epilogue jinx (4)

文字数 966文字

 店内にはわたし達以外にはお客がいない。テーブル席が三つに、カウンターには席が五つある。広さとしては狭くなく広すぎなくちょっどいい感じがする。

 あと気になるのは壁に垂れ下がっている、すっごい数のジグソーパズル。大きいサイズから小さいサイズまで種類は様々だけど、とっても綺麗な風景のパズルにちょっとした旅行気分だ。

 わたしはおばさまの話をもっと聞きたいから、カウンター席を選ぶ。

 紙に書かれた本のようなメニューを出されて、陸くんと一緒に見る。紙なんて、いまどきティッシュくらいでしか見ないのに。

「おすすめってなに?」

 メニューを一瞥して、陸くんはミストレスに尋ねた。

「今日はモカかしら。いい豆が入ったの」

「じゃあ、俺はそれで。茜は?」

「あ、じゃ、じゃあわたしもそれで」

 もう!格好いい注文の仕方をするんだから。こういうとこなんだよなぁ。

「はい、じゃあモカを二つで」

 ミストレスは穏やかな手つきで準備を始める。

 喫茶店で珈琲って初めて。ちょっとわくわくする。いつもはスタボかカプセルばっかりだし。

 わたしは喫茶店の珈琲がどうできるか、ワクワクして見ていた。

 まずミストレスは変な道具に珈琲豆を入れた。正方形の箱の上に薬缶みたいな形の器が乗って、天辺にはレバーのようなものがついてる。レバーをぐるぐるとミストレスは回し始める。ガリガリと削るような音が出てきた。あれはなんだろう。

「ねえ、陸くん。あれなに?」

「なんだったっけなぁ。珈琲豆を挽く道具なんだけど、名前忘れたなぁ」

「コーヒーミルって言うのよ。もうあまり見ないかしらね~。いまってほとんどお店やお家じゃコーヒーってカプセルでしょ。一粒でお水入れるだけだから便利ではあるんだけど、やっぱり私はこっちの方が好きなの」

 うん、とっても香ばしい匂いがする。わたしこれ好きかも。

「じゃあドリッパーに入れていくわね」

「ドリッパー?」

「あれで珈琲を抽出するんだよ」

 ここでまた陸くんが博識を披露する。

 ミストレスはドリッパーに挽いた豆を入れ、まずお湯を少し注いだ。

「ここで蒸らすのが大事なのよ」

「蒸らさないと、どうなるんですか?」

「味が濃厚にならないの。蒸らす時間やお湯の注ぎ方でも変化してくるけれど。今日のはとってもいいわ」

 ゆっくりとカップに滴る珈琲は湯気を伴って、かぐわしい香りが漂ってる。

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