4 ✿ 親愛では足りない

文字数 838文字

涙雨が止むよ、ジョン

誰!?
声の聞こえた方を振り返るが、そこには誰もいなかった。
(今の声は聞き覚えがある。自分の前世修道士だ。「涙雨が止む」とは…?)

先程から急に降り出した雨は、窓を打ちつづけていた。


雨が止む気配はないのに。

この雨は…止む。

もしかすると、哀しみが終わるということ?

ジョンはソファから立ち上がった。


ラルフのデスクへ早足で向かう。

私用を思い出したので、先に出たいのですが。よろしいですか

おお! 行ってこい!

便には遅れるなよ。

行ってらっしゃい。

頑張れよ!

フレー、フレー、ジョン!

は……はい。頑張ります!
な、なんだ? なにが始まるんだ?

ジョンは警視庁を出ると、タクシーに行き先を告げ、

途中、花屋に寄ってください。
タクシーは、花屋の駐車スペースに停まった。

ここで待っていただけますか。

お客さん、ちょっと待って。

これをどうぞ

運転手がを差し、手渡した。


お店までの短い距離も濡れてしまう、と。

ありがとうございます
母国の紳士傘を差さぬと言うが、差すべき時もあるのですね)

店に入り、十二本の白薔薇で花束をつくってもらう。

(そうだ、咲良さんそちらへ向かうと伝えなければ…。失念していた)
タクシーに戻り車内でメッセージを打つが、手元がぶれ誤字変換を繰り返す。
(こんな焦った気持ちになったのは、はじめてだ)

薔薇の花束に目を落とす。


白薔薇の花言葉は〝純潔、尊敬〟だ。

前世の君と、今世の君に共通するものがある…)

前世の修道女、現世の咲良。


高尚な魂ゆえに、その瞳はどちらも澄んでいた。

君の心の美しさを僕は尊敬する)

彼女はどこまでも慈悲深い。


火から子どもを守った修道女も、ジョンの無事を祈ってくれた咲良も。

(宛名の敬辞はどうしよう。この気持ちはDearでは足りない。それ以上の親愛でも…)
彼の知らない日本語なら、適うものがあるのだろうか。

(Dearest以上の言葉を君に伝えられない。それが、もどかしい…)
雨上がりが近い空を車窓から見て、ジョンはメッセージを送った。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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