オワリ

文字数 1,357文字

彼女は一体、僕の何が気に入ったというのだろう。


彼女に明日こそ言わなければならない。

今日の花火大会に一緒には行けない、と。

ずっと好きな人がいる、と。



ウエクサ カナさんとは同じクラスというだけで、学祭まで話したことはなかった。

彼女は明るくて活発で、僕とは正反対だ。
手足も長くてキレイな顔をしている。

だから、学祭の後片付けで彼女から告白を受けた時は本当に驚いた。

彼女は僕になんて興味がないと思っていたからだ。
どちらかというと、バスケ部やサッカー部の男子が好きなタイプだと思っていた。

付き合った、と言えるのかどうかもわからない。
最後まで下の名前で呼ぶことすらできなかった。

2週間と少し、放課後、部活が始まる前のわずかな時間を教室で話すくらいの関係を続けていた。

もうすぐ夏祭りだとか花火大会だとかはしゃぐ彼女の話を聞いていたくらいだ。

彼女の話を聞きながら、僕らはきっとこのまま平行線で過ごしていくことになるのだろうと感じていた。

それは、明日一緒に花火を見に行ったからといってこの先交わることのない道のような気がした。

そして気づいた。

僕は僕を好きだと言ってくれる人を好きになりたいわけではない。



僕にはずっと前から好きな人がいた。

同じバドミントン部のヤマダさんだ。

彼女は人目をひくようなかわいい顔とは言えない。
ヤマダさんはいつでも部活の準備は誰よりも早く来てやっていたし、後片付けも最後まで残ってしていた。
頑張ってるのでなく、そういう地味なことを楽しそうにしているところが良いな、と思った。
自分と似ているな、と感じていた。

口数は少ないが、くしゃっとした笑顔を隠すように笑う。
その仕草に僕は遠目でも釘付けになってしまう。

そんな風に遠目でもヤマダさんの姿を追っていたことに僕はずっと気づかないふりをしてきた。


ウエクサさんに告白された時、ヤマダさんの存在が頭をかすめた。

それでも、自分を好きだと言ってくれる人なのだから好きになれるだろうと思った。


そして何より、ウエクサさんはまっすぐで、その潔さに思わずイエスの返事をしてしまったのだ。


きっとあの時からだ。



あの告白があったからこそ、僕はヤマダさんに告白したいと思ったのかもしれない。


僕も、ウエクサさんのようにストレートな、格好いい告白をしたいと思ってしまった。
僕もまっすぐにこんなふうに思いを伝えることができたなら。

ヤマダさんの心に少しでも僕の存在を位置付けることができるかもしれない。

僕はウエクサさんと過ごして、ウエクサさんを好きだと思った。
けどそれは恋じゃない。
憧れだ。


これはウエクサさんにとって皮肉な結果となってしまうのだろうか。

それでも僕は感謝している。
ウエクサさんに出会えて良かったとも思っている。

例え何かの気紛れで僕を選んでくれたのだとしても。

だって僕が17年間生きてきて身に付けることのできなかった、自分の気持ちと向き合う勇気をウエクサさんは一瞬でくれたのだから。

だからこそ一緒には行けない。
ありがとうとは言ってはいけない。
出会えて良かった、思いを伝えてくれて良かったとも。
いい人ぶって別れることなんてできない。

潔く。
ストレートにきてくれた彼女にストレートで返す。


それが、彼女と過ごした2週間と少しで僕に芽生えた気持ちだ。


明日は彼女と向き合おう。
きっと最初で最後だけれど。

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