第十九話 人間側の最初の犠牲者
文字数 1,960文字
翌朝、ユウタが朝早くに部屋にやって来た。
「何だい、ユウタ。こんな朝早くに、まだ陽も昇りきっていないだろう。それとも、雌鳥 に哲学の講義でもしようってのか? 最近の鶏は頭がいいって言うからな」
ユウタはむすっとした顔で端的に告げる。
「今朝、朝早くに街を散歩していたら、街の広場で面白いものが見られた。キルアにも教えておいてやろうと思ってな」
「何だ、河童が輪になって踊ってでもいたか。それとも、妖精のお茶会にでも遭遇したか。だったら、妖精から俺の分のクッキーも貰ってきてくれよ」
ユウタがあっさりした態度で告げる。
「ヘンドリックが首から上だけになって、街の広場に曝 されていた」
(ヘンドリックは悪い奴ではないが、運がなかったな。だが、もし、シャーロッテの仕業なら、俺にも責任の一端は、あるか)
「まじか? やっちまったのかお姫様が? ちと、気が早過ぎるぜ」
ユウタは難しい顔をして肩を竦める。
「手口から見てシャーロッテが直 に手を下してはいない。だが、警備された街の中での犯行だ。悪魔の可能性はある。となると、ヘンドリックがシャーロッテを怒らせて、配下の誰かが手を下したとも考えられる。俺の見立てでは五分五分だな」
「確率はどうだっていい。お姫様に嫌疑が懸かる展開が問題だ。現状ではゴブリン軍の仕業かもしれない。ゴブリン軍にしたら、お姫様に罪を着せて人間と悪魔を分断したいはずだ。人間に後ろ盾がないほうが従順になると、ジャジャなら考える」
ユウタは澄ました顔で、当然のことのように発言する。
「キルアの指摘も当然に考慮した。その上での五分五分との判断だ」
「とりあえず、俺もヘンドリックの顔を拝んでおくか。準備する。少し待ってくれ」
(ヘンドリックの顔を拝んだところで、ヘンドリックが生き返るわけではない。だが、現場に行かねばわからない情報もある。早朝から面倒な事態になったぜ)
キルアは着替えるとユウタに連れられて、街の広場に移動する。早朝のため、人間の姿はほとんどなかった。代わりに野良猫が悠々と歩いている。
「街だけが、相変わらず平和だな。見ろよ、野良猫が子供を連れてのお散歩だ」
「猫に人間やゴブリンの戦争は関係ない。もっとも、人間でも目を閉じて耳を塞いでいる猫以下の奴もいるがな」
「ここだけ見れば、戦争なんて、隣の庭で行なわれる餓鬼のスポーツのようだ」
ユウタが穏やかな顔で意見する。
「随分と薄氷の上に成り立った平和だな。スポーツの起源を遡れば戦争に行き着くと唱えている哲学者もいるから、間違いではないが」
「戦争中なんだ誰かが死ぬ。普通は名もない兵士からばたばた死んでいく。だが、今回は事情が違う。名前のある偉い奴から死んでいく。人数も三人と、片手で数えられるくらいだ。現場の兵士はほっとしているだろうが、ここからがまずい」
ユウタが真剣な顔で頷いて、見解を語る。
「そうだな。現状は、誰か一人のちょっとした意地や悪意の一押しで崩壊しかねない。その一押しをジャジャがするとは限らない。人間が愚行を断行するのなら、今度は人間側の邪魔者を間引かなければならない」
「悪魔でよかったよ。街のためって大義があるなら、ゴブリンにも人間にも肩入れしなくて済む。結果、大きな視野から重要な決断ができる」
ユウタが思案しながら、おもむろに語る。
「悪魔王様もキルアと同じ意見で介入を決めたのかもな」
「よせよ。俺はお偉いさんとは違う。地べたを這いずるような悪魔だ」
街の広場では、すでに二十人ばかりの人だかりができていた。
広場中央の銅像の手の上にヘンドリックの首はあった。
銅像は高さ四mで、馬に跨 った騎兵のものだった。
「ヘンドリック、変わり果てた姿になっちまったな」
現場には血痕が大量には見られなかった。ヘンドリックは別の場所で殺されて、首を切断されて像の上に曝されたと見てよかった。
キルアたちがヘンドリックの首を眺めていると、通報を受けた街の衛兵が来た。
これから、ごたごたすると思ったので、キルアとユウタは公園を後にする。
「現場を見たが大して収穫は、なし。あえて言えば、ヘンドリックはもう西瓜を食えなくなっちまったことぐらいか。あと、苦悶の表情でない点が唯一の救いだな」
ユウタが真剣な顔で提案した。
