コユキと眼鏡 (5)

文字数 7,730文字

 扇風機の羽音に耳を取られる時間だった。
 最初はマサキが意図して作り出したのに、逆にそれを強いられていた。
 ――オーバードーズ(OD)か。
 その薬は、初めから「死ぬため」の薬だったのか、それとも、ある時点まで「生きるため」の薬だったのか。
 闇。湖(美穂)に垂らされた一滴の毒薬(湖に落ちた美穂)。
 わずか一滴の毒が湖から命を奪い去る……。
 全てのイメージは暗く闇に沈んでいた。
「これ、本当だと思いますか」
 パソコン画面から顔をそらさず、幸雄が言った。
 その気持ちはわかる。
「わたしには信じる……、いや、ここに書かれていることが、彼女のストレス発散のための作り話だとは」
 思えない。であれば、彼女が湖に飛び込む理由がない。
「信じる」という、ある意味ポジティブな言葉をつかいきることは躊躇われた。
「ホテルで……、目隠しされて手足を縛られて……」
 そのブログは五月の終わり。

〈ホテルでレイプされる。目隠しされて手足を縛られて。E、Bs、大魔神もいた。あの場で舌をかみきって死んでやろうかと思った。自分の画像が流出することなんて恐くない。でも……。なんでもありってことなら、こっちにだってやりようがはある。なめやがって……。〉

「こんなこと……。なんなんだよ、いったい」
 俄かに信じ難い内容だ。しかし。
「このブログは、事実だ」
 マサキは断定する。書かれていることが実際にあったかどうかではない。
「事実」というのは、美穂が男どもには想像もつかないほど大きなストレスを抱えたという事実。
「彼女が自殺した、それ以上に驚くべきことなんかない、と思っている」
 彼女が人生を投げ出す原因として、マサキにとって十分過ぎるということはあり得ない。
「逆に聞きたい、どう思う?」
 こないだセクハラがどうとか言っていた。彼氏の表情は、今にも泣き出しそうだった。
 実際に「苦悶」と形容できる表情を見たのは、マサキも恐らく初めてだった。
 固まったようにパソコンを見ている幸雄の、口だけが動いた。
「E、Bs、大魔神て、誰のことだろう」
 問いには答えず、独り言のように呟いた。
 聞きたいのはマサキの方だ。なぜならきっと、この「三人」は会社の人間に違いないのだから。
 会社の人間、恐らくは。
「上司って、名前は?」
 幸雄も「最悪」と言った上司。金縛りを解くように、幸雄が大きく息を吐いた。
 あるいは、思い出すのもうんざり、名前を口にするのもげんなり。
「直の上司は課長の岡野、その上が部長の星尾」
「なるほど。BsとEね」
 マサキにとっては馴染み深い。今日もちょうどBs相手に勝って六カードぶりにカード勝ち越しを決めていた。
 マサキには「Bs」は「オリックスバッファローズ」以外に思いつくものがなかった。
「どういうことです?」
「プロ野球はみない?」
「結果くらいはチェックします」
「どこのファンとかある?」
「巨人だけど」
「ああー、そこか、そこいくか」
 巨人ファンと聞くと「坊やだからさ」と言いたくなる。要するに。
「Eはイーグルス、楽天イーグルスとオリックスバファローズで以前監督をしていた人間、星野と岡田」
 巨人ファンであることを揶揄されて嫌な顔をしたまま、幸雄もなるほどと頷いた。
「じゃあ、大魔神は?」
「野球関係で大魔神と言ったらハマの大魔神佐々木でしょ」
「!」
 友の顔が浮かんだ。否定し、打ち消す前に、彼女と友と「レイプ」が結びついていた。

