安倍清明の転生術

文字数 2,478文字

 自衛隊の汎用偵察ヘリ≪シャドウスキル≫は、福島沖に停泊している潜水空母≪黄龍(こうりゅう)≫に帰還した。

 旧日本海軍の伊四〇〇型潜水艦をモデルとして、自衛隊内の≪天鴉(アマガラス)≫メンバーが五星工業に秘密裏に発注したもので、10機の偵察および特務ヘリと10機のスタンドウルフ型次元潜航艇を搭載している。
 潜水艦といっても光子波動エンジンを搭載しているので、大気圏内のみならず、宇宙空間でも作戦行動可能な宇宙船でもある。

 安東総理は潜水空母≪黄龍(こうりゅう)≫の中心部にある特別室のベットに仰向けに横になった。
 どっと疲れが来る。 

 あの惨状を目にして、自分は今まで何をしていたのか、深い後悔に沈んでいた。
 もっと自分に力があれば、何とか最悪の事態を回避できたのではないか。
 父親である政治家の安東龍一郎への反発で無駄に過ごしてしまった青春時代を恥じてもいた。
 閉じた双眸に、悔し涙がにじんでこぼれた。
 
 しばらくそうしていた安東要はいつのまにか眠りに沈んでいった。


 
      †



 夢の中で、幼い頃、よく通って遊んでいた名護屋の清明神社に安東要はいた。
 987年(寛和3年)頃、京都の政変によって安倍晴明がこの地、尾張国狩津荘上野邑(現在の愛知県名古屋市千種区清明山1-6)に流されて在住していたらしい。数年後に京に戻ったと伝えられている。
 
 その時、周辺の村人達がマムシの害に悩まされているのを見て、晴明がマムシ退治をしてくれたという伝説が残っている。
 時は流れて、江戸時代の1778年(安永7年)に再びマムシの被害があって、その際、晴明を祀る(ほこら)を建てたら、とたんにマムシの害がなくなったという。

 戦時中に陸軍の兵士が(ほこら)を移設しようして高熱になったり、戦後、県営清明山住宅の建設で(ほこら)を撤去後、二度の事故が起こるという怪異が続いた。この辺りのエピソードは関東の平将門の首塚のエピソードと似ている。
 1967年(昭和32年)に県営清明山住宅完成後に、祟りを怖れた入居者達が本殿と鳥居を建てて今の晴明神社になったという。
 
 安東要は本殿の前で思わず手を合わせて今後のことを祈った。
 京都の晴明神社ほど立派ではないが、賽銭箱や提灯(ちょうちん)、石灯籠、垂れ幕などに朱色の五芒星が描かれている。安倍清明ブームのためか何とも派手な神社である。

(安東要、おぬしの願いを叶えてやろうと思うが、どうだ?)

 いきなり、天から声が降ってきた。

「まさか……、安倍晴明さまですか?」
 
 安東要は思わずそんな言葉を発した自分自身に驚いた。

(なかなか勘がいいな)
 
「あの、願いを叶えるというのは?」
 
(わしの転生術で、おぬしを過去に送り込んで東日本の悲劇の歴史を改変する手伝いをしてやろうということじゃ。どうする?)

「いや、転生術というのは、私は一度、死ぬことになるのですか?」

(そういうことじゃ。その覚悟はあるか?)

「そうですね。それが叶うなら、私の命など惜しくはありません!」

 思わず声が大きくなっていた。

(では、そうしようか)

 心の準備をする暇もなく、安東要の意識は再び闇の中に沈んでいった。



      †

 

 気がつくと、安東要は新宿のフルーツショップの側に立っていた。
 
 ケータイを見たら、2011年3月1日の火曜日のAM11:30である。
 何となく記憶をたどると、この日は女の子とデートしてたような気がする。
 ランチの待ち合わせだよ、確か。

 ちょっと待て。確か夢の中で安倍清明が出てきて、過去に転生させてやるとか言ってたよな。
 自分は一体、『だれに』転生したんだ?

 安東要あわてて駅のトイレに駆け込み鏡を見た。
 若い24歳の安東要自身がそこに映っていた。

「ええ!」

 思わず、小さな叫び声を上げてしまう。
 転生といえば、何かこう魔法使いとか、勇者とか、魔王とか、特別な能力がある人間に転生するものだと思っていた。ラノベの読みすぎだが。

 平凡な何の特殊能力もない、若いだけの自分自身に転生するって、それって、ただのタイムスリップじゃないのか?

