第1話
文字数 1,916文字
俺の友人は、幼稚園の頃から正義感が強くて生真面目だった。
俺は彼に憧れて、ずっと後ろをついて走り回っていた気がする。
別の高校に進学してからも、時々一緒に遊んだりした。
友人は「勉強も運動もできなくてブサイクで背も低くて女子からもモテないとか、本当生きてる意味ねえよ。異世界転生してハーレム作ってチートしてえ」なんて言うようになった。
だから俺は彼女ができたとか生徒会に入ったとかも言いませず、「ハーレムなんて大変だよ」なんてつまらないことを言った気がする。
疎遠になり、お互い大学進学してからは連絡も取らなくなった。
そんな時、ニュースで友人の死を知った。
飲み会の帰りに始発で帰ろうと駅のホームで待っていた友人は、酔っ払いに後ろから押されてホームから転落、轢死したと言う内容だ。
ニュースは、すべての駅にホームドアを設置するべきなんて話になり、友人の死はホームドアの話を推進するための事例として扱われていた。
疎遠になっていたくせに彼の死を嘆くなんて偽善者のようだ、と思いながらも喪失感が凄まじかった。
葬式には行った。
友人は家族と不仲だった。友人の兄が優秀だったので、ずっと比較されて出来損ないと言われていた。
友人の両親は、「金食い虫がいなくなって清々した」とまで言い放ち、彼の兄もそんな両親を受け入れていた。
友人の友達なんて誰も来ていなくて、全駅ホームドア設置委員会みたいな人たちと、駅の関係者くらいしかいなかったのだ。
居た堪れない葬儀を終えて、俺は友人についていろいろ思い出した。
将来おまわりさんになりたいと言っていたが、父親の弟が殺人犯で刑務所に入っていると知って、「身内に犯罪者がいると警官になれないんだって」と泣いていた友人に、俺は何を言ったか覚えてもいない。
中学時代、いじめられっ子を庇って暴力を振るわれても毅然な態度を取っていた彼は、やっぱり俺にとってはヒーローだった。
「異世界転生、したかな……」
友人に薦められて異世界転生の小説は何冊か読んだ。
トラックに轢かれて異世界に転生する際に、神様からもらったチート能力で無双してモテモテになって人々から称賛されるようなストーリーばかりだった。
最初の頃は、ただただ「俺強い!」な主人公ばかりだったのに、高校三年生頃に薦めてもらった小説では、さまざまな制限のある中頭脳を駆使して読者を唸らせるバトルものが多くなっていった。
友人は、真っ直ぐ行って殴るような戦術とも言えないような戦い方しか知らないような奴だった。
税金なんてなくなればみんな幸せになるんじゃねえの? 義務教育なんて無意味だよなぁ。選挙なんて行く意味ないし。
そんな子供向けの政治を学ぼうマンガの主人公みたいなことを、友人は高校生になっても言っていた。
多分、異世界に行ったとしても内政チートは無理だろう。
格闘ゲームはド下手だったし、RPGなんかもレベルを上げて真っ直ぐ敵に突撃する以外のプレイをしなかったから、指揮官としては無能もいいところだし戦闘チートも無理だと思う。
「まあ、異世界なんてないけどね……」
俺の独り言は青空に消えていく。
俺たちが通った幼稚園は廃園になって今は更地だ。小中学校は、俺たちが通った時とは校舎も建て直しもされて別物になっている。
そんな思い出の場所を回りながら、俺はひたすら友人のことを思い出していた。
無鉄砲で直情的で真っ直ぐで熱い奴だった。それだけでは生きていけないと悟ってからは、兄へのコンプレックスで不貞腐れていたのも理解していた。
「おいおい! まだ俺のこと覚えてるとか馬鹿だろ!」
空からよく知った声が響き、人が降ってきた。
俺はステップバックして避けた。
「さ、聡……?」
友人は、友人が大好きだった異世界転生もののラノベの表紙のような服装で地面に降り立った。
「樹よぉ、俺はこの世界の人から忘れられれば忘れられるほど強くなるチートを神様からもらったんだよ! お前がずーーーーっと忘れてくれねえから激弱のままなんだぞ!」
理不尽もいいところだ。
「お前が弱いのは、単にお前が強くないからだ。チートなんかに頼らず体を鍛えろ。頭を使え。俺に指図するな」
ムッとしてついキツイ口調になってしまった。
「しゃーねーな! じゃ、お前も異世界に来い! お前がいれば内政チートも余裕だろ?」
「は?」
俺はチビのままの友人に手を取られて、空に浮かび上がった。
「樹がいれば俺は魔王だってワンパンだ!」
「いやいや、もっと戦術とか使おうよ!」
この友人が本物のヒーローになるのを俺は見届けたいと思った。
