真夜中のお城

文字数 1,015文字

アプルが夢の中で、謎の男に会っていたその頃。

ホワイト城の物置きをおとずれた影が一つ。

――ない。ない。ないわ。
ダメだわ、やっぱり見つからない⋯⋯。
この前のパーティではちょっとした騒ぎがあったからな。

おおかた、その間に誰かが盗んだんだろ。

まったく、鏡の姿なのに逃げおおせるなんて、運のいい⋯⋯。
ハハッ。違いないな。確かに運がいいんだろうな、お互い。
あなたもその姿だものね⋯⋯カレイド。
――クククッ。
チッ⋯⋯今日はついていない⋯⋯。
おやおや。誰か来たみたいだ。
カレイドは静かにしてて。
へいへい。わかりましたよっと、お姫様。
全く、なんだって私が王室の護衛から町の警備に回されなければならんのだ……。
こんばんは、兵士さん。
おや、スノー王女、こんばんは。こんな時間にどうしたのですか?
眠れないから、夜空を眺めていたのよ。
はて? 今日の天気はくもり空。月も星も見えませんが。
ええ。何ひとつ輝くもののない闇夜。とても美しいとは思わない?
ふーむ、そんなものですかね?

私にはよくわかりません。

ふふふ、あなたにもわかるわよ。――すぐに、ね。
スノーは兵士に鏡を向けます。
鏡ですか? そういえばスノー王女、最近はいつもその鏡を持ち歩いていますよね。

――おや? でもその鏡、何かがおかしいような⋯⋯。

――そうだ、私が持っているろうそくの明かりが映っていな――。

クククククッ。
その時。鏡に映る景色がすべて消え、鏡面が完全な闇に閉ざされました。
なんだ……これは……?
……『ビビデ・バビデ・バッドエンド』。
スノーが呪文を唱えると、鏡から闇が飛び出して、兵士の身体に入り込みました。
うわっ⁉
……どうかしたかしら?
――? なんともない。見間違いか?
くすくす。変な兵士さん。
では、私はそろそろ寝室に戻るわ。

こんな時間に出歩いてるのがバレたら、お父様に怒られちゃう。

はっ! おやすみなさい!
あ、そうだわ。兵士さん。ひとつ、とっておきのおまじないを教えてあげる。

――『ビビデ・バビデ・バッドエンド』。

兵士さん、今とってもツイてないみたいだから。

もし機会があったら唱えてみて。

ふむ⋯⋯よくわかりませんが、覚えておきます。
ええ、おやすみなさい。

はっ、おやすみなさい、スノー王女。

――それにしても⋯⋯まさか小娘一人取り逃がしただけで王室の護衛を外されるとは……。

だいたいあれは途中でぶつかってきたやつがいたからで私のせいでは……ぶつぶつ……。

……。
(クククッ。面白くなりそうだな)
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登場人物紹介

【アプル】
ワンダーランドの片隅で暮らしている、りんごの魔女。
世界で二番目にかわいいけど、魔法の腕前はイマイチ。
かわいいことを生かして、自分らしくキラキラ輝きたいから、アイドルを目指します!

【ミスター・ミラー】

ホワイト城の物置きにあった、しゃべる魔法の鏡。

アプルにアイドルという存在を教え、

その後も時折アドバイスを伝える。

【カーレン】

赤いくつをはいた、ダンスが好きな少女。

両親を亡くしているが、ちょっとしたきっかけでメイド長の養子になる。

振付師としてアプルを支える。

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