12月14日/帰り道

文字数 854文字

 忘れないように左腕に残った血の跡を拭き取り、ガーゼを当てて包帯を巻く。ブレザーの袖で隠せば、私のその傷に気づく人は誰もいない。
「寒いな」
 呟く。煌々としたコンビニの灯りが、誘蛾灯のように私を誘った。少し温まったらすぐ出るから......そう自分に言い訳しながら、自動ドアをくぐる。
「いらっしゃいませぇー」
 夜のコンビニ特有の、力の入り過ぎない店員の声が私を出迎えた。

 約十分後。中華まんを頬張りながら、袋を片手に私は家路についていた。甘い中の餡がとても美味しい。一瞬体重計が脳裏をよぎるが、気づかなかったことにする。
 何事も焦らない焦らない。明日から明日から。

 ぺろりと中華まんを平らげた後、私は男の子の事を思い出す。幸せの木の前で会った、『お父さんが僕を叩かないようになったら嬉しい』子。銀髪で、小学生で。
 沼の底のような、深海魚のような、絶望を湛えた瞳の子。
 私は家族に叩かれた事はない。だから、あの子の辛さは想像できても理解できるなんて言えない。けれど一つ確かなのは、私はあの子に心休まる日が訪れるのを願いたい、という事だ。
「話を聞く以外に力になれる事、あるといいけれど...」
 大型の100円均一ショップの横を通り過ぎる。家まではもう少しだ。
 とにかく、幸せの木を大きくしようと思った。彼も日々成長する木を見ていたら、何かプラスの気持ちを持つことができるかもしれない。
「よし、がんばろ」
 白い息を吐いて、私は空を見上げる。
 星がとても綺麗だった。
 明日もきっと、晴れるだろう。

 マンションにたどり着く。ポストにパンパンにつめこまれたチラシ類を取り出し、不要なものは共有のゴミ入れに捨てる。階段を登り、私の家に向かう。途中で鍵を取り出して、キーホルダーの先をカチャカチャ鳴らした。
『勧誘、セールスお断り!』のシールが剥げかけていた。またネットで頼んでおかなきゃ、憶えておこう。
 鍵を開け、私は玄関から室内に入る。
「ただいま」
 小声で呟く。暖気と強い煮物の匂いが、這い出るように奥の部屋から流れてきた。
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