現代チートが通用すればいいなと思いながら、俺たちは光に包まれた。
俺は彼に憧れて、ずっと後ろをついて走り回っていた気がする。
別の高校に進学してからも、時々一緒に遊んだりした。
友人は「勉強も運動もできなくてブサイクで背も低くて女子からもモテないとか、本当生きてる意味ねえよ。異世界転生してハーレム作ってチートしてえ」なんて言うようになった。
だから俺は彼女ができたとか生徒会に入ったとかも言いませず、「ハーレムなんて大変だよ」なんてつまらないことを言った気がする。
疎遠になり、お互い大学進学してからは連絡も取らなくなった。
そんな時、ニュースで友人の死を知った。
飲み会の帰りに始発で帰ろうと駅のホームで待っていた友人は、酔っ払いに後ろから押されてホームから転落、轢死したと言う内容だ。
ニュースは、すべての駅にホームドアを設置するべきなんて話になり、友人の死はホームドアの話を推進するための事例として扱われていた。
疎遠になっていたくせに彼の死を嘆くなんて偽善者のようだ、と思いながらも喪失感が凄まじかった。
葬式には行った。
友人は家族と不仲だった。友人の兄が優秀だったので、ずっと比較されて出来損ないと言われていた。
友人の両親は、「金食い虫がいなくなって清々した」とまで言い放ち、彼の兄もそんな両親を受け入れていた。
友人の友達なんて誰も来ていなくて、全駅ホームドア設置委員会みたいな人たちと、駅の関係者くらいしかいなかったのだ。
居た堪れない葬儀を終えて、俺は友人についていろいろ思い出した。
将来おまわりさんになりたいと言っていたが、父親の弟が殺人犯で刑務所に入っていると知って、「身内に犯罪者がいると警官になれないんだって」と泣いていた友人に、俺は何を言ったか覚えてもいない。
中学時代、いじめられっ子を庇って暴力を振るわれても毅然な態度を取っていた彼は、やっぱり俺にとってはヒーローだった。
「異世界転生、したかな……」
友人に薦められて異世界転生の小説は何冊か読んだ。
トラックに轢かれて異世界に転生する際に、神様からもらったチート能力で無双してモテモテになって人々から称賛されるようなストーリーばかりだった。
最初の頃は、ただただ「俺強い!」な主人公ばかりだったのに、高校三年生頃に薦めてもらった小説では、さまざまな制限のある中頭脳を駆使して読者を唸らせるバトルものが多くなっていった。
友人は、真っ直ぐ行って殴るような戦術とも言えないような戦い方しか知らないような奴だった。
税金なんてなくなればみんな幸せになるんじゃねえの? 義務教育なんて無意味だよなぁ。選挙なんて行く意味ないし。
そんな子供向けの政治を学ぼうマンガの主人公みたいなことを、友人は高校生になっても言っていた。
多分、異世界に行ったとしても内政チートは無理だろう。
格闘ゲームはド下手だったし、RPGなんかもレベルを上げて真っ直ぐ敵に突撃する以外のプレイをしなかったから、指揮官としては無能もいいところだし戦闘チートも無理だと思う。
「まあ、異世界なんてないけどね……」
俺の独り言は青空に消えていく。
俺たちが通った幼稚園は廃園になって今は更地だ。小中学校は、俺たちが通った時とは校舎も建て直しもされて別物になっている。
そんな思い出の場所を回りながら、俺はひたすら友人のことを思い出していた。
無鉄砲で直情的で真っ直ぐで熱い奴だった。それだけでは生きていけないと悟ってからは、兄へのコンプレックスで不貞腐れていたのも理解していた。
「おいおい! まだ俺のこと覚えてるとか馬鹿だろ!」
空からよく知った声が響き、人が降ってきた。
俺はステップバックして避けた。
「さ、聡……?」
友人は、友人が大好きだった異世界転生もののラノベの表紙のような服装で地面に降り立った。
「樹よぉ、俺はこの世界の人から忘れられれば忘れられるほど強くなるチートを神様からもらったんだよ! お前がずーーーーっと忘れてくれねえから激弱のままなんだぞ!」
理不尽もいいところだ。
「お前が弱いのは、単にお前が強くないからだ。チートなんかに頼らず体を鍛えろ。頭を使え。俺に指図するな」
ムッとしてついキツイ口調になってしまった。
「しゃーねーな! じゃ、お前も異世界に来い! お前がいれば内政チートも余裕だろ?」
「は?」
俺はチビのままの友人に手を取られて、空に浮かび上がった。
「樹がいれば俺は魔王だってワンパンだ!」
「いやいや、もっと戦術とか使おうよ!」
この友人が本物のヒーローになるのを俺は見届けたいと思った。
現代チートが通用すればいいなと思いながら、俺たちは光に包まれた。