76.フォークの魔法とゾンビー化する難民達
文字数 2,137文字
「ど、どうすんだよ!」
ベレッタの引き金を引こうとした沖田の手が震え、迫り来る難民の群れから銃口を外した。
相手は戦闘員ではなくエメトリア一般市民であり難民達だ。
沖田は何故か始めて人を撃った時の言い難い気持ちを思いだし、明らかに動揺した。
「何が聖戦の魔法だよ!完全にゾンビじゃねぇか!」
真っ赤な口蓋を開き黒い目を見開いて、ゆっくりとだが確実に難民の集団が壁が迫るようにして近づいてくる。その動きは着実に早まっていた。
「チッ」
やむなく一番接近していた中年の男を、小坂が峰を返した井上真改で肩を打ち据える。しかし、男は何事もなかったように立ち上がり、小坂に再度襲いかかった。
M4カービンのトリガーを引こうとしたフレデリックの銃身を沖田が慌てて抑えた。
「バカ野郎!一般人だぞ!」
叫ぶ沖田に、フレデリックが怒鳴り返した。
「たとえ一般人だろうと攻撃意思を持って向かってくる者は敵だ!昨年、その甘さで死にかけただろうがっ!」
フレデリックが飛びかかってきた難民の男をストックの一撃で撃ち倒す。しかし、男がまたすぐに立ち上がると、その膝頭をライフルで撃ち抜いた。
それでも男は半ばちぎれかけた足を引きずるようにして更に向かってくる。
「難民を、一般人を撃ったら人殺しじゃねぇか!」
フレデリックの次の攻撃を抑え込むように、沖田が前に回り込んだ。
「バカか?おまえは?貴様がさんざん殺しまくってきた兵士達だって、攻撃意思を持たなければ一般人だ。お前はもう、とっくの昔に殺人者なんだよ!」
沖田、吉川、小坂の三人の気配が、明らかに変わった。
その目は暗く何かを見つめ呆然と動きを止める。
人殺し・・・
言葉が無限の重さをもってのしかかる。
「キャアアアアッ!」
マユミの悲鳴が響いた。
マユミ達の足下から聖戦の魔法にかかった子ども飛びかかる。
「チクショウ!やめろ!この野郎!」
沖田が子どもの手を取ると、その子の身体がふわりと浮いた。
相手の動きに合わせて体(たい)を変え、ダメージなく組み伏せる。
相手の力を最大限に利用した入り身投げを打った。
「うるせぇ!」
何かを振り払うような沖田の絶叫。
「どいつもこいつも戦争で儲けてる奴は糞食らえだ!俺たちは殺人鬼じゃねぇ!専守防衛だこの野郎!」
仁王立ちになって周りを睥睨する。
それを聞いた小坂の口元がニヤリとほころんだ。
「あのクズ野郎の精神力と、俺たちの技の力比べだな」
小坂も腰の鞘にパチリと井上真改を戻し鯉口をはめた。
すると、するするとまるで滑るように歩みを進め、大江と智子に向かっていた大柄な難民の男の襟を取る。
フワリと二メートル半はゆうの超えるその男の巨体が宙に浮き、投げ飛ばされた。
「柔よく剛を制すってな」
更に襲いかかる別の難民の、腿下に腕を潜り込ませると、いとも簡単にクルリと回して仰向けに倒す。
沖田はフレデリックの前に回り込んで、四方八方から押し寄せる難民達を右と左に動き回り正に、ちぎっては投げ抑えては押し返す。
背後からフレデリックの舌打ちが聞こえた。
『いつまで持つかな。まずお前達を殺した後、女どもはこの世に女として生まれたことを後悔させながらゆっくり殺してやる』
フォーク神経にさわる声が脳内に響く。
銃を使うことを諦めたフレデリックも素手で難民達を防いでいく。
フォークの出現と同時に、端末と小型アンテナを出して何かを始めた長島と長谷川。
それを守るようにして、大江、マユミ、智子が日本から持参した、居合い刀、丈、鞘を付けたままの長刀で立ち塞がった。
しかし、徐々に動きの機敏性を増した難民達の群れが、敏捷なゾンビと化して彼らを襲い、その包囲の輪を狭めていく。
「くっ、この!」
沖田のボディーアーマーに果物ナイフを突き立てた難民の女性を、くるりと体をまわして投げるようにして押し戻す。
魔神の力を使い迫り来る難民達を次々と投げ、倒し、組み伏せていく、沖田と小坂。
まるでダンスのように淀みなく動き回るその動きは永遠に続くようだった。
その中で、マユミや大江、智子といったメンバーは各々の得物で向かってくる難民達を押し返す。
パトリックは持参していた軍隊仕込みのクオータースタッフを使って、器用に立ち回っていた。
「その顔で迫ってこないでぇー!!」
瞳孔の開いた黒い目を見開き、赤い口蓋を開いて迫り来る難民達を見て、大江が叫ぶ。木刀で打ち据え、タイミングを見て足絡みで、最小ダメージで彼らの足をすくって倒す。
通常、聖戦の魔法は魔女達の能力が増幅されるエメトリア城の一角で、複数の魔女達が同時に脳の使用領域をあげることで発動させる。
魔法の配下にある者達は人間の能力の限界を超えて運動することが可能なはずだ。
フォークが難民達にかけている聖戦の魔法は一人で行っているのか、難民達の能力は高くない。
しかし、徐々に動きの速度を増す難民達の包囲の輪が狭まってきていた。
「やるしかないのか」
もしマユミ達、ムサノ側の非戦闘員が危なくなったとき、その異能力を解き放つため、沖田は覚悟を決めた。
太古の昔にアラディンも利用した魔神達の能力。
小坂も沖田の意を悟ったのか目の色が変わり始めた。
To be continued.
