第3話
文字数 964文字
ボクは運転する車の中で、今日のことを若宮さんへ問いただす。
「あの黒田って何なんですか! 今、受けてる依頼って何ですか!?」
ボクの剣幕に呆れたのか、若宮さんはしょうがないなと言う声で教えてくれた。今回の依頼人は警察関係者の上層部の人物で、自分の孫娘を盗撮した「盗撮犯の特定」を依頼してきた。警察の上層部なら最優先で捜査してもらえばいいんじゃないんですかと聞くと、公私混同をしない真面目なめずらしい人物で、被害届は出しているが自分の職権を乱用することなく、自費で若宮さんへ依頼をしてきたそうだ。
盗撮はデリケートな問題なので、一人で調査をしていたこと。黒田は昔からの知り合いで、たまたま調査中に会い、たまたまお店の騒動を発見し、そしてたまたま中年男性が若宮さんの調査対象者だったのだと言った。
「すべては偶然のたまものだね」
運転しているので見えないが、助手席からカコカコという音が聞こえる。おそらく自分の鞄から桐箱に入った大きめのこんぺいとうを取り出し、口の中で転がしているのだろう。ずい分とご機嫌だ。
犯人はフルムーンで無事逮捕され、依頼は解決した――が、ボクにはどうも納得がいかないことがある。犯人が逮捕されたのは喜ばしいことだ。ただ……あの若宮さんが、加害者を警察に引き渡して終わりにするなんてことあるのだろうか。それにあまりにも「たまたま」が重なりすぎて不自然じゃないか。
どうにも納得がいかない。納得はいかないが、加害者がボクの目の前で逮捕されたのも事実だ。納得のいかないまま運転をしていると「しかし、ね」と、若宮さんは続ける。
「今回の加害者たちは被害者女性たちのことを『ウサギちゃん』と呼んでたみたいなんだけど……」
自分はあくまで捕食する側で、女性たちは捕食される側だという、おかしな優越感から出た言葉だろう。どこまで女性を馬鹿にするつもりなんだ。ボクが不愉快に思っていると、若宮さんは不思議な言葉を口にした。
「ウサギの後ろにいるのが、ウサギだとは限らないよね」
どこか楽しそうな声でそう言い、若宮さんはがりっとこんぺいとうをかみ砕く。ウサギの後ろが何かわからないままボクは、ただ安全運転を心がけて家路につくことしかできなかった。
そして翌週、ボクは知ることになる。
若宮さんは、やはり若宮さんだということを――。
「あの黒田って何なんですか! 今、受けてる依頼って何ですか!?」
ボクの剣幕に呆れたのか、若宮さんはしょうがないなと言う声で教えてくれた。今回の依頼人は警察関係者の上層部の人物で、自分の孫娘を盗撮した「盗撮犯の特定」を依頼してきた。警察の上層部なら最優先で捜査してもらえばいいんじゃないんですかと聞くと、公私混同をしない真面目なめずらしい人物で、被害届は出しているが自分の職権を乱用することなく、自費で若宮さんへ依頼をしてきたそうだ。
盗撮はデリケートな問題なので、一人で調査をしていたこと。黒田は昔からの知り合いで、たまたま調査中に会い、たまたまお店の騒動を発見し、そしてたまたま中年男性が若宮さんの調査対象者だったのだと言った。
「すべては偶然のたまものだね」
運転しているので見えないが、助手席からカコカコという音が聞こえる。おそらく自分の鞄から桐箱に入った大きめのこんぺいとうを取り出し、口の中で転がしているのだろう。ずい分とご機嫌だ。
犯人はフルムーンで無事逮捕され、依頼は解決した――が、ボクにはどうも納得がいかないことがある。犯人が逮捕されたのは喜ばしいことだ。ただ……あの若宮さんが、加害者を警察に引き渡して終わりにするなんてことあるのだろうか。それにあまりにも「たまたま」が重なりすぎて不自然じゃないか。
どうにも納得がいかない。納得はいかないが、加害者がボクの目の前で逮捕されたのも事実だ。納得のいかないまま運転をしていると「しかし、ね」と、若宮さんは続ける。
「今回の加害者たちは被害者女性たちのことを『ウサギちゃん』と呼んでたみたいなんだけど……」
自分はあくまで捕食する側で、女性たちは捕食される側だという、おかしな優越感から出た言葉だろう。どこまで女性を馬鹿にするつもりなんだ。ボクが不愉快に思っていると、若宮さんは不思議な言葉を口にした。
「ウサギの後ろにいるのが、ウサギだとは限らないよね」
どこか楽しそうな声でそう言い、若宮さんはがりっとこんぺいとうをかみ砕く。ウサギの後ろが何かわからないままボクは、ただ安全運転を心がけて家路につくことしかできなかった。
そして翌週、ボクは知ることになる。
若宮さんは、やはり若宮さんだということを――。
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