 扇風機に慰められるようだった。
 扇風機が首を振り、幸雄の左半身に当たる風に、心のもやが流れる。立ち込める湯気が飛ばされる。
 湯気はすぐに内側を満たす。エントロピーの大きな湯気の向こうに、美穂の裸の背中が霞んだ。
「ちょっと……」
 幸雄の言葉は続かない。マサキの心は無駄に熱い。
「知り合い、同僚か。佐々木という、男」
 最後の一言は言うまでもないことだ。
 というか、全部「言うまでもない」ことだった。
 本人が言い淀んでいる。他にも会社に「佐々木」はいるかもしれない、マサキの推理自体が間違っている可能性だってある。言うまでもない。
 それが「外傷的」であったことは、幸雄の様子を見ていればわかる。
「どちらが」より外傷的であるか、マサキは本で読んだことを幸雄に告げるべきかどうか、迷った。
 ――今はまだそのタイミングではないだろう。
 自分で言葉を探している「大人」の男に、軽々しく言葉を与えることなど慎むべきだ。
「生理がこない、妊娠はしてないみたい、って……」
 レイプから一ヵ月半ほど、七月初めのブログ。
 様々な想像が頭を、体中を駆け巡る。内側を蹂躙する。
 彼氏の衝撃は余人が察するに余りあり過ぎる。
「落ち着け」という言葉はすぐに浮かんだが、それを男にかけることはできなかった。
「以前にも生理不順なんかはあったげかい?」
 決してベストなセリフとは思われない。黙って考え込ませてはいけない。そんな警告が働いたかもしれない。
「聞かないことはなかった、仕事が忙しかったりすると……、付き合い始めてから、一度、二回くらいあったかもしれない」
 搾り出すように答えた。あるいは、己の理性を保たんがための防壁、儚く脆い砂の防壁を震える手で泣きながら積み上げるかのような……。
 マサキが黙ったのは、言葉がなかったから、だけではない。
 幸雄の「付き合い始めて」に対する嫉妬、ささやかな復讐心もあったに違いない。
「確認、か……」
 まるで、ドSな天使に言わされでもしたような、幸雄の言葉だった。それが何を意味するか、本人もちゃんと理解できていないだろう。
 マサキの右腕で汗が玉になっていた。扇風機の置き場所を見直さなければならない、そんなことを考えていた。
 そもそも、エアコンを買い替えなければならない。さもなければ、夏はこの部屋でエッチなことなどできないから。

 外の爽やかさは予想以上だった。まるで満月のような十六夜月が夜気を清らかに洗っていた。
 斜めに差し込む光が、車のボディを、家の壁を、屋根を、道路を銀色に照らす。
 吸い込んで、澱のような溜息を吐き出した二人。
 足元の影を見ながら、虫たちの鳴く中を、二人、非契約駐車場まで歩いた。
「学生時代の美穂って、どんなでしたか?」
「可愛かったよ。でも、全然お高い感じじゃなくて、男からも女からも好かれてた」
 男から女からも好かれてた。それはえてして「男から見たら」ということだが。
「へぇー」
「飲みにいって、下ネタなんかも全然話せるし。けっこうSな部分があったな」
「ああ、わかります」
「バイトのいじられキャラの先輩とかにも容赦なかったからね」
「わかります。しつこいっすよね」
 幸雄は、少し笑っていた。マサキの声も明るかった。
 月が、二人を後ろから照らす。二人は影に話しかけていた。
 
