第1話 プロローグ
文字数 697文字
パチンと石を置く音が大きく響いた。
「いい手を打つね」と白髪の老人、森尾九段は言った。
ゆきねはじっと碁盤を見ていた。
「中学でも碁はするのかい?」森尾はそっと隣に白石を打つ。
「いえ、中学には囲碁部がないんです」ゆきねはかわすように黒石をつなぐ。
言葉と石が互いに打ち合う。
「そう、それがとても残念なのよぉ」と割って入ったのはこの碁会所〈庵 〉の主人・智子。「自分で作っちゃえばぁ?」と真顔で言ってくる。
「一人では出来ないからね」森尾が答える。
「そうねぇ、他に出来る人いないのかしらぁ。それとも、部員の少ないとこに入って、そこで囲碁をするとかぁ。あはっ、怒られるかしらぁ?」
ゆきねは小さく頷いた。
「学校で出来ないのなら、毎日うちに来てもいいわよぉ。安くしとくからぁ!」智子は明るく言うと、他の客の様子を見に行った。
店にいるのは老人が多い。土日は子どもも打ちに来るのだが、今日は静かだ。
ゆきねが〈庵〉に来るようになったのは、小学三年生のとき。囲碁好きの祖父に連れられて、毎週来ていた。土曜日の午後は囲碁と決まっていた。
通ううちに祖父の棋力をこえ、子ども囲碁教室を行う森尾九段に師事することになった。
その祖父は、ゆきねが五年生のときに突然亡くなってしまった。しかしゆきねは囲碁をやめることなく、今に至っている。
整地を終えて「三目半の勝ちです」とゆきねが言う。
「打つたびに強くなるね」森尾は顔をほころばせながら言う。
「これで五連勝です!」ゆきねは顔をあげて応える。
「じゃあ昇級だな、おめでとう。これで一級だ」
「はいっ!」と笑顔で応えた。
「いい手を打つね」と白髪の老人、森尾九段は言った。
ゆきねはじっと碁盤を見ていた。
「中学でも碁はするのかい?」森尾はそっと隣に白石を打つ。
「いえ、中学には囲碁部がないんです」ゆきねはかわすように黒石をつなぐ。
言葉と石が互いに打ち合う。
「そう、それがとても残念なのよぉ」と割って入ったのはこの碁会所〈
「一人では出来ないからね」森尾が答える。
「そうねぇ、他に出来る人いないのかしらぁ。それとも、部員の少ないとこに入って、そこで囲碁をするとかぁ。あはっ、怒られるかしらぁ?」
ゆきねは小さく頷いた。
「学校で出来ないのなら、毎日うちに来てもいいわよぉ。安くしとくからぁ!」智子は明るく言うと、他の客の様子を見に行った。
店にいるのは老人が多い。土日は子どもも打ちに来るのだが、今日は静かだ。
ゆきねが〈庵〉に来るようになったのは、小学三年生のとき。囲碁好きの祖父に連れられて、毎週来ていた。土曜日の午後は囲碁と決まっていた。
通ううちに祖父の棋力をこえ、子ども囲碁教室を行う森尾九段に師事することになった。
その祖父は、ゆきねが五年生のときに突然亡くなってしまった。しかしゆきねは囲碁をやめることなく、今に至っている。
整地を終えて「三目半の勝ちです」とゆきねが言う。
「打つたびに強くなるね」森尾は顔をほころばせながら言う。
「これで五連勝です!」ゆきねは顔をあげて応える。
「じゃあ昇級だな、おめでとう。これで一級だ」
「はいっ!」と笑顔で応えた。