「死亡推定時刻や殺害になった現場についての情報は必要か? 必要なら、調べてくるぞ」
「とりあえず、飯にしようや。ユウタが汗を流して泥塗 れにならなくても、衛兵さんがこまめに動いて調べてくれる。必要なら衛兵から情報を貰えばいい」
「他人任せはあまり好きじゃないが、飯を喰う時間くらいはある」
「何だい、ユウタ。こんな朝早くに、まだ陽も昇りきっていないだろう。それとも、
ユウタはむすっとした顔で端的に告げる。
「今朝、朝早くに街を散歩していたら、街の広場で面白いものが見られた。キルアにも教えておいてやろうと思ってな」
「何だ、河童が輪になって踊ってでもいたか。それとも、妖精のお茶会にでも遭遇したか。だったら、妖精から俺の分のクッキーも貰ってきてくれよ」
ユウタがあっさりした態度で告げる。
「ヘンドリックが首から上だけになって、街の広場に
(ヘンドリックは悪い奴ではないが、運がなかったな。だが、もし、シャーロッテの仕業なら、俺にも責任の一端は、あるか)
「まじか? やっちまったのかお姫様が? ちと、気が早過ぎるぜ」
ユウタは難しい顔をして肩を竦める。
「手口から見てシャーロッテが
「確率はどうだっていい。お姫様に嫌疑が懸かる展開が問題だ。現状ではゴブリン軍の仕業かもしれない。ゴブリン軍にしたら、お姫様に罪を着せて人間と悪魔を分断したいはずだ。人間に後ろ盾がないほうが従順になると、ジャジャなら考える」
ユウタは澄ました顔で、当然のことのように発言する。
「キルアの指摘も当然に考慮した。その上での五分五分との判断だ」
「とりあえず、俺もヘンドリックの顔を拝んでおくか。準備する。少し待ってくれ」
(ヘンドリックの顔を拝んだところで、ヘンドリックが生き返るわけではない。だが、現場に行かねばわからない情報もある。早朝から面倒な事態になったぜ)
キルアは着替えるとユウタに連れられて、街の広場に移動する。早朝のため、人間の姿はほとんどなかった。代わりに野良猫が悠々と歩いている。
「街だけが、相変わらず平和だな。見ろよ、野良猫が子供を連れてのお散歩だ」
「猫に人間やゴブリンの戦争は関係ない。もっとも、人間でも目を閉じて耳を塞いでいる猫以下の奴もいるがな」
「ここだけ見れば、戦争なんて、隣の庭で行なわれる餓鬼のスポーツのようだ」
ユウタが穏やかな顔で意見する。
「随分と薄氷の上に成り立った平和だな。スポーツの起源を遡れば戦争に行き着くと唱えている哲学者もいるから、間違いではないが」
「戦争中なんだ誰かが死ぬ。普通は名もない兵士からばたばた死んでいく。だが、今回は事情が違う。名前のある偉い奴から死んでいく。人数も三人と、片手で数えられるくらいだ。現場の兵士はほっとしているだろうが、ここからがまずい」
ユウタが真剣な顔で頷いて、見解を語る。
「そうだな。現状は、誰か一人のちょっとした意地や悪意の一押しで崩壊しかねない。その一押しをジャジャがするとは限らない。人間が愚行を断行するのなら、今度は人間側の邪魔者を間引かなければならない」
「悪魔でよかったよ。街のためって大義があるなら、ゴブリンにも人間にも肩入れしなくて済む。結果、大きな視野から重要な決断ができる」
ユウタが思案しながら、おもむろに語る。
「悪魔王様もキルアと同じ意見で介入を決めたのかもな」
「よせよ。俺はお偉いさんとは違う。地べたを這いずるような悪魔だ」
街の広場では、すでに二十人ばかりの人だかりができていた。
広場中央の銅像の手の上にヘンドリックの首はあった。
銅像は高さ四mで、馬に
「ヘンドリック、変わり果てた姿になっちまったな」
現場には血痕が大量には見られなかった。ヘンドリックは別の場所で殺されて、首を切断されて像の上に曝されたと見てよかった。
キルアたちがヘンドリックの首を眺めていると、通報を受けた街の衛兵が来た。
これから、ごたごたすると思ったので、キルアとユウタは公園を後にする。
「現場を見たが大して収穫は、なし。あえて言えば、ヘンドリックはもう西瓜を食えなくなっちまったことぐらいか。あと、苦悶の表情でない点が唯一の救いだな」
ユウタが真剣な顔で提案した。
「死亡推定時刻や殺害になった現場についての情報は必要か? 必要なら、調べてくるぞ」
「とりあえず、飯にしようや。ユウタが汗を流して
「他人任せはあまり好きじゃないが、飯を喰う時間くらいはある」