 戻ってきて部屋に入った瞬間、吸い込んで、思い切り吐き出した。
 さっきまで二人で座っていたちょうど真ん中、「二人の影」を半分づつつぶすような位置に腰を下ろした(普段の位置)。
 美穂のブログを改めて読み直す。
 ――〈レイプ〉に〈妊娠〉か……。
 自分の付き合っている彼女が、もしこんなことで悩んでいるとしたら……。
 マサキの想像力とそれに伴う「苦」が、果たして「リアル」にどれほど近づけているのだろう。
 加えて、友だちが関わっているかもしれない、とは。
 ――ひょっとして葬儀のとき一緒にいた彼奴(キャツ)か……。
 見た感じ、仲良しになりたい類の人間ではなかった。
 敷き伏せられる前の幸雄と同じ、あるいはもっとキツイ「社会人臭」を嗅いだ気がする。
 改めて、美穂がいかに(息)苦しかったが偲ばれる。
 幸雄は、果たしてここに出てくる「名前」を一通りでも全部見ただろうか?
 ノートに書き出すと、ブログを閉じた。写真の分析などはまだ全くしていない。
 ――やはり、トシに助けを求める必要はあるのだろう。
 美穂の問題に一先ずそれでケリをつけ、少し前に古本屋で買ってきた『総合日本史近代③』という資料集を開いた。
 一九〇七年、夏目漱石の『虞美人草』は発売一ヶ月前に予告が出た頃から大いに話題になり、デパートでは虞美人草浴衣を売り出し、また虞美人草指輪なんぞが現れ巷を賑わす騒ぎだった、という社会現象。売れっ子小説家。
「そうか、頑張る理由が一つ、なくなったのか」
 夏休みだろうか、隣の大学生は最近部屋にいない。
 アパートの二階に一人きりだと思うと、テレビをみながらゲームをしながら、何かと独り言が多いような今日この頃だった。
 日曜日も仕事だ。

 日曜日、茶色いアパートの二〇一号室には三人の男が、卓の一片に身を寄せ合うようにして座っていた。
 不快な部屋で、男三人、暑苦しさはなおのこと……。

 幸雄のもとにマサキから電話がきたのは夕方の六時過ぎだった。
 写真を調べるのにトシの力を借りようと思う、ついては、幸雄にも立ち会って欲しい、ということだった。
「なるべく、あなたがいないところではやらないつもりなんだが」
 幸雄が「自分は見たくない」と言うなら、こっち二人でやらないこともないが。
「いきます」
 即答した。
 率直に、自分以外の二人で写真を調べることについて、許し難し、ということはななかった。なぜだか。あの写真が例え本物だったとしても。
 各自夕飯を済ませ、八時過ぎに集合しようということだった。
「わかりました。じゃあ、また後で」
 静かになった電話をじっと見つめた。
 そもそも、こちらからいくつもりだった。朝からラインか電話か、何度も連絡をつけようと思いながら、その一押しができずにいた。
 ――ここに至ってもまだ決心がつかない、一歩を踏み込めない。情けない……。
 美穂の苦しみを知りたい、遥かに遅いけど、苦しみを共有したい。
 共有するためには彼女に近づく必要があるが、感情に呑み込まれないためには遠ざかる必要がある、というアンチノミー。
 真剣になればなるほどパラドクスの袋小路にはまっていく。
 しかし、今の幸雄には自己をそれほど真剣に突きつめ続ける精神力はない。
 一人では無理だ。
 今の幸雄は、一人ではない。二人、いや、三人で向き合うことができれば……。

