林檎の栞

エピソード文字数 408文字

 わたしは、よく町の人々からクールな図書館司書と囁かれているが、断じて、そんなことは有り得ぬ。
 この逆三角形の眼鏡がいけないのであろうか――わたしは、しんと静まり返った館内で、いったん眼鏡をはずし、眼鏡拭きでふきふきしていた。
 と、その時である。
 わたしが細々と営む図書館に、ひとりの男が本を借りにやって来たのである。
 わたしは眼鏡をかけた。
 レンズ越しに思わず涎を垂らし、うっとりと眺めた。
 林檎がなぜ赤くなるのか、お知りになるますまい。
 人に買われて林檎は血の涙を流し――否、貴方にじっと見つめられると林檎のほっぺは真っ赤になるのでございます。
 彼が一冊の本を抱えて、わたしの方へやって来た。
「いらっしゃいませ」
 わたしの心の蔵がどきんどきんと高鳴った。
「この本を借りたい」
「はい、かしこまりました」
 わたしは、すてきな貴方だけ特別に、林檎の栞をそっと本の頁の間に挟んだのでございます。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み