月詠三言の求愛(5)

文字数 5,211文字

温泉街「キメノ」をあとにした一行は、

ウルチ火山に入った。


ウルチ火山は標高約1200m、山頂付近には背の高い植物は生えておらず、

山麓付近にはスギ、ヒノキ、マツやカシなどが生いシゲっている。


レッドドラゴンは見はらしの良い、

火口付近のホラ穴を根城にしている。

戦略もなく山頂に向かえば、レッドドラゴンが吐く炎につつまれ、


あっという間に、あの世だろう!!


そこは、わたしがホレた男のなかの漢、


荒部隊長はちがうッッ!!


しっかりと戦略と戦術を練っている!


レッドドラゴンは食糧を調達するため、

1日3回、根城をはなれ飛翔する。


その時間は朝、昼、夜と決まっており、

用心のためコースを少しずつ変えている。


隊長はキメノの住人から情報を採取し、

昼の飛翔コースと時間をわりだした。


我々は山麓と山頂の境界線の林に身をかくし、

レッドドラゴンが食事を終え、根城にもどる瞬間を下からねらう。


食事で体が重くなったレッドドラゴンは

低空飛行となり、魔法がとどく距離となるのだ。


ドラゴン族の外皮は凄まじく強固だが、

唯一の弱点は「腹」なのだ。


そして、隊長が口を開く。

もうすぐ、時間だ。

その前に最終確認を行う。

承知した!!
はい!
うぃーす。
まずはレッドドラゴンが上空にあらわれたら、

花咲さんが氷結呪文をドラゴンのハラにめがけて放つ。


つぎに地面に落ちたドラゴンに、

月詠さんが特大の魔法剣を叩きこむ。

魔王にとっておいた特大のをブチかまし、

終わらせてやるッッ!

ムリだっつーの。バーカ。
なんだと貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!
そして、あらかじめ「攻撃力」「スピード力」

増幅する補助魔法を身ノ丈くんからかけてもらった俺が

ドラゴンの首を斬りおとす。といった作戦だ。いいかな?

承知した! おい、花咲としいたけ(身ノ丈)! 

戦闘になったら、ハラから声をだせっ!

もし声がでない状況になったら、

口パクとアイコンタクトを駆使しろ!

てめぇを見るヒマなんかねーし。
ああん!?
ま、声はだしてやらぁ。
それが年上に言う台詞かッッ!!
てめぇが敬語を禁止にしたんじゃねーか。

ほんと頭わりーなぁ。

ぶっ、あはは。
な、なにがおかしいっっ!!
い、いや、これから生死をかけた戦いなのに、

コントみたいだなって…。ふふ、ははは。

はは、確かに。君たちはいいコンビだ。
しいたけとコンビを組めるのは、

おつゆぐらいだバカやろぉぉぉ!


オレの味をひきだしてみろや、おつゆさんよぉ。
よし、そろそろ時間だ。


オレと身ノ丈くん、月詠さんと花咲さんで組み、

二手にわかれよう。


幸運を祈る。

まて! 円陣を組もう!
はぁ? 学生じゃあるまいし…。
これは願かけなのだ。

今までわたしのパーティーでは

誰一人として殉職をしていない。


なぜなら、必ず円陣を組んでいたからだッッ!

…理由になってねーし…

いいかもしれん。さぁ、花咲さん、身ノ丈くんも!
まぁ、隊長がそういうんなら…。
は、はい!
私たちは円となり、利き手をだし重ねた。


戦闘前の円陣は私にとって、とても大切なことだ。

重ねた手が、震えていたり、冷たかったり、

手汗をかいたりするからだ…。


わたしの手の下は花咲だった。

緊張しているのか、微かに震えている。


わたしは花咲の手をグッと握り、

「わたしに任せておけ」とアイコンコンタクトを送る。


花咲は安心したのか、ふーと大きく息を吐いた。

隊長! かけ声を頼む!
では…ごほん。


日本でドラゴン族をたおした者はいない。

だが、このチームなら倒せると信じている。


未来をきり開くのは我々だッッ!

いくぞッッ!!!

おおッッッッ!!
おおー!
しゃっ。
なんでお前は「しゃっ」なんだっ!

腹から声を出せバカモノっ!

うっせ。

苦手なんだよ、こういうの…。

けど、初めてやったが、まぁ、いいんじゃね?

