第17話「憎い……世界が憎い……。必ず舞い戻ってやる……!」

文字数 2,214文字

~前回からのあらすじ~

「和解の交渉に行きたい ダメカナ?」

「ダメダヨ♪」

ええ~なんどぅえなんどぅえ~?

通してくれたってええゅぁ~ん!

(言い回しも態度もしつこい)
あのっすねえ。

そちら側が本当のことを言ってる証拠は何一つないんっすよ。

指名手配犯の言葉を全部真に受けるほうがどうかしてるっす

ほう
実は先日ここに着いたとき、ヨミドさんとお話したんっすよ。

でもヨミドさんから魔導書の話は聞いてないっす。

なら命令通りにお二方を捕まえるほかないんっすね

ふむ
こっちの身内にケンカを売っておきながら、

和解したいから連行せず客として案内しろとは虫の良い話っす。

ほかに何もない限りは従う義理がないっすよ

ふっ……
なんっすか? その笑いは
ちょっと正論過ぎて何も言えない
(なんか言い返せよ)
……じゃあ大人しく連行されてほしいんっすけど
それは ムリ~~~!!
……ただのわがままじゃないっすかぁ。子供じゃあるま……
え?
ああ、うん。子供だったっすね。

……これはもう、武力行使しかなさそうっすかね?

ほほう。武力で来るんか
ただし
ん?
残念ながら、殺し合いはナシっすよ。

ヨミドさんの命令は生け捕り。そちら側も幹部である自分を殺したら

交渉の道が絶たれるはずっす。殺し合ってもお互い損をするだけ

せやな。それでええと思うで。

ええと思うけど……「残念ながら」って怖いこと言うなぁ?

おっと、失言だったっすね。忘れてほしいっす。

ヨミドさんに凄腕だと伺ったもので血が滾ったっす

(本当は殺し合いたかったってか。さすがに本分は暗殺者だな)
せやったら、殺し合いやなく試合で。

ウチらが勝ったら客としてご案内、負けたら連行。これでええの?

――それで行くっす
ええやろ。ウチとしてはええ条件や。カイカもこれで文句ない?
ああ。乗りかかった船だし、俺もやらせてもらうよ
ほな、これでいこか。それとカイカ
おう
今回は邪魔やから引っ込んどいて
えっマジかよ!? なんか予想してたパターンと違うぞ!?
なんかやる気満々のトコ悪いけど、

ギルドの幹部クラスとなればカイカがおっても邪魔なだけやわ。

魔導書だけ持って巻き込まれへん所で待っといてくれる?

いや、でも幹部が相手ならなおさら2人の方が
足手まといや
俺だってそこそこ……
実力不足や
でも
コミュ力不足や
それは関係ないだろ今!!
――はい、これ。大事なもんやねん。しっかり守っといてや
(やあ。ぼく魔導書! 2回目の登場だけど、もう登場はないよ!

 憎い……世界が憎い……。必ず舞い戻ってやる……!

 たとえどんな手を使ってでも……!)

なんか物騒なこと喋ってないかこいつ??
さぁ? ウチには何も聞こえんかったで。

とにかく、ここはウチに任せといてや。心配せんでも大丈夫

……なにか勝算でもあるのか?
翔さん? 中田翔がどうしたって?
その「しょうさん」じゃねえ
綾小路の方?
歌手の綾小路翔でもねえ
ああ分かった! いかりや長介ね!
「チョー(長)さん」じゃねぇか! だんだん離れてってる!

違うって、勝つ算段って書いて勝算だよ!

まあ見とき。それより巻き込まれんようにめいっぱい距離取りや
……おう
もういいっすか?
ええで




それじゃあ、殺しは無しの試合形式で。

他にルールの提案とかは……もうないっすね?

ない
じゃあ……そうっすね。「よーいドン」の合図お願いしていいっすか?
ん、俺?
そうっす。ドンのタイミングで開始。いいっすかー?
いいですよ
決まりっすね。それじゃあ
(……とりあえず、始まると同時に最大限距離を取るべきっすね。

 自分のスピードなら何が飛んできても避けられるはずっす)

……
……(もう始めて良いのかな?)じゃあ。

よー……

せいっ!!!

▼ズドンッ!!


▼山田は土魔法を唱えた!

ハイロの周りの地盤が隆起し、ハイロを覆うように挟んだ!


――ッ!


▼ハイロは土で固められた!


――……ッ
……
……えーっと
……
……
……
……
……そろそろええかな?


▼山田は魔法を解除した。土が崩れ、中から砂まみれのハイロが出てきた。


ゲホッ、ゲホッ! ぺっぺっ、うえ……
ウチの勝ちでええよね? 身動き取られへんかったやろ。

あのまま行っとったら死んどったで自分

……
……
……
……ずるくないっすか?? よーいドンってまだ言ってないっすよ
ハイロさんに同意
よーいドンで始め、ってそっちが勝手に決めたことやん。

ウチは同意してへんで。確認せんからそうなるんや

自分が悪いんっすか? これ
いや……
はよ通してや~。もう終わりでええや~ん
……仕方ないっすね。分かったっす。通すっすよ
え……いいんですか!?
正直納得はいってないっすけど、確認をしなかったのは自分っす。

あのまま魔法を解かなかったら窒息死してたのも事実っすよ

(……というか、殺し禁止で勝てる相手じゃないっす。

 地盤ごと動かすなんて、予想してた規模の魔法じゃなかったっすよ。

 隙間を作ってくれてなかったら、まず挟まれた衝撃で死んでるっす)

というわけで、ヨミドさんのところまで案内するっすよ
ありがとうございます!
まあ当然やな
お前は黙ってろ
え~? なんでウチ勝ったのに文句言われてんのん?
勝ち方がひでーんだよお前は
ただし……何か不審な動きを見せたら今度こそ始末するっす。

くれぐれも発言と行動には気をつけるっすよ

はいは~い
反則スレスレの、というか反則の手を使った山田。

しかしハイロの温情で勝ちが認められ、リーダーのところにまで案内されることに。

次回、ここまで来たらもうまともな戦闘とかないんだと思います。お楽しみに!

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登場人物紹介

山田太郎

元道具屋の店主。高レベルな魔法の腕を持っているが、

なぜか関西弁の守銭奴とやけに現代的な性格。

「ドカベンって呼んでもええで」と言ったり、

偽名で岩鬼正美を名乗るなど、某野球漫画に謎のこだわりあり。

カイカ

冒険者の戦士。腕前に自信があったので難関ダンジョンに挑戦してみたものの、準備不足で傷薬がなくなりピンチに陥るちょっとしたマヌケ。腕は確からしいが、コミュ力がないと山田にディスられている。

ハイロ・アナグレタ

第3話より登場。酒場の看板娘らしい。

たちの悪い冒険者に絡まれていたところを山田たちに助けてもらう。

美人さんだが、なぜか「~っす」という語調で話す。

師匠(アネア・エアクオウ)

第9話より登場。凄腕の魔法使いで、山田の師匠。

100年以上生きているらしいが若々しく、「魔女」らしい風貌。

しかし魔法以外の事は99%忘れてしまうらしく、100年前どころか

昨日のことすら記憶が怪しい。山田いわく「後期高齢者」

ヨミド

第19話より登場。ギルドのリーダーで、魔法使い。

厳格な性格で、プライドが高いような発言が見受けられる。

第一章の山田とカイカはヨミドと会うために旅をしているが、

その役割を考えると、たぶん彼がメインヒロインなんだと思います。

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