第2話 謎の暗号

文字数 4,968文字

5階までは、エレベーターで行く事に。
2人は乗り込んで5Fのボタンを押した。
閉まろうとする扉に
滑り込むように2人の男が乗ってきた。
その内の若い方の男がママに声をかけてきた。

「ハアハア何とか乗れた・・・え・・? 
もしかして先輩ですか?」
突然声をかけられビクッとなるママ。

「はい?? あ・・あら? こんな所で会うなんて
・・久しぶりね! 高校以来よね? 10年振り位よね? 
あなた八郎君? 七瀬八郎(ななせはちろう)君でしょ? 
本当久しぶりねー今何してるの?」

「そ、それがまだ大学生なんですよ・・
八浪して今年やっと入れましたからね・・
本当に色々ありました・・」

「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」

その言葉に、エレベーター内の皆がギョッと驚き
八郎に視線が集中する。

「わあ?」
八郎は視線が集中されて驚く。

「え・・嘘でしょ? は、はははははははは八浪って
・・冗談よね? 冗談だろ? ほら! 嘘だピョーン♪ 
って言いなさいよ!!! 
小学校の6年間よりも2年も長く同じ勉強をしても
合格できない大学なんてあるの?
あっそうよ! 八郎君だけに八浪しちゃいましたって
いうギャグなのね? そうだと言ってよ はーちぃ!」
自分の関わった後輩に限って、そんな事が
起こり得る筈が無いと現実逃避するママ。

「残念ながら本当なんです・・」
八郎は、顔だけでなく耳たぶまで赤くなりながら。
頭、眉、目、唇の両端、肩、腕、腰、そして
プライドも、人間の落とせそうな部位を
全て落としながら力なく答える。

「え、本当にそうだったの? 
ま、まあ運が良くなかったのよね? 
だって高校時代の八郎君
すごい聡明だった記憶あるもの」

「いえ・・本当実力不足です・・」

「あ、ごめん・・それで今日は泊まりに来たの? 
しかしすごい偶然よね」
かつての高校時代の後輩八郎から
さらっと衝撃の告白をされ、ドン引きするママ。 

「ええ夏休みですし、バイト代をはたいて
彼女と来たんですよ。中々出無精なので
誘うのに苦労しましたが。彼女は今部屋で寝てるんで
暇つぶしに回っていたんです。
先輩は、今何してるんですか? 
お子さんもいるみたいですし専業主婦ですか?」

「ふふふ、ただのおばさんに見えるけれど、 
こう見えても新米刑事よ。
今日は、娘と買い物に来たのよ」

「え? へえ、刑事さんなんですか!? 
凄いじゃないですか先輩! おばさんって・・
まだ30前でしょ? 全然若いですよ。
ギャルですよギャル!
はあ~でも、そんな事聞かされたら
いつまでも燻ってないで頑張らないといけないな
って思ってしまいましたよ・・」
かつて、共にバスケ部で汗を流した先輩が刑事と言う
男でも憧れる職業に就いている事を聞き、焦る八郎。

「そう、頑張りなさいよ。一刻も早く卒業しないとね
彼女さん泣かせちゃ駄目よ!」 

「分かっていますよ・・」
ばつが悪そうに頭を掻きつつ、弱気に答える。

チーン。4階に到着したようだ。 
「じゃあ先輩、ここで失礼します」

「ええ」
八郎達は4階で降りていった。 

そして、アリサ達が泊まる部屋のある5階に到着。 

「それにしても、こんな所で後輩に会うなんて
驚いたわ、世間は狭いのねー。
あの子、私の2つ後輩の七瀬八郎くんよ。アリサ
イケメンだけど、
八浪するような男は彼氏にしちゃだめよ」

「でも、八浪してでもそこに受かりたいって
思うのはガッツがあるとは言えないかしら?」

「言えないわ」
バッサリ切り落とす。

「ですよねっ!」

503のドアを探していると、廊下で
女の大声が響いて来た。

「何なのよ、この紙切れは!!!」

その声を聞くや否や、声の主の元まで
走っていくアリサ。

すると女が、このホテルのボーイだと思われる
若い男性に話をしていた。
話していると言うよりは、母親が子供を説教している
感じの雰囲気。若干女の方が背が高く、ボーイを
威圧している様に見える。

「わ、私は知りません。
お連れの方の残した物ではないですか?」
まだ新米であろうホテルのボーイは
ひどく怯えながら言った。

「私は、一人で泊まりに来たのよ! 
たまたまではなく私は常に一人なのよ?
今までもそう、そして多分これからも・・
そんな私に、お連れの方なんて人は居ないのよ!!」

どこか悲しいセリフが5階中に響き渡る。
その時、女の頬にはキラリと一筋の何かが
光った様に見えたが気のせいだろうか?