 無為に過ごした日曜日を取り返すように、幸雄はブログと写真に向き合った。幸雄を真ん中に、左にトシ、右にマサキが座る。
 まずはブログ。昨日はいきなり〈レイプ〉と〈妊娠〉に引っかかって、それでいっぱいになってしまった。
 いくらか落ち着いて、ある程度心の準備もできた上で、改めて読むと、やはり、幸雄にとってはつらい内容が多かった。
 美穂が弱気になり、強気になり、自暴自棄になり。
 彼女の感情が激しく揺れ動く様が、このブログからよくわかる。
 どれほど彼女から逃げていたか、自分可愛さに目をそらしていたか、打ちのめされるようだった。
〈旦那にしわよせがいくぞ。〉
 言われたらしい。
「旦那」とは幸雄のことだろう。
 幸雄が仕事を頑張ることが、彼女の枷になっていた……。
 セクハラのこと。E、Bs、大魔神。幸雄がプロポーズしたときのことも書いてある。
 ここでは、ちゃんと読むことはできない。こんな、変に暗い部屋では。
 この画像はスマホに送られてきたものなのか。パソコンの方にも送られてきていたかもしれない。
「〈オッハー〉は会社の人間ぽいな」
 幸雄が言いながら、頭の中に会社で美穂とよく一緒にいた友だちを思い浮かべた。特に、幸雄も何度か話をしたことがある女性のこと、名前、部署など。
 それらの中に〈オッハー〉がいるのかどうか。
 ――もう一人、ジョーさんて……。
 〈周ちゃん〉という、ジョーさんに思いを寄せる女性がいる。
 ジョーさんは男か。学生のころ一緒に遊んだことがあり、それがとても楽しかったようで、最近久しぶりに会って何度か相談していたらしい。
 文脈から、どうも会社の人間に思えない……。
「あの、この〈ジョーさん〉て」
 トシがマサキの顔を見て言った。幸雄も同じく。
 マサキ、二人の顔を見返すが、リアクションせず、パソコン画面に顔を戻す。
「俺だ」
「え?」「え?」
「〈ジョー〉、俺のことだ。学生時代、仲間内ではそう呼ばれてた」
 ――やっぱり。
 トシと幸雄がお互い顔を見合った。
 楽しい思い出話もあるだろう。却って、二人に悲しみを連想させた。二人が理由を尋ねることはなかった。
 ブログを先に進める。
 五年前、星尾と岡野の部下でセクハラが原因で退職に追い込まれた女性がいた。その女性が「ワイルド」。
 美穂は彼女に会っているようだ。
「心当たりはある?」
 マサキに言われなくても思い出している。
「噂はなんとなく。名前とか詳しいことはわからない」
「この女性とつなぎがつけられればいろいろわかるかもしれないな」
「どうかな。会社のタブーだからな。情報と言っても噂程度だと思う」
 加害者「二人」のことについては当時散々に裏で非難しバカにしていた。表立って訴えるとかいう話もなかったように記憶する。
 正式に処分が下るということもなく、やつらの報いは周りから「そういう目で見られる」ということだけだった。
 哀れな女性被害者のことは、努めて気にしていなかったように思う。
「『タイヤ』、こいつが一番の問題らしいな」
 最後のほう、まるで〝悪の元凶〟のように書かれている「タイヤ」。
「五年前噂になってたのは上司二人だけだ。実はもう一人からんでいたのか」
 犯人は三人ではなく、もう一人いる。
 前日金曜日、体を餌に、「タイヤ」をホテルに呼び出した。しかし、殺せなかった。
 ――誰だ、このクソは!
 上司二人と佐々木、それ以上に腐った人間が、自分と同じ会社にいる。
 人殺しを決意させるところまで彼女を追い込んだ人間が、会社にいる!
 ポン、と右肩に手が乗った。怒りで震えるようだった幸雄を、マサキの掌がなだめた。
 ポンポン、軽く二回、手が離れた。
「開いていいですか?」
 トシがしかつめらしく二人に確認をとった。
 一昨日、彼女の家で見たハメ撮り写真を開いた。
 顔、首を中心に拡大して不自然な場所を探す。
 表情に「整形」の跡はないか。結果、ブラックライトで浮かび上がるようなお粗末な整形手術の痕跡は見つからない。
「どうしますか」
 と、またしても真面目くさってトシが言った。かばんの中からCDを出す。
 この中に入っているソフトを使えば、写真が加工してあるかどうかデータ的にわかるという。
「整形を裏付けるため」に使うのが理想的だろう。 
 パソコンを「俺が預かる」と言っておきながら、マサキは決断できない。「そんなソフトがあるのか」と時間稼ぎで言ってみる。
 幸雄もイエスは言わない。
「もう少し調べてからにしよう。俺が後で全部調べる。それから、使おう」
 トシがCDを自分のカバンにしまった。
「必要なときは言って。また持ってくるから」
 三人が三人、それぞれに苦々しい時間だった。
 マサキが白いタオルで腕や首、顔の汗を拭いた。一番右、扇風機から一番遠くに座っている。扇風機の場所、変えるの忘れてしまった。
 幸雄とトシは手巾(ハンカチ)で汗を拭いていた。
 ――こんなときこそ「ニルアドミラリィ」であるべきだな。
 ニルアドミラリィ。または「ニヒルアドミラリィ」。
 森鴎外『舞姫』に出てくる言葉。ラテン語で、外界から超然とした冷ややかな境地を表す。
 今の状況から最も離れた境地と言っていい。
 そういえば、「ニヒル・アドミラリィ」が好きとか言ってた男が、近くにいたっけな……。
「後で」と言いながら、もう二枚ほど写真を拡大して調べてみた。
「なかなか上手に加工してあるね。よほどのオタク野郎だ」
 額に汗などして、珍しく神経を使っている様子。
「この写真が加工してあるとしたら」という前提を、トシは省いていた。
 三人の溜息が、扇風機の風に乗ってマサキの顔に吹きかかった。

