ネピオルネス編(4)

エピソード文字数 2,450文字

間一髪、ナギは警官達を眠らせることができた。でもどうしてナギ達が警察に捕まらなければならないのか。

警官は確かに、「ナギ確保」と言ったのだ。ということは、ナギがただ単に銃を持ち歩いていたから捕まったということではなく、警官達はナギを知ってて捕まえたということだ。

ナギの身を守るために? いや、違う。警官達は、明らかにナギを逮捕しようとしていた。ビューラを奪おうとしていた。

まさか、この国では、ナギは何かの容疑者として追われているとでもいうのか? ノートンが「動くな」と言ったのは、そういうことなのか?

「あの……さあ、」

ナギ達と一緒に逃げ出して来たアミィが、鼻をハンカチでおさえながらナギに話しかける。

「さっき、お巡りさん、ナギって言ってなかった?」 首を傾げて訊くアミィ。

「?」

「もしかしてー、あなたって、ナギ?」

「……うん」

うそーっ!! アミィは目を輝かせて驚いて手を叩いて飛び上がったから、ナギもルナも、リョータまで、目を丸くする。見るとティマまでが、口に手を当てて驚いている様子だ。

「私たちと全然変わんないねー! ね、ね、本当にナギ?」

ナギはアミィが何を言ってるのかわからなかった。同時に、はじめてリンと会った時の「全然ダメじゃない、ナギなのに」というリンの声を思い出して、心に痛みが走るのを感じた。

「ナギって、噂と全然違うねー」

クスクスと笑いながらナギの周りをグルリと回りながら見て、アミィは言う。

「? 噂って、何ですか?」

ナギが問う。アミィは楽しそうな目をして、今にも吹き出しそうに話し出す。

「あちこちの国で怪物が出没してるんだって? でね、その怪物を、ナギっていう女戦士が現れてやっつけてるっていうんだけど、そのナギもワルでね、国がやろうとしてることを邪魔するテロリスト達に雇われてるんだって。だからナギが怪物退治してんのは、国民を助けてるんじゃなくて、テロリスト達を助けてるんだって。ナギってすごくグラマーで美人なんだけど、男顔負けの戦士で、コウモリみたいな魔法使いの女の子を従えて、おまけに腕利きのスナイパーなんだって!」

言い終わらないうちにアミィはティマと顔を見合わせて笑い出した。ナギは聞いてるうちにすごく恥ずかしくなった。グラマー……美人……噂というものは尾ひれがつくものだけど、いくらなんでもすごすぎる。しかも自分がテロリストに雇われたスナイパーだなんて。

「で、でも、あなた達はどうして襲われてたの?」

あまりに恥ずかしくて、ナギは強引に話を変えた。ティマはアミィを見る。アミィはうつむく。

「私達、モルニ人だから、」 答えたのはティマ。

「モルニ人だと、いけないの?」

「この国じゃ差別が酷いの。モルニ人はモルニに帰れとか言われて」

ナギは眉をひそめた。醜い人種差別をする人達がいることはさすがにナギも知っている。でもウルブスではそんなことをしたりされたりする人はいなかった。ここではそれがあるのか。同じ人間なのに、どうしてそんな差別をするのか、ナギには理解できなかった。

モルニ人だから、女だから、弱者だから。
差別していいと、傷つけてもいいと、野蛮な男達はそう思うのだろうか?

「ねえ、」 アミィが再びナギを見る。その目がいたずらっ子みたいにランランと光っている。
「ナギたち、なんでこんなとこにいんの?」

ど真ん中の質問だ。ナギは答えに詰まって、パチパチ火花の出そうな目でアミィを見た。頼りない救世主は、何をどうしたらいいかわからなくて、逃げ出したくなる自分を追い立てて、とにかくここに来たのだ。本音を言うと、弱音を素直に吐き出すと、誰かに教えてほしい。さああそこに行ってこんなことをせよと命じてほしい。そんなダメダメな自分なのだ。

「そうだよねー。そんなの、ヒミツだよねー」

ナギが返答に困っているうちに、アミィは勝手に納得してしまった。ああこうしてまた噂神話伝説が勝手に作られるんだ。凄腕のスナイパー・ナギはテロリストの特命を受けてネピオルネスに潜伏していたのだった!なんて。

「あーっ!!」

突然アミィが叫んで、ティマに隠れるように抱きついた。おそるおそるの眼差しでナギを見る。

「もしかして私達、顔を見たから消されちゃうとか? どーしよーティマ!」

唖然。そしてナギは吹き出した。

「わ、私、戦士でもスナイパーでもないよ。あの、普通のスコラの一年生だよ」

え? アミィはティマの肩越しに首を傾げ、そして、パッと笑った。

「なーんだ、じゃタメじゃない! ね、ね、じゃ記念の写メ撮ろ!」

豹変のアミィにナギは苦笑する。すぐに四人と一羽で、記念撮影。

「ね、ね、それでー、ナギたちはマジでどうしてこんなとこにいんの?」

アミィは先ほどの質問を繰り返した。ナギは笑ってありのままを答えることにした。

「えと、本当はね、私、どこに行ったらいいかわからなくて、ここに来れば何かわかるかもしれないって思って来てみたの」

「そーなんだー。何かわかった?」

「ううん。そ、それでね、知り合いのジャーナリストさんが来てくれるのを待ってるんだけど、その間に買い物しようと思って」

「買い物って、まさか武器とか?」

「ううん、ポッキーとか」

「……ぽっきい?」

アミィの目がくりくりと真ん丸になる。そしてティマと向き合って爆笑した。

「ウケるー! ポッキーだってティマ! ナギって、ポッキーで戦うんだ!」

「ポ、ポッキーでなんて戦わないよ。折れちゃうもん」

「やだナギ、素で答えてるし! ナギ面白すぎるー! ね、ポッキー買うなら一緒に買い物しよ!」

蹴られて流血したことはすっかり忘れ去ったように、アミィはナギの腕を掴んで飛び跳ねた。ティマはそんなアミィを見て嬉しくなった。
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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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