「気のせいじゃないわよ! ぐすん」
ぬがっ?

「ところであなた・・よく見たらかっこいいじゃない
彼女はいるのかしら? 
もし居なければ付き合・・あれれー?」
女が何かを言い終わる前に、危険を察したボーイは
まるでヘッドバットを相手にかますほどの勢いで
一礼して去って行った。
丁度アリサの方向に逃げてきたので
ボーイに声をかけてみる。

「何かあったの? あら、泣いているじゃない!」
ボーイは自分よりも大きい女性に
自分より遥かに大きい声で怒鳴られ
完全に戦意喪失している。

「うう、怖かったです。まだここに入って
一ヶ月目なんですが
大迫力のお客様につかまってしまい
何がなんだか分からなくなってしまいまして、くすん」

「そうだったの。あ、あの人ずっとこっちを見てるわ。
ごめんね、呼び止めちゃって。さあお逃げっ」

「はい、あなたは小さいのに優しいのですね」
ボーイはそそくさと逃げていった。

「全く、小さいは余計なのに!」
アリサは文句を言いつつその女の所へ向かってみる。

「全くもう、照れ屋さんなんだから。まあいいわ
あっ、これツイートしないと。謎の紙切れ届くナウ」
携帯で暗号を撮影し、ツイッターに呟き始める女。
どうやら何かがこの女に届いた様で
それに怒っていたのか?
そんなやり取りを尻目に、アリサはこそこそ近づき
その紙を覗き込んでみた。
アリサはこういうのが大好物なのだ。
見るなと言われても見てしまうだろう。



カタカナのサの中に、小さいカタカナのス
が入っているような記号?
(まだ習った事は無いけど
中学生位で習う何かの単位のマークなのかな?
下の方には、よく見えないけど
赤と緑色の文字が書いてある、一体何かな?)

「こら! そこの子供! 何を勝手に見ているの?
もしかしてあんたがこの悪戯をやったの? 
さあ! 白状しなさい!!」
女が、アリサに気付き、聞こえていると言うのに
態々(わざわざ)大きい声で話し掛けてくる。

「しっ知らないですよー
ちょっと気になったから見ただけですよー」
突然必要以上に大きい声をかけられ
声が裏返り敬語で話すアリサ。

「こらアリサ!! すいません。この子
好奇心旺盛でして503号室はあっちでしょ? 
早く来なさい!!」
ママが駆けつけ謝る。

「全く・・一体何の悪戯かしら?
・・ふう、何か熱いわね・・」
ママを一瞥(いちべつ)すらせず、態々足音を
ドスドスと立てて去っていった。

 あの女、語気が荒くかなり怒っていた様だ。
額からも脂汗をだらだら流していた。
夏休みに入ったばかりで暑いとはいえ
空調の効いたホテルの廊下でそんなに汗が出るのかと
心配になる程の量だった。
何かに怯えている様な、焦ってる様な雰囲気さえ感じた。

「アリサ、余計な事に首を突っ込んだら危ないわよ」

「分ったよー。でも何だったのかしら? 
あの暗号、気になるー」
しかし。このアリサの言動。
ママの言った事が分っていないようにも見える。
色々あったがようやく503号室に入る。
客室は、スイートルームが53階にのみあるが
それ以外は皆同じ間取りである。
12畳位のリビングに、コーヒーにミルクを入れ
かき混ぜた様な茶色と白のマーブル模様のテーブル。
椅子は2脚で、テーブルの上には
同様にマーブル模様の花瓶があり
色とりどりの綺麗な花が飾ってある。
大体の家具はその茶色で統一されている様だ。
窓の外にベランダがあり、明るければ街を見渡せる。
シャワールームもあり
寝室には大きなベッドが2つあった。

