第1話(3)

エピソード文字数 2,874文字

「ふう。いよいよ、だな」

 午後9時59分。俺は、客間の和室で唾を呑み込む。
 もうすぐここに、伝説のプリーストさんがやってくる。

「はー。緊張するなぁ」
「にゅむっ。そんな時は、あれの出番だよー」

 レミアは胸先で両手をキュッと握り、ニパッ。そのあとやや前傾姿勢になって、身体を前後に揺らし始めた。

「んん……? アンタ、何するの?」
「HEY! 心音落ち着け、クールになろう! シンドン餅つけ、くるる煮やろう!」

 何するの? の答え。彼女はいつぞやの、韻を踏んでるだけのド下手なラップを披露してくれた。

「あのね、ゆーせー君。『くるる煮』とゆーのは、シンドン地方に伝わるお餅を使った伝統料理(でんとーりょーり)なの」
「これから来るプリースト先生は、その地方の出身なが。レミア先生っ、それを組み込むなんてやるにゃぁ!」
「ぇへへぇ。実は最近、ラップの才能(さいのー)があると思ってきたんだよー」

 ほっぺを掻き、はにかむレミア。
 うん。コイツは一遍、ラップ関係者にタコ殴りにされるといい。

「次は、私の番ね。さあ従兄くん、思う存分太腿を撫でて――」

 パァァッ
 目の前に、茶色の魔法陣が現れた。
 これは、ええそうですね。ナイスタイミングと言わざるを得ない。

「ついに、伝説のプリーストさんのお出ましか。そういやどんな方なの?」
「師匠、前方に注目ぜよっ。その人は茶操(ちゃそう)ユニ先生18歳で、こんな容姿をしちゅうがよ!」

 魔法陣がピカッと茶色に光り、待ち人が顕現する。俺にとって四人目の英雄、茶操さんという人は――


 身長は、165くらいだろうか。その体躯からはピンク色の体毛が生え、頭からは真上にピンと2本の耳が伸びている。そして全体的にモフモフとしており、幼き日に行った遊園地を想起させる。


 まー端的に言うと、兎のキグルミが登場しました。
 でも、やはり珍妙人間集団の一員ですね。一味違います。

『優星、こりゃ酷い。皆様にもお伝えしてやれ』

 オッケー謎の声。
 あのですね皆様、このキグルミは『目』がヤバいんですよ。左目が右斜め下、右目が左斜め上を向いてるの。しかも白目の部分が真紅で、ガンガン狂気を醸し出しているのでございます。
 どうですか? ヤバい、でしょう。ヤバいですね。

(お、おいシズナ、怖いよ超怖い! なんだよあれ! なんでキグルミ着てるんだっ?)

 俺は、慌てて変人の耳に口を近づける。あの人どうなってんの!?

(ユニさんは、『キグルミ族』――キグルミを洋服にしている一族なのよ。変な人ではないから安心して)
「やっほーだミョーン! こんばんはだミョーン!」

 茶操さんはぴょんぴょん飛び跳ね、「ミョミョミョミョミョ!」と高速で笑う。
 へん、だなぁ。俺の世界だと、これは『変な人』に属するんだがなぁ。

(キグルミ族の人は、着ているキグルミの性格になってしまうの。これは、『二足歩行(にそくほこう)ウサギ』の性格よ)

 口元をヒクヒクさせていると、シズナが補説してくれた。
 ああ、そういうこと。所謂なりきり状態なのね。

(二足歩行ウサギは『地獄楽々天国(じごくらくらくてんごく)パーク』という遊園地の、イメージキャラクターなの。なお二足歩行ウサギを着用できるのは一族内で一人という、名誉ある一着だそうよ)
(地獄楽々天国パーク略して『テンパ』は、一部の人先生に大人気だったが。なんでか去年、閉園しちゃったがやけどね)
(なんでか、じゃねーよ。好き嫌いがハッキリ別れるから潰れたんだよ)

 これ、尖り過ぎ。子供が見たらトラウマになるぞ。

(しかしなぜに、そんなトコのキャラクターが名誉ある一着になってんだ? 選考理由はなんなの?)
(たしか、一番ゴーイングマイウェイだから、だったよっ。己の道を突き進んだ勇気(ゆーき)に乾杯、って教えてもらったのー)

 キグルミ族、その結果廃園なんだからダメだろ。いやまー、文句は言わんけどさ。

「ミョミョミョミョミョミョミョっ、内緒話ミョーン? 我(われ)も混ぜて欲しいミョーンっっ!」

 二足歩行ウサギの一人称って、『われ』なんだ。己の道、進みまくってんなぁ。

「えっと、ミョン星クンだったミョン。ミョン星クン、仲間に入れてミョーン!」
「俺は優星っ、色紙優星だ! 奇妙な名前にするんじゃない!!
「おっと失敬だミョン! では名前修正を記念して、こっちも自己紹介をするミョーンっ!」

 茶操さんは突如万歳をし、ガバッッ。俺をハグした。

「我は二足歩行ウサギであり、茶操ユニでもある『ドールマスタープリースト』の少女だミョーン! お気軽に、ユニと呼んで欲しいミョーン!」
「は、はぁ」
「年上だからって、敬語にしないでミョーン! 素のキミを見せてくれだミョーン!」
「は、はぁ……」
「ミョミョミョッ! 肌と肌との触れ合いアーンド心と心の触れ合い、完了だミョーン! 我と優星クンは、もうミョンダチだミョーン!」

 てってれー ゆうせい は うさぎと みょんだちに なった。

「師匠、ミョンダチは友達と同義ぜよ。そういえばミョンダチになると、なんでか四回、二足歩行ウサギ先生に食べられそうになる夢を見るがよねぇ」
「よーしこの話はここまでだ。ユニ、本題に入ろう」

 俺は聞か猿になって、次のステップに進むことにした。もちろん心の中で、ミョンダチを解除しつつ。

「本題といえば、バリアーを御所望だったミョーン。優星クン、間違いないミョン?」
「間違いないミョン」

 ミョンミョン言うから、妙な語尾がうつってしまった。もう嫌だミョン。

「確認、しましたミョンっ。ではオフは一日しかないコトだし、早速試験を始めますミョーン」

 ミョン子は綺麗な装飾が施された白い杖を出し、カランカラン。上手く掴めず、畳に落ちた。

「その手、モフモフしてるもんなぁ。ほいどうぞ」
「拾ってくれてミョンキューだミョン! ……ではでは気を取り直して――カランカラン、とはならないミョン」

 杖をしっかり握り、得意げに俺の方を見てきた。
 これはドヤる程のことじゃないんだが、どうでもいいんで「ぱちぱちー」と反応してやった。はいはい偉い偉い。

「ミョミョミョミョミョ! 我は、同じ過ちは犯さないんだミョンっ!」
「はいはいはいはいそーですね。そーだから、はよ先に進んで」
「ミョミョ! さーさープリースト神サンっ、試験内容を発表してミョーン!!

 彼女が杖で∞を7回描くと、杖が発光。得物の先端にある真白の水晶に、ふわりと文字が浮かび上がった。

「にゅむむん、それが内容(ないよー)なんだよねー? ユニちゃん、どーなってるのっ?」
「発表しますミョン。優星クンに与えられた試練は…………」

 俺は与えられた、試練は?

「なんと」

 なんと?


「茶操ユニを、漫才やギャグなどで大笑いさせる。だミョン!」
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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