文字数 535文字





放課後。両方の耳朶に絆創膏を付けたままの彼女は人の気配が無い特進科の校舎の屋上に居た。立ち入り禁止区域のそこは整備が行き届いておらず、彼女が凭れ掛かる飛び降り防止柵も朽ちかけていた。手摺の表面は塗料に含まれる顔料が劣化して粉状になってしまったもので、制服が白を纏う。

そんなチョーキング現象に目もくれず、どこか切なさを帯びた顔をした女の見詰める先には生徒会議室があった。
長方形状に膨れたプリーツスカートの襞を白い粉が付いた指でそ、と触れて息を飲んだ。

これからイケナイことをしようとしているのはよく分かっている。一か八かの賭け事。少女は太腿のポケットに静かに手を入れてWHITEと書かれたシンプルなデザインのシガーボックスと簡易ライターを取り出した。未成年者喫煙禁止法を破る背徳感と少しの不安。遠くの方で己の鼓動を感じながら、できるだけ穏便に透明のフィルムを剥がし、上蓋を開け、人差し指と親指で一本摘んでみた。


『・・・・・・』


その状態のまま音を立てずに一呼吸を置いて、珠唯は煙草の口紙を15歳のあどけない顔で咥える。あとはこれに火を付けるだけ。簡易ライターを煽ろうとした時 ─── バァン、と大きな音を立てて屋上の戸が蹴破られた音がして、彼女は愛おしくて仕方が無かった。


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