詩小説『大杉食堂』3分の昼飯。夢破れた人へ。

エピソード文字数 897文字

大杉食堂

流行ってないな。
猫またぎ食堂だ。なんて、
紙箱叩き、煙草取り出すと、呟いた。

仕込み中だから、当たり前でしょ。
忙しなく、豚肉に切り目をつける、
背中を向けたままのあなたは言う。

パン粉のついた指先気にしながら、
額の汗、手の甲で拭と、
お昼まだなんでしょ? なんて言って。

湯気立つ皿、幸せな匂い。
カウンターの向こう側から差し出した。

火をつけようと取り出した、
ライターを置き、
金でも取る気か?
と笑ってみせると。

まかないだよと、包丁を叩く音。
ツケにしとくからと僕を見た。

おもむろに箸を持つと、
出世払いで良いか?
なんて言ってみた。
あなたをにやりと笑わせた。

メバルの煮付けに箸を入れ、
お腹の身をほぐす。

ひとかけら、口に入れれば、
甘い香りが広がった。

思わずごはんをかきこんだ時、
何故だか泪が流れた。

愚痴のひとつくらい、
零しても構わないだろうと、
脳裏をよぎるけれど、

仕方ないじゃない。
あなたは頑張った、
なんて言われたら、痛すぎるから。

黙って食べることにする。
その方が僕等らしいから。

ぽつりと始まった小雨は、
あっという間に、土砂降りで。

号泣しながら食べる定食は。

美味いな、美味いなと、
心で唱える。

泣きすする僕の声を、
蛇口をひねり水の流れる音で、
搔き消した。

あなたは、僕を見ないふりで、
黙って、皿を洗っていた。

拾った歳はかえりみずに、
呆れた夢を追った。
マボロシとは気づかずに。

指先には感触があったんだ。
届く気がしたんだ。
ただ、指の間から零れていった。

札束は消えてしまった。

五円玉投げ込んだ、
賽銭箱の前で誓った、
約束は破れ去った。

もう終わったかもな、
なんて呟くと、

なに言ってんの、
馬鹿なこと言わんでと怒った。

目を赤らめながらも、
泪堪えるあなた、
良い女だった。

この胸満たされるまで、
泪枯れ果てるまで、
たいらげる、たいらげる。

幸せな味がする。あなたの味がする。
人生の味がする。
たいらげる、たいらげる。

号泣しながら食べる定食。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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