第71話  美神聖奈視点 一番大事なこと 1

エピソード文字数 2,892文字

 美神聖奈視点です。
早くっ。気にしないでいいから
お前。マジで言ってるの?
本気に決まってるじゃない!

 私は声を荒げると、蓮は観念したのかベッドにそろーっと入ってくる。電気を消したから顔はよく見えないけども、きっと青ざめているに違いないと思った。


 別に男のあんたと寝るのは気にならない。

 だって、蓮は楓蓮でもあるのだから。

 身体は違っても、心の中は一緒なんでしょう?


 あんたが私の事を特別な存在って言ってくれるなら、

 私にとっても蓮は特別なのよ。



 もぞもぞと布団の中に入ってくると、蓮は私の身体に触れないような位置で動くのを止める。 

そんな意識しないでもいいじゃない
無理だってマジで

 そう頑なに拒否されるのも悪い気はしなかった。

 一応は私を女だって見ている証拠なのだから。

ねぇ。華凛ちゃんを寝かしつける方法で、私にやってみてよ

 そう言いながら近寄ると、背中からベタっと引っ付いた。

 その瞬間「うっ」と漏らす蓮だったけど、お構いなしに抱きついたら「当たってる」とか言い始めた。

何よ。胸ならあんたの方が大きいクセに
じゃなくて、今は男なんですけど!

 もうそれはいいから。聞き飽きたわっ。


 それに、あんたは女の子でもあるのに、何で女の子の身体がダメなの? 意味不すぎるんだけど。

あのね。私はそんな事よりも、あんたと一緒なら本当に安眠できるのか試してみたいだけよ。

何エロいこと考えてるの?

 すると蓮は「それだけでいいの?」って、小さな声を出した。まるで女の子みたいな言い方に、にんまりしながら「うん」と頷いた。

分かった。じゃあやってみる

 ちょっと離れろって言うので言う通りにすると、次は背中を向けてと指示される。


 あっ。背中から抱きしめる感じなのね。

 案の定、蓮は背中から私に引っ付くと、腕に手を伸ばしてくる。


 それはいいんだけど、なぜか急に今の状況が恥ずかしくなってきた。

 よくよく考えると私は今、とんでもない事を蓮にお願いしちゃったのでは?


 蓮の言ったとおり、男と女なのに、こんな事。する? 恋人同士ても何でも無いのに。


 それに男に抱きしめられたのは、初めてだし。



 ああっ。そんなこと考えてると、余計に緊張してきたじゃないの! 



 凄い密着に思わず声が出そうだったけど、


 ここで私が驚いてたら……負けた気がする。


 私から誘った手前、絶対にバレちゃいけない!

やばい。緊張してきた
ったく。情けないわね

 私だって緊張しちゃってるわよ。あんたよりもね!


 至近距離から聞こえる声に、僅かな吐息だって感じるし、何よりもあんたの体温が背中から伝わってくる。


 そして嗅覚から伝わってくる蓮の男の匂いに、何だか変な気持ちになる。


 これが楓蓮なら気にならなかったのに、そう思うと余計に今の状況で安眠できるとは思えない。



 やっぱり止めましょうとも言えない空気に、何か喋ろうとも思ったけど、暫くすると背中から伝わる体温で気持ちよくなってきた。

ねぇ。蓮。昔もこうやって、一緒に寝てた?
一緒に寝たことはある。だけどこんな風じゃないぞ
 そんなの分かってるわよ。小さい頃から添い寝みたいな事できるわけないじゃないの。
なぁ聖奈。家じゃあんまり寝れないのか?
そんな事は無いけど。気持ちよく寝れるのなら、って興味があるだけよ
 それ以前に。寝る時間が無言った方が正しいけど。
そっか……

 そう呟いた蓮に、会話が途切れる。


 

 何だかこうやって背中から抱きしめられれると、とっても安心する気がする。


 そんな時、ふとこんな疑問が思い浮かんだ。

ねぇ。私。思うんだけどさ、昔の私って……何であんたを虐めてたんだろう?

 これは前々から聞きたかった。


 だって。蓮と再会してから、ケンカなんてしないし、凄く仲良くやっていると思うし、何よりも凄く楽しい。


 それなのに過去の私は何故、蓮を虐めてたのか、とても不思議なのよ。


 今の関係からはとても考えられない。

 

 何も覚えていない私には、凄く疑問に感じていた。

それは俺も分からん。さっきまで仲良く遊んでたのに、急にキレだしたりして、ボコボコにされたり……これはあの頃の聖奈じゃないと理解できないのかもしれない
……そう

 力ない返事が自然と出ていた。


 蓮が言うことに嘘はない。分かってる。分かってはいるけど、本当に覚えていない私としては、とてもつらいものがあった。

で、でもさ、聖奈が俺を虐める理由の半分は、俺を強くする為にやってたらしいぞ。

その頃の俺はそれも……虐められてると勘違いしてたのかもしれん

 蓮はきっと、私が落ち込んでいるのをわかってて、そう言ってくれるんでしょ? じゃあ虐める理由の「もう半分は?」とか考えると更に落ち込んでしまう。

それにお前ばかり悪いんじゃない。

俺だって何かしらお前を苛立たせる態度だったのかもしれないし、俺にもきっと悪い部分があったんだ

 私が何も言わないでいると、暫くして蓮はこう言ってくれる。
もういいって。その事は気にするなよ。俺は全然気にしてないから。落ち込まないでくれ
 その時、ギュっと抱きしめられると、思わず目の前にある蓮の腕に頭を寄り掛けていた。

それよりも……今を大事にしよう。

正直……聖奈とこうやって再会して、あの頃よりももっと仲良くなれた気がするんだ

蓮……

さっき。お前が怒った顔してさ、俺は恐怖で顔が引きつってただろ?

それなのにお前は手を上げなかった。実際、あれには凄く驚いてて

あれは、あんたの顔見てたら、何となく想像出来た。

昔にもこんな事があったんじゃないかって。そう思うと私は……

聖奈。頼むからその件で落ち込むのは辞めよう?

俺はもう、何とも思ってない。これはお前が納得するまで何度でも言ってやる

 蓮はそう言うと、目の前にあった腕が離れ、その代わり私の手を握ってくれた。
……うん
 大きな手でギュっと握ってくれた。


 ※



 そこから会話がなくなると、蓮も私の背中にくっついたままだった。緊張しつつもドキドキする時間を過ごしていると、私はずっとこのままでもいいかなって思った。


 蓮に後ろから抱かれたまま、少しばかりウトウトしていると「眠たくならない?」って聞こえてくる。


 私は何も言わないでいると、

じゃあ華凛を寝かしつける方法。やっていい?
え? これがそうじゃないの?
 と思わず質問すると「実はまだ遠慮してた。本気出す」とか言い始める。

聖奈。もし寝れないんだったら、いつでも家に来ていいから。

添い寝だったらいつでもやってやる

 蓮はそう言うと、身体を更に密着させてギュっとしてくれる。そして私の身体を少しだけ自分の方に倒すと、さっきよりも近い場所から吐息が聞こえた。

 ちょと……こんな……蓮の顔がすぐ横にあるんだけど!
しかも頭を撫で撫でされちゃってて、めちゃ恥ずかしくなってきたじゃない! こんなの。ますます寝れないじゃないの。


 とか思ってたのに……


 蓮の寝息のようなのが聞こえてくると、全身がポカポカしてきて、あっという間に瞼が重たくなっていくのを感じた。

 え? あれ? 私。落ちる? 



 そんな疑問系の言葉を頭に浮かべている最中、私の意識はふっと消えてしまった。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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