ったく!
そのあと、花咲が笑いだし、はたまた爆笑となった。

いいチームだ。

隊長を中心に、雰囲気もよく、仲間を信頼している。


そして、わたしと花咲、隊長としいたけ(身ノ丈)が

ペアとなり、二手に分かれた。


もちろん、これも戦術だ。

パーティーは4人。2人1組で作戦を行う。

どちらかの組がダメになっても、もう1つの組、

そして1人がダメになっても、もう1人がいる。


補助魔法が使える私としいたけが別々となり、

どちらも攻撃できるこちらの組が先手を打つのだ。


暗闇の林でレッドドラゴンを待っていると、

虫や鳥の鳴き声、そして葉が揺れる音が聞こえる。


普段は気にもとめない音が平静を保つ。


生きていることの喜び

生かされていることへの感謝

これからの人生を歩むために

心を落ち着かせ、

集中力を高めるのだ。



そして、ヤツはやってきた!!

来たぞ! 準備はいいか!
はい!
グオオオオオオオオ
(ん!? なんだ??)
その違和感はすぐに絶望へとかわった。


レッドドラゴンと”わたしの目”があったのだ!

い、いかんッッッ! 
!?
ゴアアアアッッ!!!
レッドドラゴンの口から、

灼熱の炎が放たれるっっ!


わたしはとっさに両手に巻き付けた

呪符をほどく!

『月影守網』!!!!!
剣を天に掲げると月色の網が我々の

上空へと広がった。


だが灼熱の炎は、いとも簡単に網をやぶり、

我々めがけて迫ってくる。


わたしは花咲をハグすると、

全力で地面を蹴り、覆いかぶさった。

ぐああああああああ!!!!!

全身に月の加護の呪符を巻いているので、

ある程度の物理的攻撃は防ぐことができる。


だが、この炎は”ある程度”をはるかに超えていたっ!


まるで、背中に爆弾を落とされたような一撃、

そしてマグマを背中に直接かけられたような、

「殺してくれ」と思えるほどの熱さだった。


気を失いそうになったので、

くちびるの一部を歯でかみちぎった。


地面に横たわっている花咲を見ると、

腕と足、顔の半分が焼けタダレていた。

(早く、しいたけを呼んで治療を施さねばっっ!)

うおおおおおおおおお!!!!!


わたしは林を抜け、山頂付近の何もないところへと走った。


レッドドラゴンがこちらに飛翔する。


そして、しいたけたちが身を隠す林に、

アイコンタクトを送る。

あ、あいつ、まさか、

自分をおとりに!? 

身ノ丈くん! 防御魔法を! 

花咲さんのところに向かうっっ!

無茶しやがって!

『星光加護』!

隊長たちが花咲のところに向かったのを確認し、

背中から剣を二本ぬく。


剣を抜くと同時に

レッドドラゴンが目の前に

ズドンと着地する。

グルルルルルゥゥゥ
(で、でかい!! そ、それになんだこの強固な皮膚は!? まるで鉄柱が重なり巻きつけられたような…
普通ならあまりの迫力に

気負されるところだが、わたしはちがった。


全身の血が沸騰し、燃えあがるのだ。


ただ頭の血が沸騰する前に思ったことは、

「なぜ作戦がバレていたか?」だ。


1つ考えられるのは、キメノの住人が

レッドドラゴンと繋がっていたのかもしれない。


荒部隊長の上司のパーティーは荒部隊長以上に、

戦略を練っていたはず。

さらに他のパーティーも全滅していたことから、

住人とレッドドラゴンの間に密約があるのだろう。


レッドドラゴンがキメノを襲わないかわりに、

住人が討伐パーティーの情報を教える。


そんな仮説を立ててみたが時間切れ。


頭の血が沸騰したッッ!

ふはははははははは!

『飛んで火にいる夏のドラゴン』とは

お前のことだっっ!

貴様は魔王のかませ犬にすぎんっっ!!!

グルルルルルルルル(怒怒怒)


これは魔王にとっておいた必殺技だが、

仕方がないッッッッ!!!!!

”天上月下条例 其ノ参

『月翔斬』!!!!!

二本の刃から金色の斬撃が

レッドドラゴンに放たれる。


1つはドラゴンの左肩に、

もう1つは、地面に落ち、砂煙が舞いあがる。

グアアアアア!?

