第2話 お食事会

文字数 1,269文字

いらっしゃいませ

父に連れられた先はレストランだった。

私、テーブルマナーとか知らないんだけど?

鈴音が想像しているようなのは披露宴じゃないともう見かけないから
シルバーレストって言ってね、そこに使うぶんだけ用意してくれるんだ
ふーん
さて、どのコースにする?
どのって…… 

渡されたメニューには値段が書いていなかった。

こういうお店だと女性用には値段が書いていないんだ
じゃぁこれで
とはいえ、品数で想像はついたので高そうなのを選んでやった。
お酒はどうする?
甘いのが好きとか炭酸が苦手とか。

あと強いか弱いとか?

甘いのは好き。

強さはまだよくわかんない

ならシャンパン開けるか。

苦手だったらジュースで割ればいいし

そう言って、父はすらすらとオーダーした。
うーん、美味い
 
恐らく、高いであろうシャンパンは私の口には合わなかった。
すいません

察してか、父は店員を呼んでベリーニというカクテルにしてくれた。

あ、美味しい

シャンパンカクテルだとオレンジジュースで割るミモザのが有名だけど、ピーチネクターで割るほうが個人的にお勧めかな


母から聞いていましたけど、お酒好きなんですね
……あいつのことだからアル中って言ってなかった?
……はい
あんにゃろう!

俺はアル中じゃなくて嗜んでいるだけだ

たとえばこの前菜。

稚鮎に特別な衣を付けて揚げているようだけど

父は鮎をかじってから、シャンパングラスを傾ける。
鮎の程よい苦みと刺激的なハーブの香り。

それをシャンパンで流し込むのが最高なんだ

これにお茶を合わせるなんて、料理に対する冒涜だと思うね
はぁ
わかりやすいものだとパスタとかピッツァ? 

なんていうか海外の料理にお茶を合わせるのはないと思うんだ

もちろん、俺だってご飯に煮魚、お味噌汁があったらお茶を合わせるよ
え?
でも母の手料理にはお酒を合わせてたって聞きましたけど?
そりゃぁ……あいつの料理が大味だったから
あぁ
大型トラックの運転手だからか、母の味付けは豪快だった。
酒のつまみとしては最適だったけど、ご飯としては……
って言ったら、死ぬほど怒られたのを思い出しちゃったよ。

はは……

でも、母は言ってましたよ。

お父さんはアル中だけど、酔うのが好きなわけじゃないって

純粋にお酒が好きなだけだって

そのことに対して呆れてはいたものの、憎んだ口調ではなかった。

そっか
母の言葉を伝えただけで無邪気な笑顔。
(この顔に母は惚れたのかな)
魚料理にはやはり白ワインだね。

もちろん甲殻類なら話は変わるけど

 
お肉には赤ワインってのは鉄板だ。

けど最近はあっさりした料理も多いから――

 
その後も、料理が来る度に父は蘊蓄を語ってはお酒を呷る。
(たぶん母はこれが鬱陶しかったんだな)

母は基本的にお酒を飲まない。

なのに目の前でこんな風に飲まれたら、ストレスも溜まるだろう。

デザートにもお酒は合うんだよ
ふふっ 

なんというか、ここまで来ると笑えてしまった。

(母の為にも、この男に気を許してはいけないって思ってた自分がバカみたい)

父は本当にお酒が大好きで――

母はそのことを知っていて――

(なぁんだ。私の為じゃなくて父の為のお食事会だったんだ)
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