第51話 小鳥
文字数 2,387文字
ガラルドは担いでいた麻袋から何かを取り出す。ユウトは注視した。それは一見すると木の棒。ただところどころささくれが立ち、欠けて折れたような痕跡もある。ただその棒に見える加工されてた木にユウトは既視感を覚えた。
台形の板状に削られた棒の端とくびれがありさらに縦にそって円形の溝が彫られている。その形はライフル銃をユウトに連想させた。
「魔鳥との戦いの最中。魔鳥が不自然に態勢を崩す瞬間があった。それとほぼ同時か少し前に河の岸辺が一瞬光るのを見てその周辺を調査してこれを見つけた。
これが何かはわからん。
魔鳥は何かの衝撃を受け、態勢を崩したと考えられる。そして俺は似た状況を経験した。ゴブリン討伐遠征において戦闘を行ったゴブリンが同じような現象を起こしている。
このことからあの時のキング級のゴブリンの生存は確かになったと判断する」
ガラルドが饒舌に語るのを聞くのはユウトは初めてだった。補足するようにヨーレンが続いて語りだす。
「ただ謎が多い。なぜ我々の近くにいたのか、魔鳥への攻撃の目的、ユウトを河から助けた何かとの関係。一番厄介な仮定はユウトの命を狙うことが目的、かな。もしくはユウトを取り戻そうとしている、とか。どちらにせよこの先、予断を許さない」
大工房までは自身の生命は保証されていると思っていたユウトには気持ちが重くなる話だった。
魔鳥戦で見た円錐形の飛翔物はやはり弾丸でガラルドの回収した木の棒は弾丸を打ち出すために使った何かしらの銃の部品だとユウトは推察する。もしゴブリンが正確な狙いをもって破壊力を持った弾丸を遠距離から撃ち出す術を持っているならば、常にその恐怖に晒され続けなければならないと考えていた。
自然とユウトの顔は曇る。
「ユウトを狙っているのなら好都合だ。次は必ずあの頭を叩き潰す」
ユウトに気を使ったのかどうかわからないガラルドの意気込みがおかしくてユウトは思わず笑ってしまった。
「ハハハ!そうだな。その時はよろしく頼むよ、ガラルド」
沈みかけた気持ちをユウトは少しわざとらしく笑い飛ばしていつもより大きな声で話す。ユウトの気持ちを察してか皆それぞれ苦笑したり押し黙ったりだった。
「報告は以上だ。出発は明日早朝」
ガラルドは唐突に告げて木の棒を麻袋に戻しだす。ユウトはあることを思い出しガラルドに声を掛けた。
「あっ、そういえばガラルド。返しそびれていた丸薬だ。とても役に立ったよ」
ユウトはそういいながら丸薬が入っていた小袋を括りつけていたベルトから外そうとしたとき小袋が内側から激しく暴れ出しユウトは地面に落としてしまう。落ちた小袋はもそもそとうごめきつづけユウトは慌てて距離を取った。
それを見たこの場にいる全員の動きは素早く一斉に警戒態勢に入り身構える。
「ユウト。斬れ」
ガラルドが即決の指令を発する。
「わ、わかった」
あまりの判断の速さにユウトは気後れしてしまう。すでに手に持っていた魔剣に力を込め身長に事を進めるためあらかじめ光の刃を発生させた。
小袋までの距離を念頭に入れて長さを調節し振りかぶって下ろす。
「マッテ!マッテ!」
声が鳴り響いた。
ユウトはとっさに振り下ろす光の刃の発生をやめ、柄だけを振りぬいた。
「誰だ!」
ユウトは叫ぶ。甲高い片言な言葉はくぐもって聞こえた。
その時小袋の縛り口が弾け赤い何かが顔を出す。よく見るとそれは鳥だった。キョロキョロと周りを見回す深紅の鳥の頭、黒い目と口ばしがある。一時の間が流れた。
「ユウト。斬れ」
「マッテ!ヤメテ!コロサナイデ」
容赦ないガラルドの指令を鳥は懸命に叫びさえぎる。
「これは魔物なのか?」
ディゼルが不思議そうに誰に尋ねるでもなくつぶやいた。
「ハイ!マモノ。デモ、テキ、チガウ。
ヤク、タツ。コロサナイデ!」
鳥は片言の単語を並べて意思を伝える。
「言葉を発する鳥は記録に見たことあるが魔物は会話もできるのか。驚いた」
ヨーレンが感心している。緊迫した空気が少し緩みどう収集させるか決断を決めかねていた。
「どうするの?命乞いしてるけど」
レナが誰に向けるでもなく尋ねる。そこにセブルが鳴いた。
「なう~な(本当に敵じゃないんだな)」
セブルの発する言葉の意味がユウトには分かる。
「テキ、チガウ!テキ、チガウ!」
ユウトは鳥の声、意思を読み取ろうと集中する。敵意も悪意もなくひたすらに必死さだけが伝わってきた。
「なぅな(たぶん大丈夫だと思います)」
「わかった。この鳥、オレにあずからせてくれないか?