レッドドラゴンの体がぐらっと左に傾く。


わたしは砂煙の中、

レッドドラゴンの腹をめがけ突撃する。

もらったぁぁぁぁ!!!

”天上月下条例 其ノ四”

『月命剣』!!!!

グオオオオオ!!!
もう少しで腹に剣が届きそうなところで、

ドラゴンの尻尾がわたしを捕えた。

ぐぼおおおぉぉぉッッッ!!

その強烈な一撃で、右腕の骨とあばらが折れたのがわかった。

さらに、ふっとび、岩に全身を打ちつけた。


……………

……………

……………


記憶はそこまでだ。


目を覚ますと、なんの変哲もない病院の

白い天井が目に飛び込んできた。


全身に包帯とギブス、腕には痛み止めの点滴。

どうやら、またヤラれたらしい……。


横をみると、社長とおかめが座っていた。

メロンです。
先方からの報酬です。
(…こ、こいつら…)

レ、レッドドラゴンと、隊長たちは…?

そのとき、病室の戸がトントンと叩かれ、

おかめが入口に向かった。


おかめは深いおじぎをし、こちらに戻ってきた。

『株式会社HERO』の方が、

お見舞いに来てくださいました。

わたしたちは席を外します。


くれぐれも粗相のないように。

そういうと社長とおかめは病室をあとにした。


(ま、まさか、あ、荒部隊長!?)
うぃーす。いきってか?
だ、だれだ貴様ぁぁぁぁぁ!!!!


身ノ丈だっつーの。
…なんだ、しいたけか…
いや、どんだけ荒部隊長にほれてんだよ。
はぁ!? わ、わたしが、だれを??

し、しいたけ! 

冗談は胞子を飛散してからにしろっ!


荒部隊長なら花咲さんと入籍したわ。


ったく、あんないい男に彼女がいないわけねーだろ。

他にも荒部隊長が好きなヤツは五万といたっつーの。


つーか、おまえ、わかりやすいし、隠せてないしで

見てらんなかったわ。

のわあああああああああああ!!
あとから聞いたんだけどよぉ。

花咲さんは隊長が好きになった

唯一の女性だったらしいわ。


若いのに勉強熱心で、上級魔法も使えて、

男に言いよったりもしない。


けど付き合って結婚を考えたら、

魔王退治業は危険だからって、

会社を辞めようか二人して悩んでたらしいわ。


そこにあんたが加入して、助言したんだろ?


結果、レッドドラゴンを倒して、花咲さんは退社。

もちろん、花咲さんの火傷は

俺が手早く治療したから傷はない。

そんで入籍。結婚式は招待するっていってたぜ。


隊長は仕事でこっちにいないから、

俺が代わりに伝えにきたってわけ。


じゃあな。

あ、これ、見舞い。

な、なんだこれは?
しいたけ。

おつゆと一緒に食えや。

まて、この猛きん類ぃぃぃぃぃ!!!!!
いや、それ、鳥だから。

ほんと頭わりぃなぁ。

レッドドラゴンはどうなった??
ああ……


あんたが岩に叩きつけられた瞬間、

回復した花咲さんが氷結呪文を腹にめがけて詠唱。


俺の倍化呪文でパワーアップした、

荒部隊長が首を切り落として討伐成功。


ま、あんたが隙を作ってくれたおかげで、

俺たちは生きてるってわけ。


ま、そんなんで、感謝つーか、

あんたにも、回復呪文かけといたからな。


あと、派遣なら教育係に敬語ならっとけや。


じゃあな。

そういうと、しいたけは病室をでていった。


あまりの衝撃でベッドから、

転がり落ちそうになったのを必死にこらえた。


荒部隊長…くっ、うっ、ううう……


あの夜のハグはなんだったのだ??


ま、まさか、隊長が好きなことがバレていて、

わたしの想いをくみ取った

最大の感謝の行為だったのでは??


うう、くそ、いい男すぎる!!!!

ちくしょう、花咲がうらやましすぎるぅぅ!!


しかし、退社して入籍したということは、

花咲の体には傷がついていないということだ。


……なんだかホッとした。


もう一度、真っ白な天井を見つめる。


白とか黒のものを見ると

モノ想いにふけってしまう。


男とデートができるだろうか?

彼氏ができるのだろうか?

結婚して子を産めるだろうか?


