第10話「カイカみたいなツッコミ星人が行ってたらいまごろ灰になってたで」

文字数 2,587文字

~前回までのあらすじ~

寄り道をして、師匠に会いに来た山田。その師匠は魔術の研究に没頭するあまり、

それ以外のことはほとんど忘れてしまうという変わり者だった。

それで、用件はそれだけなのかな?
いや、まだあんねん。これもぶしつけな頼みで申し訳ないんやけども
手短にね
師匠が新しく作った魔法のメモとか薬がいくつか欲しいねん。

戦いになったら役に立つかも

いいよ。全部持っていっていい
そ、そんなには持たれへんなぁ。

えっ自分の研究成果やのに執着なさすぎちゃう?

なくなったらまた作ればいいんだよ。

隣の部屋にあるから好きなのを持っていくといい

はぁ、まあウチとしてはタダで物が貰えて万々歳やけどもね
そうかい。使ったら結果報告をしてくれよ
結果報告?
使った時間、場所、対象、使用前の状態、使用後の状態、使った理由。気温、湿度、風速、風圧、気圧。これだけ記録してくれればいい
…………努力はするわ。うん
あと、何を持っていったかも書いてもらう必要があるね。

たぶん明日になったら君が来たことも忘れてそうだから

それは「寝たらイヤな事全部忘れる」の進化系かもしれんな
それも興味深い推測だね。嫌な事とまでは行かずとも、

頭のなかで研究以外のことを「不必要な事」と分類し、

忘れてしまうように習慣づけているのかもしれないな

……なんで忘れるのかを研究したらどうですのん?
なぜ忘れるのかなんて、興味ないよ
その理屈やと「忘れること」も忘れるんちゃうん?

興味ない=不必要なんやろ?

ああ、だから机に「私は研究のこと以外忘れる」と書いてあるのか
……
って、ホンマに「忘れること」も忘れてるんかい!!

せやから先手を打って貼り紙しとんのか!!

毎回「なぜ覚えてないのだろう」と考えるのも面倒だったんだろうね。

大方何かの本で読んだ解決法を拝借したんだろう

うーんその本ウチも読んだことがあるような……まぁええわ。

とりあえず色々もらっていくで? メモ書きはしとくから

好きにするといい
(おっ、さすが師匠の研究や。とんでもないモンだらけやで!

 価格つけたらえらい値段になるやろなぁ。もうけもうけ♪)

(ん? 『脳以外の機能を独立させる薬』……。

『母体となった生体情報を遡って参照する薬』……。

 意味分からんわ。これ何の研究やねん

師匠、この『脳以外の機能を独立させる薬』ってなんなん?
話すと長いよ
フッ、ウチかて天才美少女やで。ちょっとくらい難しくても分かるよ
そうかい。

まず、脳髄は物を考える所にあらずという理論から着想を得たんだけど

ごめん、これ聞いても分からんやつやったわ。

前提がもう理解できへんもん

ああ、君はまだ脳で物を考えるという理屈に疑いを持っていないのか
それ疑いだしたら自分の存在すら疑わしいやろ。

あと微妙に「おっくれてるぅ~!」みたいな言い回しもやめてほしい

そうかな
ま、面白そうなもんはいくつかあったし。持てるだけ借りていくで。

ここにメモ書きしとけばええんやな?

そうだね。ところで今日は泊まっていかないのかい
先を急ぐからちょっと泊まってる余裕はないかな。

タダで宿に預かりたいところではあるけども

そうか。研究した理論について話し合いたいから

近々また戻ってきてほしいんだけど、いつ戻ってこられる?

うーん、あと数週間は戻ってこられへんかなぁ。

いつ戻ってきたらええんですかね?

300年以内に戻ってきてほしいかな
気が長すぎるやろ。どんだけ長生きする前提やねん。

そんなに待たんでも数ヶ月もあれば戻ってきまっせ

そうか。数ヶ月以内だね?
たぶんな。ウチに会うってことは貼り紙せんでええの?
なぜ?
忘れるかも
300年経っても覚えてるよ。気長に待っている
300年経ったらもう忘れて。っていうか300年生きるつもりなんや
今研究対象になっている内容をすべて完結させるまで

300年ほどかかる見通しだからね

あっそ……。なんか、師匠は初めて会ったときから

なんも変わっとらんな。外見も中身も。何十年も生きてるはずやのに

全く老けへんのが気にならんくなってきたわ

そうかな。そういう君は朦朧……朦朧? 

