RISE

文字数 619文字

 布団に入れど目は冴える。眠れない……「眠れなかった」午前3時。僕はおもむろに起き上がり、ジャージに着替えると、履きなれたスニーカーの踵を踏んで深夜の散歩へ出かけた。
 まだ暗い時間。この辺は何もない。だだっ広い田んぼ道。横には川が流れている。夏には蛍が来るそうだが、まだそんな時期でもない。
 薄闇の中、ヘッドフォンから古くなった曲が流れてくる。石を蹴った。足に感覚。
 ああ、まだ生きている。なんとか生きている。眠れていないのに、呼吸はしている。先ほど布団の中にいたときにあった「眠れない」という焦燥感はなく、睡眠不足のせいか、少しハイな気分だ。ささやかに吹く風が心地よい。
 ――今日はいい天気だな。空には星が宿っている。僕とは違う星。じっと見上げると、グラデーション。オーロラとは違うが、紫の帳が、(そら)を彩っている。

 もうすぐ夜が明ける。

 それでも僕は歩く。何もない広い人生の荒野を。少し歩けば眠くなるだろうか。今夜はちゃんと、眠れるだろうか。いや、もう眠ることは考えなくてもいいか。きっと死んだらいくらでも眠れる。その時が来るまで、僕は歩き続けるのだろう。

 空がだんだんとオレンジに染まってきた。聞こえてくるテンポの速い音楽が、鼓動と重なる。夜が明ける。明けない夜が、いよいよ明ける。立ち上がれ、立ち上がれ。ここでくたばるな。ヘッドフォンから聞こえる歌声が、僕を奮い立たせる。

 僕は駆け出す。あの朝日を超えるために。静かな炎を胸に宿して。
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