ベレッタの引き金を引こうとした沖田の手が震え、迫り来る難民の群れから銃口を外した。
相手は戦闘員ではなくエメトリア一般市民であり難民達だ。
沖田は何故か始めて人を撃った時の言い難い気持ちを思いだし、明らかに動揺した。
「何が聖戦の魔法だよ!完全にゾンビじゃねぇか!」
真っ赤な口蓋を開き黒い目を見開いて、ゆっくりとだが確実に難民の集団が壁が迫るようにして近づいてくる。その動きは着実に早まっていた。
「チッ」
やむなく一番接近していた中年の男を、小坂が峰を返した井上真改で肩を打ち据える。しかし、男は何事もなかったように立ち上がり、小坂に再度襲いかかった。
M4カービンのトリガーを引こうとしたフレデリックの銃身を沖田が慌てて抑えた。
「バカ野郎!一般人だぞ!」
叫ぶ沖田に、フレデリックが怒鳴り返した。
「たとえ一般人だろうと攻撃意思を持って向かってくる者は敵だ!昨年、その甘さで死にかけただろうがっ!」
フレデリックが飛びかかってきた難民の男をストックの一撃で撃ち倒す。しかし、男がまたすぐに立ち上がると、その膝頭をライフルで撃ち抜いた。
それでも男は半ばちぎれかけた足を引きずるようにして更に向かってくる。
「難民を、一般人を撃ったら人殺しじゃねぇか!」
フレデリックの次の攻撃を抑え込むように、沖田が前に回り込んだ。
「バカか?おまえは?貴様がさんざん殺しまくってきた兵士達だって、攻撃意思を持たなければ一般人だ。お前はもう、とっくの昔に殺人者なんだよ!」
沖田、吉川、小坂の三人の気配が、明らかに変わった。
その目は暗く何かを見つめ呆然と動きを止める。
人殺し・・・
言葉が無限の重さをもってのしかかる。
「キャアアアアッ!」
マユミの悲鳴が響いた。
マユミ達の足下から聖戦の魔法にかかった子ども飛びかかる。
「チクショウ!やめろ!この野郎!」
沖田が子どもの手を取ると、その子の身体がふわりと浮いた。
相手の動きに合わせて体(たい)を変え、ダメージなく組み伏せる。
相手の力を最大限に利用した入り身投げを打った。
「うるせぇ!」
何かを振り払うような沖田の絶叫。
「どいつもこいつも戦争で儲けてる奴は糞食らえだ!俺たちは殺人鬼じゃねぇ!専守防衛だこの野郎!」
仁王立ちになって周りを睥睨する。
それを聞いた小坂の口元がニヤリとほころんだ。
「あのクズ野郎の精神力と、俺たちの技の力比べだな」
小坂も腰の鞘にパチリと井上真改を戻し鯉口をはめた。
すると、するするとまるで滑るように歩みを進め、大江と智子に向かっていた大柄な難民の男の襟を取る。
フワリと二メートル半はゆうの超えるその男の巨体が宙に浮き、投げ飛ばされた。
「柔よく剛を制すってな」
更に襲いかかる別の難民の、腿下に腕を潜り込ませると、いとも簡単にクルリと回して仰向けに倒す。
沖田はフレデリックの前に回り込んで、四方八方から押し寄せる難民達を右と左に動き回り正に、ちぎっては投げ抑えては押し返す。
背後からフレデリックの舌打ちが聞こえた。
『いつまで持つかな。まずお前達を殺した後、女どもはこの世に女として生まれたことを後悔させながらゆっくり殺してやる』
フォーク神経にさわる声が脳内に響く。
銃を使うことを諦めたフレデリックも素手で難民達を防いでいく。
フォークの出現と同時に、端末と小型アンテナを出して何かを始めた長島と長谷川。
それを守るようにして、大江、マユミ、智子が日本から持参した、居合い刀、丈、鞘を付けたままの長刀で立ち塞がった。
しかし、徐々に動きの機敏性を増した難民達の群れが、敏捷なゾンビと化して彼らを襲い、その包囲の輪を狭めていく。
「くっ、この!」
沖田のボディーアーマーに果物ナイフを突き立てた難民の女性を、くるりと体をまわして投げるようにして押し戻す。
魔神の力を使い迫り来る難民達を次々と投げ、倒し、組み伏せていく、沖田と小坂。
まるでダンスのように淀みなく動き回るその動きは永遠に続くようだった。
その中で、マユミや大江、智子といったメンバーは各々の得物で向かってくる難民達を押し返す。
パトリックは持参していた軍隊仕込みのクオータースタッフを使って、器用に立ち回っていた。
「その顔で迫ってこないでぇー!!」
瞳孔の開いた黒い目を見開き、赤い口蓋を開いて迫り来る難民達を見て、大江が叫ぶ。木刀で打ち据え、タイミングを見て足絡みで、最小ダメージで彼らの足をすくって倒す。
通常、聖戦の魔法は魔女達の能力が増幅されるエメトリア城の一角で、複数の魔女達が同時に脳の使用領域をあげることで発動させる。
魔法の配下にある者達は人間の能力の限界を超えて運動することが可能なはずだ。
フォークが難民達にかけている聖戦の魔法は一人で行っているのか、難民達の能力は高くない。
しかし、徐々に動きの速度を増す難民達の包囲の輪が狭まってきていた。
「やるしかないのか」
もしマユミ達、ムサノ側の非戦闘員が危なくなったとき、その異能力を解き放つため、沖田は覚悟を決めた。
太古の昔にアラディンも利用した魔神達の能力。
小坂も沖田の意を悟ったのか目の色が変わり始めた。
To be continued.