うすうすはわかっている…。


この傷だらけの体では子を産めない

内臓がやられているのだ……。


それでも理想の男と恋愛がしてみたかった。


わたしには「魔王をたおす」ことしか、残されていない。

結婚も他の仕事もできない、選択肢がないのだ。


フリーランスの友人に聞いたことがある。

「どうしてフリーランスを選んだのだ?」


すると友人はこう答えた。

「企業で働くことができなかったから、フリーランスしかなかったの」

魔王よ!手(首)を洗ってまっていろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

貴様を倒すのはこの私だっっっ!!

病院から会社に向かう車の中で、

社長とフミが話している。

社長、今回もうまくいきましたね。

まずは恋愛で「かませ犬」となりチームの士気をあげ、

レッドドラゴン討伐も本来の「かませ犬体質」で

次につなげました。


やはり、月詠さんはエースになれる逸材ですね。

どこの業種も人材不足ですが

企業はなんでもきる「オールラウンダー」を求めています。

しかし、売り手市場でそのような人材は残されていません。


ならばうちのように、

「この仕事は全くだが、この仕事は天下一品」という

人材を見極め、育てていくしかありませんね。

ただ、派遣なので敬語は最低限必要かと…。
そちらはお任せください。

月詠さんが回復したらビシバシ教育します。


あと、あの案件はどういたしましょう?

正直、まだ月詠さんでは荷が重いと感じています。


うちのエースをだしましょう。

承知しました。


それでは今夜も祝杯を?

もちろんです。


我が社の未来に乾杯しましょう。

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登場人物紹介

名前:月詠 三言(つくよみ みこと)

性別:女性
年齢:35歳
種別:人間
職業:人材派遣会社「KAMASEYA!」スタッフ・魔法剣士(2刀流)
魔王退治業20年のベテランだが毎度、短期でクビになる。
性格は短気で見栄っぱり、言動はでかいが貧乳。
甘い物に目がない。

名前:天海 千歳(あまみ ちとせ)

性別:女性
年齢:25歳
種別:人間
職業:人材派遣会社「KAMASEYA!」代表取締役社長
父の会社を引き継いだ若き経営者。
性格はおだやかで親身だがじつはキレもの。
酒が大好きな隠れ巨乳。

名前:フミ

性別:メス
年齢:5歳
種別:オカメインコ
職業:人材派遣会社「KAMASEYA!」のスタッフ
人材の教育や斡旋を主に担当している。
性格は冷静で完璧主義。
趣味はホストクラブに通うこと。

名前:灯真 りりす(あかま りりす)

性別:女性
年齢:17歳
種別:人間
職業:魔王退治業「株式会社キボウノホシ」剣士
音速で剣を操ることができる。
実力はあるが自信過剰で人を小馬鹿にした言動が目立つ。

名前:小平 剛(こだいら ごう)

性別:男性
年齢:17歳
種別:人間
職業:魔王退治業「株式会社キボウノホシ」戦士
力自慢で身の丈の2倍の斧を操る。
人を見下す性格でキレやすい。

名前:身ノ丈 創(みのたけ そう)

性別:男性

年齢:17歳

種別:人間

職業:僧侶。

「株式会社キボウノホシ」→「株式会社HERO」に入社。

回復魔法が得意。いつも眠くけだるくしている。

めんどくさいことはすぐに他人にゆずる性格。

名前:メダマン

性別:不明

年齢:不明

種別:モンスター(スライム族)

職業:魔王の配下・勇者退治。

群れで生息している。攻撃方法は体当たり。

単体では大したことはないが…

名前:荒部 仁(あらべ ひとし)

性別:男性

年齢:40歳

種別:人間

職業:魔王退治業「株式会社HERO」の戦士。

大剣を所持し、剣技に優れ、人格も申し分ない。

「HERO」でも1・2を争う稼ぎ頭。

名前:花咲 るる(はなさき るる)

性別:女性

年齢:20歳

種別:人間

職業:魔王退治業「株式会社HERO」の魔法使い。

若いながら上級魔法をあつかえる貴重な人材。

悩みを抱えているのか口数が少ない。おっとり巨乳。

名前:レッドドラゴン

性別:不明

年齢:不明

種別:モンスター(ドラゴン族)

職業:魔王の配下・勇者退治。

単体で主に火山の近くに生息している。

日本ではドラゴン族を倒したパーティーは…

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