。
死神は、助けてという声なき声に耳を傾ける。
もともとは人間だった彼は、自分も死神に助けられて、その後を継いだ。
死後の世界では、何もせずに生きていける。
休んだり、好きなことをやって満足したら、自然と消えていくだけだ。
お金だとかそういう概念もない。
その中で、死神になることを選んだ唯一の人間だった。
「自分で命を絶つぐらいなら、俺が救ってやる」
声なき叫びを上げている人間は、それだけ優しい性格をしている。
周りに迷惑をかけたくないとか、こんなダメな自分じゃ生きてても無意味だとか。
そんな人間を救えるのもまた、似たような人間なのだ。
何か好きなことを持っている人間に、それが嫌いな人間の気持ちが分からないように。
今日もまた一人、飛び降りようとしていた人間を救った。
ちょっとした原因で虐められて、精神を病み、自分の存在理由が分からなくなっていた人間。
だけど、死んで心も身体も動かなくなって、自分というものが認識できなくなって。
そうして辛い現実から消え去りたかった人間にとっては、それは救いとはいえないのかもしれない。
「なんで助けたんだよ!俺は、自分という存在を消したかっただけだ!それなのに」
「俺もそう思ってたよ」
「え?」
「だけど、死神の仕事をしてみて分かった。こんな俺でも、誰かの役に立てる。自分と同じような思いをしている人間を救えることに喜びを感じた。お前みたいに、消えてなくなりたかったやつも大勢見てきた。俺がそうだったから気持ちはわかる」
「なら、なんで」
「見てられないんだよ。過去の自分を見てるみたいで。せめて俺が死神でいる間は、もう悲劇は起こしたくない。もう誰も、自分から死を選ぶことが起こらないような社会になればいいのにな」
死神の体が光る。
それは、寿命が来たというサインだった。
「死神は人を救う。そうすると、誰かを救えたという満足感が蓄積されていく。だから、死神はすぐ消えちまうんだ。俺はまだまだ満足してないはずなのに。これじゃあただの自己満足だ」
「あんた、助けられてから今までずっと死神をやってきたのか?」
「ああ。ここに来てからずっとな。俺を助けてくれた死神は、それからすぐに満足の上限に達して消えちまった。だからその役目を引き継いだんだ」
「あんたは、死んでから消えるまでの時間を他人のために尽くしたのか」
「まあ、そういうことだな」
目の前の死神を見る。
もう体の半分が消えかかっていて、紫がかった冥界の空と同化し始めていた。
「俺、やるよ。死神。俺があんた願いを継いでやる」
気づくと俺はそう口に出していた。
「お前……。いいのか?決めたら、最期まで後戻りはできないぞ。死神になれば、冥界で普通に過ごす二倍の速さで命が失われていく。
まあ、死んでる俺らが命ってのもおかしいが」
「ああ。構わない。それで誰かが辛い思いをせずに済むなら。俺みたいな人間はこれ以上いらない」
「お前、俺と同じでお人好しだな。損するタイプだぞ?見返りもなく自己を犠牲にする精神は、ほどほどにした方がいい」
「もう死んでるんだ。どっちにしろ今更だろ」
「それもそうか。じゃ、頼んだぞ……ありがとな」
死神の姿は完全に空に溶けた。
死後の彼の使命は終わったのだ。
「俺は届く限り手を伸ばしたい。冥界に居場所を作ってくれたアンタのためにもな」
俺はかつて死神が来ていた衣装を見に纏う。
夜空にひときわ大きく輝いている星が、応援してくれているような気がした。