 2011年3月1日の東日本大震災が起こるわずか10日前とか、時間なさすぎだろう。
 10日でどうやって歴史を変えるんだ?

(まあ、落ち着け。それはわしがこれからゆっくりと話してやろう)

 脳の中に声が直接ひびいいた。

「安倍清明さま? いや、音声ナビゲートつきですか?」

(そうだ。親切だろう)

 確かに親切だけど、何か違うような気もする。

「それで、これから何をすればいいのですか?」

(そうだな。最初のミッションは、この後にデートする彼女の心を掴むことじゃ!)
 
「はぁ? ちょっと待ってください。それと東日本大震災を防ぐことに何の関係が?」

(東日本大震災が起こった原因、正確には、防げなかった理由の25%はおぬしが彼女に振られたのが原因じゃ!)

「え? 何をおっしゃるんですか、清明さま」

 安東要は晴明の発言にしばし呆然となった。

(浅はかよのう。わしの千里眼にははっきりと運命の糸が見えているんじゃ、信用せい!)

「いや、そんなこと言われても、自信がないですよ。デート経験少なくて……」

(そんなことはお見通しじゃ、心配するな。わしが今から『超デート理論』を授けるから安心せい!)

 どこかのドラマとか、恋愛本で聞いたような『超デート理論』が出てきた時点で、超不安になってきたんですけど。   

「分かりました。仕方ないので、頑張ってみます……」

 安東要はこのインチキくさい安倍清明と名乗る声の主に疑いもあったが、ともかく、ここは流れに任せてみることにした。

 しかし、デートと東日本大震災が起こった原因に何の関連性があるのか、その時の安東要には知る由もなかった。
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登場人物紹介

 安東要(あんどうかなめ)


 東日本大震災後、名古屋に新政府を移し復興に務める若き民政党の総理。
 陰陽師、安倍清明の転生術で35歳→24歳に転生し過去に戻り、東日本大震災を防ごうと悪戦苦闘する。

 月読波奈(つくよみはな)

 通称≪ブスメガネ≫。今時、珍しい牛乳瓶の底のような丸いメガネをかけている。
 安東要が通う名門大学のラノベサークルの後輩で大学二年生の20歳である。

 安部清明(あべのせいめい)

 名護屋の清明神社で安東要の前に現れ、東日本大震災を防ぐという願いを叶えると約束する。

 神沢優(かみさわゆう)


 公安警察、秘密結社<天鴉(アマガラス)>のリーダー。

 メガネ君


 巨大小説投稿サイトのバイトリーダーメガネ君。
 秋葉原で安東要たちの戦いに巻き込まれ、行動を共にする。
 ネットゲーム<刀剣ロボットバトルパラダイス>の人型機動兵器<ボトムストライカー>の操縦に長けていたため、オタクたちと大活躍することになる。

 織田信長(おだのぶなが)

 某戦国武将だが、秘密結社<天鴉(アマガラス)>の剣の民でもある。

明智光秀(あけちみつひで)

本能寺変後に死ぬはずが命拾いし、僧となり<天海>と名を改める。

ザクロ

メガネ隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の廃課金プレーヤー。
メガネ君と共に人型機動兵器<ボトムストライカー>を駆って活躍する。

ハネケ

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
金髪碧眼のオランダ人ハーフ。 

夜桜(よざくら)

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
黒髪に黒いくさび帷子を愛用。 

カトウ

神沢隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の微課金プレーヤー。
たまに出てくるがさほど活躍しない。

雛御前(ひなごぜん)

安部清明の式神衆筆頭、ミニスカ十二単衣の美少女。

猫鬼(びょうき)

雛御前の使い魔で猫娘姿のコスプレをしている。

犬神(いぬがみ)


雛御前の使い魔で狼男のコスプレをしている。

魔女ベアトリス

見かけとは違う、この世界をも滅ぼすほどの強大な魔力を持つ。
媚術を使って人を虜にし操る。

リカウド・バウワー

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の団長である。
めんどくさい性格でどこかユーモラスな所があるが侮れない力をもつ。

マリア・アドレラ

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の副団長である。
秘剣<十字剣>の使い手。

魔導師アリス・テスラ

時空間魔法を使うチート魔導師。

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