12月17日/雨の降る神社裏手

文字数 733文字

 冷たい雨が降っていて、当然ながらあの子は来ていなかった。
 もしかしたら、なんて思って来てはみたものの、私はただ一人で血を幸せの木に与えているだけだった。
 良いことではある。こんな雪になりそうな雨の深夜に、小学生が出かけるものではない。
「はあぁ……」
 息を吐く。傘越しの雨音にかき消されて、その音は私の耳にすら届かなかった。
 便りがないのは元気な証拠、という言葉もある。あの子だって一人で今まで生きていたのだ。今日急に何かあったわけではないだろう。
 たまたま、雨だったから来れないだけで。もしかしたら今日は、昨日話していたクラスメイトと会っていて疲れたのかもしれないし。
 何も心配することではない。
 ――今の私が、心配することではない。
「とにかくに 道ある君の 御世ならば 事しげくとも 誰かまどはむ」
 自分に言い聞かせるように言う。
 心配していないなんて――進路に悩んでいる、私も聞きたい言葉だったけれど。

 雑に――血が服につかない程度に包帯を巻くと、私は置いていた荷物をまとめて立ち上がった。そろそろ帰らないと風邪をひいてしまう。
 滑らないように気を付けながら、私は石段を下りた。田舎のこの時間は、車通りすらもう少ない。私はアスファルトの凹みにできている水たまりに気を付けながら、急ぎ足で自宅に向かった。
 今日はコンビニの明かりに惹かれることもなかった。
 
 無言のままマンションに着き、家の扉を開けた。
 マンション前で払ったものの、まだ少し傘には水気が残っている。
 とりあえずシャワーが浴びたかった。
 今日は廊下の奥から暖気は漏れてこなかった。母は食事で出かけているようだ。
 細く長く息を吐いて、私は廊下にあがる。靴下のしっとりと濡れた冷たい感覚が、不快だった。
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