信用があるような立場ではないけどここで殺してしまうのはもったいない。何か情報を得ることができるかもしれないし、危険性があるならとりあえず俺が持っておくのが一番被害が少なくて済むと思う。どうだろう」
ユウトはガラルドとディゼルに目配せする。ガラルドは構わん、と即答した。
「僕もユウトにまかせるよ。今から大工房へ向かうならそこでの調査を行ってその報告書を直接調査騎士団の方に回して欲しい」
「わかった」
ディゼルの隣でカーレンが不服そうな顔をしているように見えたがユウトは触れない。
魔剣を腰のベルトに戻しユウトは小袋から顔を出す鳥に近寄り慎重に両手でつかんで持ち上げる。ユウトはここで爆発でもしたらと脳裏を最悪な想像がよぎるが構わず無視して袋を開けた。
全身が袋から露出する。大きさは小鳥のように小さく全身が赤い。一部がオレンジでとても鮮やかだった。
「アリガトウ!ホント、アリガトウ!」
鳥は甲高く声を上げユウトの肩や頭、手をはしゃぐように飛び跳ね回る。その様子を見ていたセブルはレナの首元から素早く離れると地面をひと跳ねしてユウトの首元に取り付き、一声鳴いた。
「にいぃーう(調子にのらない)」
鳥はびくりと体を震わせユウトの頭の上で大人しくなり、ハイと小さく鳴いた。ユウトは苦笑する。
台形の板状に削られた棒の端とくびれがありさらに縦にそって円形の溝が彫られている。その形はライフル銃をユウトに連想させた。
「魔鳥との戦いの最中。魔鳥が不自然に態勢を崩す瞬間があった。それとほぼ同時か少し前に河の岸辺が一瞬光るのを見てその周辺を調査してこれを見つけた。
これが何かはわからん。
魔鳥は何かの衝撃を受け、態勢を崩したと考えられる。そして俺は似た状況を経験した。ゴブリン討伐遠征において戦闘を行ったゴブリンが同じような現象を起こしている。
このことからあの時のキング級のゴブリンの生存は確かになったと判断する」
ガラルドが饒舌に語るのを聞くのはユウトは初めてだった。補足するようにヨーレンが続いて語りだす。
「ただ謎が多い。なぜ我々の近くにいたのか、魔鳥への攻撃の目的、ユウトを河から助けた何かとの関係。一番厄介な仮定はユウトの命を狙うことが目的、かな。もしくはユウトを取り戻そうとしている、とか。どちらにせよこの先、予断を許さない」
大工房までは自身の生命は保証されていると思っていたユウトには気持ちが重くなる話だった。
魔鳥戦で見た円錐形の飛翔物はやはり弾丸でガラルドの回収した木の棒は弾丸を打ち出すために使った何かしらの銃の部品だとユウトは推察する。もしゴブリンが正確な狙いをもって破壊力を持った弾丸を遠距離から撃ち出す術を持っているならば、常にその恐怖に晒され続けなければならないと考えていた。
自然とユウトの顔は曇る。
「ユウトを狙っているのなら好都合だ。次は必ずあの頭を叩き潰す」
ユウトに気を使ったのかどうかわからないガラルドの意気込みがおかしくてユウトは思わず笑ってしまった。
「ハハハ!そうだな。その時はよろしく頼むよ、ガラルド」
沈みかけた気持ちをユウトは少しわざとらしく笑い飛ばしていつもより大きな声で話す。ユウトの気持ちを察してか皆それぞれ苦笑したり押し黙ったりだった。
「報告は以上だ。出発は明日早朝」
ガラルドは唐突に告げて木の棒を麻袋に戻しだす。ユウトはあることを思い出しガラルドに声を掛けた。
