第1話

文字数 401文字

  ダン、ダン、
—痛い、痛い。ちょっと強すぎ。
数々の感動をあなたに与えてきた。
でももう私も歳かな…、ある日から突然思うように身体が動かなくなった。
私だけじゃない、あなたももう歳だね。昔からあなたの顔を見ているけども、若い頃と違って顔にシワが目立ってきたね。そのシワは私のせいでできたものかな。
  ダン、ダン
—時には腹が捩れるほどあなたを笑わせたし、顔がクシャクシャになるほどあなたを泣かせたこともあった。一緒にほっこりした気持ちになったこともあった。鳥肌立つような歴史的名場面に共に興奮した事もあった。
  ダン、ダン
—あなたに刻まれたそのシワは私と感動を共有した証。だといいな。
だけど、ごめんね。別れはいつか必ず来るモノだけれどいつ来るか分からない。

「つけ!つけ!」
女はこたつから半身乗り出しながらずっと強い力で箱をたたく。
「つかないなー。このテレビももう替え時かな」
女はブラウン管の埃を乱暴に払った。

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