雀の千声、鶴の一声

文字数 1,027文字

「ねぇー、今度真琴くんの家に行っていい?」

「あれ? 真琴と唯川っていつの間にそんな関係になってたんだ?」

「本当だよ、僕と唯川はいつの間にそんな関係になったんだ」

 それは唯川の一言によって始まった。
 聞く人の大半が誤解をするであろうそのセリフは、後ろの席にいる金田雄貴でも例外ではない。
 雄貴の野次馬根性は、そのセリフを聞き逃さなかった。

「真琴くんはいなくていいから、ココちゃんとドラちゃんに会わせてよー」

「いや教会で会えるだろ」

「我慢できないー。ドラちゃん成分が欲しいー」

 唯川の目的は真琴ではなくココとサンドラだったようで、真琴のちょっとした期待は難なく破られてしまう。

「ドラちゃん? 真琴の母さんか?」

「なわけないだろ、従兄妹だよ。というかこの前教えたじゃねぇか」

 雄貴の雑なボケに真琴の鋭いツッコミが入る。
 雄貴と真琴は幼稚園からの関係で、高校生になった今でも仲良く遊んでいるほどであり、困ったことがあったら、大抵の事は打ち明けて笑い合うような仲だった。
 そして、ココとサンドラの事を知っている(勿論二人が悪魔だということは教えてない)数少ない人間の一人だ。

「はぁー、真琴くんといるなんてドラちゃんが心配だよー。真琴くんの毒牙にかかってないかなぁ」

「僕はどっかの将軍かよ。というか、僕がドラちゃんの毒牙にかけられてるくらいだ」

 真琴は過去にサンドラにされてきた仕打ちを思い出す。
 ココが折角真琴に用意したご飯も、油断をしていたらサンドラに食べられてしまう。
 真琴が大事に隠しておいた高いケーキも、三分後には無くなっていたこともあった。
 あの温厚なココでさえ、サンドラには本気で怒っていたほどだ。

「唯川もサンドラを詳しく知ったら幻滅するだろうぜ。デザートなんて五秒で消えるぞ」

「……ん? ちょっとよく分からないけど、まあいいや」

 唯川は不思議そうな顔を浮かべた。
 あまりに話が飛躍しすぎたため、理解力の高い唯川でも追いつけなかったようだ。

「そうだ、唯川が会いに行くんじゃなくて、ココたちが会いに行くってのはどうだ?」

「あ、それいいかも! 私の家なら広いし」

 鶴の一声により、唯川の顔が笑顔に変わる。

「おー、いいじゃん。真琴の家と比べたら唯川の家は格が違うもんな」

「うるさいぞ、雄貴」

 休み時間が終わるまで、楽しげな笑い声が教室に響いたのだった。
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