16.双蛇と手記

文字数 1,346文字

 愛しいルネリアへ。
 本当に久しぶり。元気にしてた? 怪我はしてない? 調子を崩したりしてない? お父様のことだから、貴女が少しでも体調を崩したら、すぐに医者を呼んでるのだろうけど。
 あのときは、勝手に出て行ってごめんなさい。本当は貴女に手紙を残していくつもりだったんだけど、そんなことしたら、貴女がお父様に怒られちゃうと思って、できなかったの。
 本当は飛蛇を使えばよかったのかもしれないけど、貴女は飛蛇に好かれないって言ってたから、逃げちゃったら大変だと思ったのよ。なんて、言い訳ね。ごめんなさい。
 お父様は、私のことを死人にしたって聞いたわ。どうせそんなことだろうと思ったけど。
 少し嬉しいわ。これで、私はもうパンドルフィーニじゃなくなったのだものね。すごく自由になった気分。まあ、フードは外せないから、不便ではあるけどね。
 ルネリアはどう? お屋敷から出たばかりじゃ、うまく歩けないでしょう。私たちのときは追っ手もしつこくなかったし、見つからなくて済んだけど、貴女がいなくなったら煩いでしょうから、心配だわ。何かあったらお兄様にやっつけてもらうのよ。剣の腕は確かだから。
 そうそう、お兄様と会えたみたいで、よかったわ。正直、不安だったの。いくらお兄様がお兄様だっていっても、貴女もお兄様も、お互いに顔を知らないでしょう。貴女もびっくりするだろうから、断られてるんじゃないかって思って。
 お兄様の調子はどう? ちゃんと貴女を導けていれば良いわ。貴女に危ないことをさせたりはしないだろうけど、少し心配だから。貴女も分かってると思うけど、お兄様って、ずっと一人でいたせいか、人に合わせるのがあんまり得意じゃないの。歩調とかね。あれでも一年前よりはずっと気が利くから、許してあげて。
 でも、貴女の手の代わりにはなってくれてるみたいね。それは安心してるわ。
 私たち二人も、慣れるまで結構苦労したからね。貴女の腕では、不便なことの方が多いでしょう。分かっていて連れ出して、本当にごめんなさい。でも、きっとこっちの方が、貴女にとっても良いことだと思ったの。
 貴女にとって、貴族の世界が一番なのは知ってるわ。腕の傷もそうだし、外に出たらベッドも硬いし、ご飯も質素だわ。こうして貴女に不便を強いるのは、心苦しくはあるのだけど。
 でも、あの家は狭かったでしょう?
 私、家を出て初めて、自分がいたところがどれだけ狭い場所だったのかを知ったわ。パンドルフィーニとして死んでからは、余計にそう思ってる。あんなところに貴女を押し込めておきたくなかったの。
 広すぎて少し怖いかもしれないけど、お兄様と、私も貴女を守るから、大丈夫。これからは三人で、どこにでも行けるわ。私の脚本を舞台で見せてあげられないのは残念だけど、それ以外のお願いなら何でも叶えてあげる。露店で宝石を買うのもいいし、髪留めを新しくするのでもいいわね。こっちに来るまでに、何か考えておいて。
 貴女に会えるのを楽しみにしてるわ。私がいない間のこと、聞かせて頂戴。
 そうだ、お兄様に言っておいて。飛蛇を飛ばすときは、ちゃんとリボンをほどかないと目立つって。
 愛してるわ、ルネリア。道中、気をつけてね。
 貴女の姉より。
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