【9】ハルキの告白

文字数 2,364文字

『…岩崎さん、大丈夫?
無事目的地に到着したみたいだよ!』

「…ここって、もしかして…。」

『そうだよ!岩崎さんの輪廻會舘!』

「ここでいったい何をするんだい?」

『え、わからないの?岩崎さん…。昨日、お通夜終了後に僕以外の家族でさ、夜ご飯を食べてたでしょ?そこに現れて【告白】をしたいと思います。』

「…そうか、つまりお通夜後の輪廻會舘ってことだね!なるほど。でもご家族は死んでいるはずの君が、急に現れて驚いたりしないかな?そこだけが心配なんだけど。」

『岩崎さんの心配するところって、そこなんだ。岩崎さんってさ~天然ぽいよね?周りの人から言われたりするでしょ?奥さんや仕事仲間とかに。優しくていい人なのは、初めて会った時から感じてたけどね。まぁ岩崎さんが心配している部分は、ちゃんと夢オチになりますので心配しないでね。』

「ハルキ君?大人に向かってはっきり言い過ぎだから!もう少しやんわりと言う事を覚えてほしいな?」

中学生に天然と言われたことが面白く、笑いながら死人相手にムキになって言い返してしまう俺。大人げないな…。

『…また来世ね?と言うか、岩崎さん初めて笑ってくれたね!そっちのほうが、イケメンだからもっと笑ったほうがいいよ?』

「ハルキ君?それは誉めてると受け取っていいのかなー?あまり大人を、からかうもんじゃないよ?」

『さーて、うるさいおじさんは置いといてそろそろ行ってきますかねー。』

「君は…本当に人の話を聞かないね…。
一人でいける?大丈夫?」

『…ん?そりゃあね、本音を言えば少し怖いよ?これまでも、キチンと家族に対して向き合ってきたことなんてなかったから。でもね、女の子を助けることができたあの時から僕は少しだけど強い人間になれた気がするんだ。岩崎さんは見守っててよね!』

「わかったよ、ハルキ君。強い男は大好きだ!応援してるから行ってこい!!」

そう言って背中を押すと、霊柩車を降りたハルキ君は、一瞬振り返り俺に微笑んだ。


※※※※※※※※※※※
人の気配はあるが、静まり帰った
親族控室の前に到着したハルキ。
直接話すとは言ったものの、本当にうまくいくのか?…よし、鶴の恩返し作戦でいこう!

"コンコン"

「はい、どうぞ」
父親の低い声が響いた。

『…お父さん、お母さん?それに兄さんと姉さんも…。僕だよハルキだよ!』

「え、ハルキ??」

室内がザワツキ始め襖を開けようとした雰囲気を感じとった僕は、大きな声を出して叫んだ。

『襖は開けないで!!』

人の動く気配が止まったのを
確認すると落ち着いてもう一度話す。

『大きな声を出してごめんね?何が起きているのか、理解できないと思うけど、話が終わったら僕は消えるから、黙って僕の話を聞いて欲しい。お父さんお母さん、まずは謝らせてください。二人よりも先に死んでしまった親不孝…本当にごめんなさい。みんなは僕がいじめられて、自殺しちゃったと思っているよね?でも、違うんだ!そんなバカなことはしない!それだけでも分かってほしくて、僕は火葬されちゃう前にこうしてみんなに事実を伝えにきたんだ。
僕、合格発表の後に一人で海を見に行ったの。そしたらね、今にも堤防の上から飛び込みそうな女の子を見つけちゃって、声をかけても止まらないから走ってその子のところに行ったんだよ。女の子捕まえて陸の方に落としたところまではよかったんだけど、勢いあまって僕がそのまま海に落ちて死んじゃったってわけ。あまりに勢いがよかったから、通報してくれた人が、自分から飛び込んだって言っちゃったんだろうね、きっと。女の子も自分のせいだって思われるの怖くて言えなかったのかも。だからね、僕は"自殺して死んだ弱い人間"ではなく"女子を助けて誤って海に落ちた勇敢な少年"だとみんなには思ってて欲しいんだ。僕がいなくなったことを、本当に悲しんでくれてありがとう。とっても嬉しいんだよ?父さんと母さん、これは運の悪い事故なんだ!だからさ、これ以上自分達を責めるのはやめてよね?
"ハルキはヒーローとして役目を終えた"それでいいんだ。みんな、今まで本当にありがとう。表にはあまり出さなかったけどさ、僕は本当に幸せだったんだよ?もう少し、二人の子ども、二人の弟でいたかったけど…とりあえずこれでサヨナラだ。明日は笑顔で見送ってね。』

「ハルキ…、行かないで!最後に顔だけ
見せて…お願い…、お願いよ…」

泣きながら懇願する母親の声が聞こえた。
本当は僕も最後に会いたいよ?
でも、これでいいんだ。
襖を"コンコン"とノックすると、
僕の体は眩い光に包まれ始めた。

※※※※※※※
先ほどまで出ていた濃い霧も晴れ、気づくと俺は、元の火葬場の駐車場にいた。
さっきの出来事は幻だったのか?ご兄姉を乗せた翼達もいつのまにか到着している。

霊柩車からハルキ君の棺をおろし
火葬場職員へと引き渡す。
確か、霊柩車に乗るまではひどく落ち込んだ様子のご両親だったはずだが…降りて火葬場に向かう二人の足どりは、決して重たいものではないように感じた。

場内に入る前にこちらを向き最敬礼をしてくださったご遺族の皆様。私たち四人もお辞儀をする。その時だ!遺影のハルキ君がこちらにむかって間違いなくウィンクをしてきた!
その刹那、頭の中に響いてくる少年の声。

『ありがとう岩崎さん!これでサヨナラだ!いつも笑っていてよね?イケメンさん♪』

「さようならハルキ君、元気でね!」

突然一人で話し始めた俺に少し驚いている様子の三人だったが、翼は俺の手をこっそり握りウインクをして囁く。

"匠君、お疲れ様!"

こうして、俺の初めての不思議
体験は幕をおろした。
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