真っ白い天井。

文字数 1,186文字

 今日は病院のベッドで目が覚めた。春休みの通院生活が終わり、治療のため再び入院生活となったからだ。白血病になってから私は入退院を繰り返す忙しい生活を送っている。
 もちろん多大な治療費がかかる、でも私の家は幸運なことにお金持ちだった。だけど、幸運だとしたら、お金持ちじゃなくていいから白血病になんてなりたくなかった……。


 目が覚めて一番先に目に入ったのは真っ白な壁。右を向くと、七階からの眺めのいい景色が見える。
「香西さん。朝ごはん持ってきましたよ」
 まだ若いナースの長澤さんがおぼんの上に乗った朝ごはんを持って病室へ。

 そしてその朝ごはんに少し手をつける。スパゲティが大好きな私にとって、病院の薄味の朝ごはんは美味しいものとは言えないけど、この病院に入院して半年も過ぎるともう慣れてしまった。

 それは抗がん剤を使った治療も同じで。

 もちろん。その治療は今日もある。
 苦しいのは変わらない。一番辛いのは髪の毛が抜けてしまうこと。
「美波。おっはよう!!」
 この病室に似つかわしくない元気な声でこの病室に入ってきたのは私の親友の秋谷楓。



 楓は私がこの大学病院に入院し始めた翌日から、毎日のように朝、顔を見せに来る。私と楓が在籍している高校の通学途中にこの病院があるためあまり楓の負担になっていないことは良かったと思う。

「おはよう。楓。今日も元気だね」
「まあね!!ただでさえ女帝がいるんだから元気じゃなきゃやってらんないよ」
 楓は私のベッドの横にある丸椅子に座る。
 そしていつものように雑談をする。
その内容と言えば、テレビの話や学校での話、ファッションの話などが大半。
「私……彼氏欲しいなぁ」


 楓は私のベッドの上に突っ伏すとそう愚痴をこぼす。

 私は学校で誰かいい人見つけなよって言いそうになったが、私達の在籍している学校が女子高だったことを思い出して口を閉じた。
「だれかいい人いないかなぁ?」
「うーん……。少なくともここにはいないよね」
「でもさ!! 美波の担当医の人結構カッコイイじゃん。確か」
 その時私の病室がノックされ、ドアが開いた。
 入ってきたのは白衣を着た三十代頃の男の先生。私の担当医のこの先生は阿達先生。
 毎朝この時間にやって来て触診をする。
「お二人共おはよう。秋谷さん。そろそろ学校じゃない?」
 阿達先生は時計を見るとそう言う。
「あっ、ヤバい遅刻!! また放課後にね!!」
 楓はそう告げると、そそくさと病室を出ていった。


 楓の居なくなった病室は私にとって本当につまらないもの。
いつものようなつまらない一日が始まるだけ。
でもその日々も二ヶ月もすれば一旦解放される。それまでの辛抱。
 抗がん剤の治療が始まるとろくにテレビを見ることも出来ない。
 ただ阿達先生の言う通りにするだけ。出てくる吐き気とも長い付き合いだし。日々ゆっくりと抜ける髪の毛だって、私の子供みたいなもの。
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登場人物紹介

香西美波(かさいみなみ)

白血病の女子高生。

Talkmanのアイコン画像は羊。

小南透人(こなみゆきと)

病気の高校生

Talkmanのアイコン画像はロボット。

秋谷楓(あきたにかえで)

主人公(香西美波)の親友。

Talkmanのアイコン画像は黒猫。

阿達先生

主人公の担当医。

長澤

主人公が入院している病院のナース。

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