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エピソード文字数 564文字

 右手を上に向け、家臣に顔を上げるように促す。

(くれない)、於濃の方様にご挨拶を」

「平手紅と申します。於濃の方様の護衛を務めさせて頂きます」

 顔を上げた殿方の顔が……
 紗紅にとてもよく似ていて、思わず目を見開いた。

 紗紅がこの時代にいるはずはない。
 紅は男性だ。しかも平手政秀の縁者、織田家に仕える武士。

 他人のそら似……。

(宜しくお願い申し上げまする)

 紅は私の顔をマジマジと見つめ、言葉を詰まらせた。

「……は、はい」

「たわけ、於濃の方様に見とれるでない!」

 平手に叱咤され、紅は口を尖らせた。

「申し訳ございません。於濃の方様があまりにもお美しいゆえ、つい目を奪われてしまいました」

 紅の言葉に、多恵は目をつりあげる。

「平手紅殿、帰蝶様に目を奪われるとは何事じゃ。まさか心まで奪われてはおらぬであろうな。帰蝶様は御殿様の正室であらせられるぞ」

「これはこれは、斎藤家に仕える侍女は威勢の良いこと。この紅が於濃の方様に心を奪われることなど、決してござらぬゆえ、ご安心下され」

 平手の言葉に、多恵はまだ不満げだ。

 紗紅によく似た殿方。
 私はそれだけで、挫けそうな心が和んだ。

 殺伐とした戦国の世にタイムスリップし、懐かしい家族に逢えたような錯覚に陥った。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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