第10話 アナの供述

文字数 1,021文字

「ジョンは、私のジョンはね、かわいそうな子なんです」

 ジョンの母親であり少女誘拐の実行犯でもあるアナは、取調室の中でさめざめと涙を流した。

「あの子の父親はひどい男でね、酒に酔っては私のことを殴りました。そしてジョンがまだ赤ちゃんだったころ、ええ当時は2歳になるかならないかでしたのよ、それはもう小さくてかわいくて。そんな子を置いて、ある日どこかに出て行ったままそれっきり。いまじゃ生きてるんだか死んでるんだか。だからあの子は、父親の愛情を知らずに育ったんです。だからそのぶん私が、ジョンをしっかり見守って、そりゃあもう大事に大事に育ててきたんですよ!」

 アナはティッシュを取り出し鼻をかんでから続けた。

「おかげさまでジョンは、ご覧のとおりスクスクと優しい子に育ちましたわ。そうなれば当然のことながらお嫁さんも必要になりますわね、いまやどこに出しても恥ずかしくない、立派な青年になったんですもの。だから私はジョンにふさわしい、穢れのない嫁をと思ったんです。ほら今どきの若い娘ときたら、ねえ、刑事さんならもちろんご存知でしょう? ほんとにふしだらな女ばかりで、ねえ」

 同意を求めるような顔をして、アナはいったん言葉を切った。だが相手が眉ひとつ動かさないのを見ると、あきらめてまた続けた。
 
「とにかくね、あの子、ジェシカなら、ジョンにふさわしいと思ったんです。食事も与えたし身体も私がていねいに拭いてやったんですよ? ジョンが

使

後には毎回かならず。まあ逃げ出されたら元も子もないので外を散歩させたりはしてないですけどね。そこはちょっと不自由だったかもしれませんけど、ジョンも私もあの子をかわいがっていたんですよ? 本当ですとも。それよりも、ねえ、刑事さん、ジョンはいまどうしているんです? ちゃんと食べさせてるんですか!? あの子は野菜ぎらいでね、だからスープに細かく切った野菜を入れてよく煮込んでやらないと食べないんですよ。それにあの子は、こんなゴワゴワした素材の服も嫌がるはずです。もっとソフトな感触のものにしてもらわないと。ねえ、刑事さん、ちょっとだけでも会わせてくださいな、顔だけでも見せて。ねえ、刑事さん、ジョンに、ジョンに会わせてよ! こんなのひどいじゃない! ジョン! ジョン! ジョン! どこなのジョン、ママはここよ! ジョン!」

 独房に連れて行かれカギをかけられてからも、アナは扉を叩きながらジョンの名前を大声で叫びつづけた。
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