第6話

文字数 655文字

 年があけて、春になって。今日は学年最後の日。
 富子先生にとっては長い教師生活最後の日。ちょっとしんみりな一日だ。でもクラスのみんなにはいつもどおりの一日。元気いっぱいで授業を終えた。

 富子先生は最後の授業を終えると、ホームルームでみんなに挨拶。
 それじゃあみんなも元気でね、あまり天邪鬼にはならないよーに……富子先生の挨拶に、みんながタカキとヒロを向いて、そうだぞーと言って笑った。
 今ではすっかりヒロもクラスに打ち解けて、みんなに天邪鬼のあつかい方など指導している。

 富子先生が教室を出ようとすると、なぜだかドアがひらかない。
 よくよく見ると、ドアがガムテープでべったりと留められている。

 ふふふと背後で一斉に、いたずらげに笑う声。
 富子先生が振り向くと、みんな先生を見やったまま、にやにやにたにた笑っている。

「閉じこめ完了!」
「ぜったいに逃すな!」
「お別れ会開始だ! 総員配置につけ!」
「花束を持て! 花束を持て!」

 クラス全員の天邪鬼たちが、富子先生の周囲にむらがって、逃がすまいと包囲を完了。
 戸惑う富子先生の前に、タカキとヒロが進みでて、みんなで用意した花束を差しだした。
 中には一枚のメッセージカードが添えられている。
 カードには『お別れのしかた』と書いたあとに一文。



   『お別れだなんて思わないこと』



「……泣いていません」
 富子先生は、ハンカチをまぶたにあてがって、ふるえる声でこう言った。
「ちっとも寂しくなんかありませんよ……」
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