「食器棚に色々入ってるね。
都会のお皿はどんな綺麗な物のかなあ。・・あれ?」
皿の中央に何か茶色い物がある
。皿を洗わずに食器棚に戻したのであろうか?
近くで見てみると・・!!
なんと、先程のオーナーの笑顔のプリントがされていた!
イラストではなく、実際に撮った写真をプリントしたので
無精髭とかまでリアルにしっかり印刷されていた。
自己主張の強い男なのであろう。

「きゃああああああ! 
なんで? 気持ち悪いよ、こんなお皿。
誰がこれに食べ物乗せるのよ? 
割りたい、割りたい、これ割りたい!」
アリサは発狂する。

「アリサ、割っちゃ駄目よ。
この部屋に泊まる前に名前と住所を
書いてしまっている訳だから
そこから調べられて請求書送りつけられるわよ?
多分夏だから肝試しの一環で
こういうサプライズを仕込んでいるのよ。
お洒落じゃない?」

腑に落ちない事を言うママ。何故我が母親の口から
こんな意味不明で理不尽な言葉が出て来るのだろうと
不思議でならなかった。
きっと何か理由があるのか? 
それはまだ幼いアリサには分からなかった。

「お洒落? これの何が? 
でもお金取られるのは駄目よね・・分かった、割らない」

「偉い!」

そして、アリサは周りをもう一度良く見てみる事に。
すると・・あった。ワイングラス、ティーカップや
コップにもその顔のシールが貼られている。
更によく見ると食器棚の側面の下にも
テーブルの裏にもそれ以外にも、至る所に
茶色い色に紛れ込みシールが貼ってあるようだ。
アリサは無言でそれらを探しては剥がしを繰り返し
丸めてゴミ箱へ捨てた。余程嫌いだったのだろう。
だが皿を割ってしまうよりはまだましである。

「あ、ママ閃いたわ。
お皿のこれが、隠れユッキーなのかしら?
確かオーナーに似ているって話だったわよね?」

「それは無いと思うよ。
確か客室には隠れていないって言っていたわ。
確かに他の宿泊客の部屋に入ってまで探すのは
お互い嫌でしょうし」

「ああ、そういえばそんな事言ってたわね。
記憶力いいわね。分かったわアリサ
じゃあ私はシャワーに行きたいけど先にいい?
その後、隠れユッキーを捜しに行くから」

「別にいいよ」
アリサは、取りあえずふかふかのベッドに寝転がった。
柔らかい羽毛のベッドなのか
体がズブズブとベッドの中に沈んで行く。
しかし、疲れている筈なのに、興奮から全く眠れない。
ぼうっと天井を眺めていると
何故か先程会ったオーナーの顔が浮かんでくる。
モヤーン
それもその筈。ホテルに入ってすぐに出会っただけでなく
色々な家具にもそれは付いていて可哀想な事に
アリサの脳裏に焼きついてしまっている。
小5の女の子にはインパクトが強すぎる顔。

「わー! 何よこれ! やだ。別の事しなきゃ!」
バッ!
アリサはそのイメージを振り払うように飛び起きる。
仕方ないので気を紛らわす為に
今日買った買物袋の中を物色する事に。
買い物袋は大きい紙袋2つと、小さいものが1つ
後はリュックにもパンパンに詰まっている。
アリサの服も幾つかあったので、試着を楽しむ事にした。
ガサゴソ
「あ、これ可愛いなあ♪ 今のうちに着ちゃおっと」

袋の中にあった、苺柄のワンピースを
勝手に取り出し着替える。そして
イチゴ模様のサンダルもあったのでそれも拝借する。
夕食は8時半に行われるらしい。
それまでに少し時間がある。
お気に入りの服も見つかり満足なアリサ。
時間はまだあるので、イチゴのサンダルを装備して
少し出歩いて見る事にした。

「ママー、ちょっとお出掛けしてくるー」

「わかった、でも迷わないようにね。
そうそうユッキーも見つけられたら捜してね」

「はいっ!」 
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