第10話 テロリストに試し打ちしたい少年

文字数 1,670文字

(10)テロリストに試し打ちしたい少年

お菊さんに原子の合成方法を教えてもらってから、武は実践に使ってみたくて仕方がない。
お菊さんの実家までの道を歩いている間、お菊さんの自宅でお茶を飲んでいる間、いろんな原子の合成パターンを試している。

試し打ちをしてみたい。
だが、失敗して誰かに当たったらマズイことになる。

ピーチ・ボーイズが出てきてくれたのは、好奇心旺盛な武にとって絶好の機会だった。

武が試し打ちしてピーチ・ボーイズの何人かが死んでしまっても、この惑星の人間ではないから罪にはならない。
許してもらえそうな気がする・・・。

― ピーチ・ボーイズに試し打ちしたい!

武の頭は完全にそっち(試し打ち)に取りつかれている。

武はピーチ・ボーイズを敵と想定し、捕獲に有効な原子の組合せを幾つか考えることにした。


まずは気体によるテロリストの無効化だ。

炭素(C)と酸素(O)を使って二酸化炭素(CO2)を作る場合、炭素(C)の原子量は12、酸素(O)の原子量は16だから、二酸化炭素(CO2)は原子量44(=12+16×2)。
一酸化炭素(CO)であれば原子量は28(=12+16)だから、こっちの方が効率的だ。

ちなみに、気体1mol(6×10^23個)の体積は22.4リットルだから、原子を合成して生成できる量は水よりも遥かに大きい。
テロリスト1人であれば一酸化炭素(CO)が1molあれば致死量には十分だ。

毎年何人か一酸化炭素中毒で死んでいるから、テロリストを無効化するのに役立つはずだ。
一酸化炭素を大量に放出したらテロリストは呼吸困難になるし、意識を失わせれば動きを封じることができる。そう武は考えた。


次は殺傷能力のある金属原子を飛ばす方法だ。

最も軽量の金属元素はリチウム(Li)だ。
元素番号3、原子量7だから軽い。水(H2O)よりも軽いから量産には適している。
数ミリ四方の大きさのリチウムを水素(H:原子量1)で圧縮して飛ばせば、テロリストを殺傷できるはずだ。
武はさっきから0.01ミリのリチウムを水素で飛ばして実験している。部屋のカーテンにピシピシ当たっているから、威力はありそうだ。

リチウム弾での射撃は使えそうだと武は考えた。


そして、武がチャレンジしたいのが原子に含まれる自由電子の操作だ。
自由電子を集めればアレができる。

― レールガン(電磁砲)

最外殻電子(一番外側にある電子殻を回っている電子)が不安定な原子(K殻:2個、L殻:8個、M殻:18個の場合は安定するため、それ以外の構造をしている原子)から自由電子を取り出すことができれば、理論的には操作は可能だ。

武は試してみたいのだが、他の原子の合成と違って周りの人が感電したり、発火したりする可能性がある。
安全な環境で、余裕があれば試してみようと武は考えた。

考察の結果、武は一酸化炭素による窒息とリチウム弾の射撃を試すことにした。

***

武とお菊さんはピーチ・ボーイズが立て籠っているA地区にやってきた。
武の約50メートル前のビルにピーチ・ボーイズが潜伏している。
武が目視で確認したところ、ビルに立て籠もっているピーチ・ボーイズは5人。全員が自動小銃で武装している。

まず、武は他の4人から離れてビルの右端の部屋にいるテロリストに狙いを定めた。
そのテロリストがいる部屋はガラスが破損していないので室内は密閉されている。その部屋の壁には換気のために設けられた換気口が設置されている。
換気口から一酸化炭素を流し込めば、テロリストの意識を奪うことができそうだ。

武の場所から換気口までは20メートル。換気口が設置されている壁には窓は付いていないから、武はテロリストに気付かれることなく換気口に辿り着けそうだ。
さらに、気体を拡散させるような強風は吹いていない。

武は一酸化炭素(CO)を生成しながらビルの方へ近づいた。
壁の換気口に近づくと、武は生成した一酸化炭素を換気口に向けて一気に放出した。

一酸化炭素で充満される室内。
しばらくすると部屋にいたテロリストが倒れた。

― やった! 成功!

一酸化炭素中毒作戦は成功した。
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