「あっ、そういえばガラルド。返しそびれていた丸薬だ。とても役に立ったよ」
ユウトはそういいながら丸薬が入っていた小袋を括りつけていたベルトから外そうとしたとき小袋が内側から激しく暴れ出しユウトは地面に落としてしまう。落ちた小袋はもそもそとうごめきつづけユウトは慌てて距離を取った。
それを見たこの場にいる全員の動きは素早く一斉に警戒態勢に入り身構える。
「ユウト。斬れ」
ガラルドが即決の指令を発する。
「わ、わかった」
あまりの判断の速さにユウトは気後れしてしまう。すでに手に持っていた魔剣に力を込め身長に事を進めるためあらかじめ光の刃を発生させた。
小袋までの距離を念頭に入れて長さを調節し振りかぶって下ろす。
「マッテ!マッテ!」
声が鳴り響いた。
ユウトはとっさに振り下ろす光の刃の発生をやめ、柄だけを振りぬいた。
「誰だ!」
ユウトは叫ぶ。甲高い片言な言葉はくぐもって聞こえた。
その時小袋の縛り口が弾け赤い何かが顔を出す。よく見るとそれは鳥だった。キョロキョロと周りを見回す深紅の鳥の頭、黒い目と口ばしがある。一時の間が流れた。
「ユウト。斬れ」
「マッテ!ヤメテ!コロサナイデ」
容赦ないガラルドの指令を鳥は懸命に叫びさえぎる。
「これは魔物なのか?」
ディゼルが不思議そうに誰に尋ねるでもなくつぶやいた。
「ハイ!マモノ。デモ、テキ、チガウ。
ヤク、タツ。コロサナイデ!」
鳥は片言の単語を並べて意思を伝える。
「言葉を発する鳥は記録に見たことあるが魔物は会話もできるのか。驚いた」
ヨーレンが感心している。緊迫した空気が少し緩みどう収集させるか決断を決めかねていた。
「どうするの?命乞いしてるけど」
レナが誰に向けるでもなく尋ねる。そこにセブルが鳴いた。
「なう~な(本当に敵じゃないんだな)」
セブルの発する言葉の意味がユウトには分かる。
「テキ、チガウ!テキ、チガウ!」
ユウトは鳥の声、意思を読み取ろうと集中する。敵意も悪意もなくひたすらに必死さだけが伝わってきた。
「なぅな(たぶん大丈夫だと思います)」
「わかった。この鳥、オレにあずからせてくれないか?
信用があるような立場ではないけどここで殺してしまうのはもったいない。何か情報を得ることができるかもしれないし、危険性があるならとりあえず俺が持っておくのが一番被害が少なくて済むと思う。どうだろう」
ユウトはガラルドとディゼルに目配せする。ガラルドは構わん、と即答した。
「僕もユウトにまかせるよ。今から大工房へ向かうならそこでの調査を行ってその報告書を直接調査騎士団の方に回して欲しい」
「わかった」
ディゼルの隣でカーレンが不服そうな顔をしているように見えたがユウトは触れない。
魔剣を腰のベルトに戻しユウトは小袋から顔を出す鳥に近寄り慎重に両手でつかんで持ち上げる。ユウトはここで爆発でもしたらと脳裏を最悪な想像がよぎるが構わず無視して袋を開けた。
全身が袋から露出する。大きさは小鳥のように小さく全身が赤い。一部がオレンジでとても鮮やかだった。
「アリガトウ!ホント、アリガトウ!」
鳥は甲高く声を上げユウトの肩や頭、手をはしゃぐように飛び跳ね回る。その様子を見ていたセブルはレナの首元から素早く離れると地面をひと跳ねしてユウトの首元に取り付き、一声鳴いた。
「にいぃーう(調子にのらない)」
鳥はびくりと体を震わせユウトの頭の上で大人しくなり、ハイと小さく鳴いた。ユウトは苦笑する。