……ああ、堂々。堂々とした立ち居振る舞いになった

まあもう独り立ちしてるわけやしな。胸張っていかんと。

でも師匠に対しては謙遜してる方やねんで? ふざけたりせんし

以前は「鳥を召喚する」と意気込んで魔法を唱え、

間違えてトリモチを私の顔にぶつけて慌てていたものだけど

いや、師匠の顔べっとべとやったもん……すぐさま土下座したわ……。

師匠も身動き一つせず「面白い魔法だね」とか感心しとるし。

……って、なんでそんなことはいちいち覚えてんのん?

面白かったからじゃないかな
そんなんよりまず自分の名前とか覚えはったらどう?
自分の名前ほどどうでもいいものはないよ。いったい誰が私の名を呼ぶ
やっぱ忘れてるし。アネア・エアクオウでっせ。それは覚えとこ
初耳だね
嘘つけ! ……もうおいとまするつもりやねんけど、

なんか不安になってきたわ。大丈夫なん師匠?

問題ないよ。私が見る限りでは、私は正常だ
狂ってるやつはみんな自分のことを狂ってないって言いまっせ
たとえ狂っていたとしても、研究には何の支障もない
(――せやねんなあ。師匠ってこんな狂いそうなことしてんのに、

 ありえへんくらい冷静やねんな。何十年も毎日起きてから寝るまで

 研究してたら気が狂うやろ。もう狂いきって一周してるんかも)

(……)
(案外、最初から狂ってたんかもな)
まぁとにかく、今日はこの辺で帰りますわ。また今度来まっせ
そうかい
部屋の掃除しーや? ご飯も一日三食食べるんやで?

一日8時間は寝て太陽の光を浴びてそれから……

考えておくよ。いや、忘れるかな。ふふ
ハナからやる気なしやし……もうええわ。ほなまた。

そのうち会いましょ

また会おう








(ガチャッ)
あ、やっと戻ってきたか! 勝手に放っていきやがって
……
そもそも俺を連れて行ってくれても……何で黙ってる?
……めっちゃつかれた~~……。
虫の息になってる
ええ? 連れて行けとかよう言えるな?

カイカみたいなツッコミ星人が行ってたらいまごろ灰になってたで

どういう状況だよ、それ
はぁ~~……
……
つかれた……ねたい……
本当に何があったんだよ
性に合わないツッコミに回り、やたら体力を使ってしまったようだ。

この師匠は、たぶんよほど長く続けば再登場する。つまりしない! ! !

次回、疲れから回復した山田が暴れまわるとかそんな予定。

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登場人物紹介

山田太郎

元道具屋の店主。高レベルな魔法の腕を持っているが、

なぜか関西弁の守銭奴とやけに現代的な性格。

「ドカベンって呼んでもええで」と言ったり、

偽名で岩鬼正美を名乗るなど、某野球漫画に謎のこだわりあり。

カイカ

冒険者の戦士。腕前に自信があったので難関ダンジョンに挑戦してみたものの、準備不足で傷薬がなくなりピンチに陥るちょっとしたマヌケ。腕は確からしいが、コミュ力がないと山田にディスられている。

ハイロ・アナグレタ

第3話より登場。酒場の看板娘らしい。

たちの悪い冒険者に絡まれていたところを山田たちに助けてもらう。

美人さんだが、なぜか「~っす」という語調で話す。

師匠(アネア・エアクオウ)

第9話より登場。凄腕の魔法使いで、山田の師匠。

100年以上生きているらしいが若々しく、「魔女」らしい風貌。

しかし魔法以外の事は99%忘れてしまうらしく、100年前どころか

昨日のことすら記憶が怪しい。山田いわく「後期高齢者」

ヨミド

第19話より登場。ギルドのリーダーで、魔法使い。

厳格な性格で、プライドが高いような発言が見受けられる。

第一章の山田とカイカはヨミドと会うために旅をしているが、

その役割を考えると、たぶん彼がメインヒロインなんだと思います。

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