 夜十時を回った。二人の顔色を無視しつつ、マサキにはもう一つ調べたいことがあった。それはすぐに頓挫した。
「このPCのメールアドレスってヤフーでしょ」
 幸雄のスマホには美穂のパソコンのメアドも入っていた。それを見ながらトシが説明する。パスワードがわからないと、受信メールは確認できない。
「再発効するにしても、再発行されたのはこの受信箱に届くか秘密の質問に答える必要があるし」
 このPCの中にメモされてる可能性もあるけど、それを探すなら。
「いっそまた実家にいって、最初に送られてきた通知を探したほうが早いかもね」
 きっと保管してあるでしょう。幾分気楽げに言った。
「メールが出れば相手が特定できるか?」
「クソ男のアドレスがわかっても、個人情報までは普通わかんないでしょ」
「だから、できるか、と聞いている」
「先輩、たまに無茶言いますよね。無茶もするけど」
「それって……。トシくん、そんなことできるの?」
「できないっすよ。普通に犯罪だし」
「いまさら」
「法に触れるようなことはしてない! あんまり」
 声の調子は強いが、表情に必死感はない。
 トシはトシで、いろいろ〝被ってる〟ものがあるのだろう。余人には知り難いが。
「わかってるよ。できる範囲でいいから。お前が捕まるとわたしにまで捕吏の手が回ってくる可能性がある。わたしだって、塀の中で懲りない面々をネタに小説書く気はないからな」
 まずは彼女の部屋を探索してからだ。
「コユキって幸雄さんのことっすか」
「うん」
 はっとした。はっとして間髪入れずに返事が出てしまった。
 その言葉は、今は自分のことではなく美穂のことを言われているように感じた。
「そっか、美穂さんも『グッドモーニング・ペイジ』好きだったんすね」
「俺も美穂に言われて読んだけど、はまった。バンドとか全然興味なかったけど、二人で街中のライブハウスにいったりしたな」
『グッドモーニング・ペイジ』という、ロックバンドに青春をかける若者たちの成長を描いた人気漫画。実写映画にもなった。
 ポンとマサキが『ペイジ』の漫画をパソコンの前に置いた。幸雄が何気なく手にとって読み始めた。
「彼女がコユキて呼びたい理由が、この漫画読んでわかったよ。俺は歌うまくないし、キャラも違うから正直戸惑いはあったけど」
「美穂さんの部屋に置いてありましたっけ?」
「いや、ないんだよね。学生の頃友だちのところで読んだって言ってた」
「へぇー。彼氏じゃないっすか」
「あくまでも友だちだって言ってたよ。あいつに彼氏がいないわけなかっただろうけど、美穂がそう言うなら、たぶん友だちだろう」
 トシもそれ以上食い下がらなかった。
 美穂のパソコンでネットワークを開き、ヤフーのトップページからメールボックスに入ったり、いろいろいじったり。マサキも、じっとそれを見ていた。
 ――言いそびれてしまった。
 言ったところでやましいものがあるわけではない。気まずさと悲しさがちょっと増えるくらいなものだろう。
 マサキも幸雄のスマホを見ながらアドレスを入れて、またパスワードを試してみたが、やはりエラーを解除することはできなかった。
 もとの動機の割りに、部屋にはどこか長閑な空気が流れていた。まるで学生時代の夏休みのような……。
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