第36話 白雪姫の継母は実母

文字数 1,628文字

公民館前に簡単にしつらえたテラスで、シナモン達がレモネードを飲んでおしゃべりしているところに、モカがやってきた。


ユーカリは二日酔いでまだベッドの中らしい。

モカのスキルってどんなんだよ? タイトルだけじゃピンとこない。
SF(ソーシャル・フリクション)はそのままの意味よ。全方位から人間関係の軋轢が襲ってきて、ダイレクトに感じて病んでしまうの。


毒親(ナラタージュ)はね、母親のネガティブな語りが絶え間なく頭を渦巻くの。結果、自分で判断ができなくなり、意欲やエネルギーが漏電し成長を足止めさせてしまうっていう……

……ネガティブな語りをしない母親だったら?
なにかしら家族ってネガティブな語りをしているものなのよ。

母親自身も意識せずに、娘に嫉妬し攻撃していることは多いの。

白雪姫の継母は実母なのよ。

モカさんの話は恐い。呪いみたい。
ナツメグちゃん、神経、関係、連携、体系を断絶できるのなら、親子の縁も切れるのよね?
はい。私は逃げてくるとき、自分自身でセルフ縁切りしました。

父親と母親から触手みたいなものがヌルヌル伸びて、わりと気色悪かったけど。最後はピーピー鳴いて干からびていった。

私も母親と縁を切って欲しい。
モカさん、お母さんにいじめられていたんですか?
……母親はね、私がひどい目に遭わないためにつきっきりで忠告してくれるの。
え? いいお母さんじゃないですか。
違う違う、それって超ウゼー! アタシは耐えられねえ。
カルダモンちゃん、わかるの?
「あなたのためよ」とか、ぬかすんだろ?

アタシはオヤジの連れ子でさ、母親がコロコロ変わったんだけど、一人そういう女がいたんだ。真綿で首を絞めてくるタイプ。そいつが一番キライだった。


スロカスが母親だったときもあったんだけど、スロカスのほうがマシだったな。

スロカスってなに? ああ、スロットのこと、ギャンブル依存症ね。


(カルダモンちゃん、私はみんなより全然苦労していないって言っていたけど、ひどい家庭環境じゃない。私、家族のことでいじけるのは、もうやめよう……)

「だから言ったでしょう」「いつまでたってもダメなんだから」を言うとき、母親はイキイキしていたな。失敗したらクドクドエンドレスされるけど、上手くいっても気に入らないみたい。


自分が優位に立てる丁度いい失敗が、お好みみたい。

周囲をうかがうよう、キョロキョロして話すモカ。
どうしたんですか?
私ってダメね。いまだに母親がどこかで聞き耳立てているんじゃないかって、恐いのよ。
そいつ毒親認定だ。さっさと縁を切っちまえ。
モカさん、切れることは切れるけど、状況や縁って流動的なものだから、変化しますよ。

これで大丈夫っていうことは無くて、見直しの時期がやってくるかもしれない。

そっか。未来永劫絶対ってことは無いのか。
それに縁切りしたら『毒親(ナラタージュ)』は使えなくなると思うけど。
モカ、迷うな! 

そんなスキル捨てて、もっと最新のおしゃれなスキル見つけろって。

わかった。

お願いナツメグちゃん、バッサリいってください。

うん。
***************


数分後、生まれたての子鹿のようにヨロヨロ立ち上げるモカ。

ありがとう……少し休むね。
モカの背中に声をかけるナツメグ。
モカさん! 逃げるときは絶対に後ろを振り返らないで。

未練を残したら敵は全力で追いかけてくるから、情けをかけちゃダメ。

弱々しく微笑むモカ。
そういう神話あったわね。

『黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)』だったかしら。


あ……新しいスキルのヒント見つかりそう。味方が敵になってゾンビ化するような……

また、変なスキル思いついて……

アタシも人のこと言えねえけどさ。

ナツメグちゃんは命の恩人ね。みんなもありがとう。本当にありがとう。
****************
モカさんの母親、グロテスクで下水道の匂いがした。


モカさんの背中に返り血べっとり憑いている。しばらく温泉に浸かって休んだほうがいいかも。

……私もちょっとしんどい。温泉入ってくるね。

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