19日目 幽霊女だけ

文字数 1,215文字

…………
お仕事のお見送りをした後の
扉が閉まった後のこの静けさは
まだ慣れないです
ね、柴犬ちゃん
今日もかわいいでちゅねー
ん-……
ぐりぐり
ぐりぐり
ふう
ほんとにぐりぐりしてみたいものです
…………
彼にもぐりぐりしたいです
……嫌がるかな
最初はびっくりするかもだけど
許してくれそう
……優しいんだもん
柴犬ちゃんもそう思いますよね
あ、そうか。柴犬ちゃんはまだ新入りでしたね
私の方が先輩です
ふんす



……あのね、私ほんとはこの前彼と離れようと思ったんです
もちろん嫌でしたよ
ほんとに、嫌でした
でも、私こんなだから
彼の足枷になるのは
もっと嫌
だから、あのお祭りを最後の思い出にって
そしたら、彼がね
一緒にいたいと思っているのは貴女だけじゃないって
言ってくれたんです
えへへへ
嬉しいよお
えへへへへ
これもうプロポーズですよね
舞い上がりますよ
舞おうと思えば
舞えますけどね
幽霊なんで
えへへへへ



……あ
この話昨日もしました
失礼
黙って聞いてくれるなんて
柴犬ちゃんも大概優しいです



……ふう
彼を待ってる間にね
洗い物とか、お洗濯とか
したいんです
お料理とか、お掃除とか
してあげたいんです
お仕事から帰ったらぎゅってしたい
手を繋いで一緒に歩きたい
膝枕とかしてみたい
彼に、触れてほしい



…………でも
できないんです
幽霊なんで
困ったものですよね
私は……
何なんでしょうね
気付いたら、ここにいたんです
今までも、たぶん長い間色々なところにいたと思うんですけど
思い出せるのは
今の状態の私を見た人達の
悲鳴と
怯えた表情だけなんです
私は、人に話しかけちゃだめなんだって
そう思ってました
……彼に会うまでは
思えば
その時点で
私は、彼の事
…………
なんでもないです



とりあえず、ですね
彼の為にもですね
私は自分の事、もっと知らないといけないんです
今現在唯一の手掛かりが
病院、なんです
…………
怖いとかではないんです
嫌、なんです
…………なんというか
客観的に見て
普通に考えれば
自分で言うのもあれですけど
私、そこで天寿を全うしたのかなとか
思ったんですけど
どうもそんな感じではないんです
いわゆる、生理的に無理?
ちょっと違うかな
でもそんな感じです
……ただ
私が、何かを大きく感じるところが
最終的にそこにしかないのであれば
いずれ行ってみないと、とは
覚悟しています
何が待っていようとも
……それが、私に出来る数少ない事かもしれないので
その時は、彼に相談してみます
きっと、エスコートしてくれます
優しいですから



……ちょっと、優しすぎますけど
ね、柴犬ちゃん
私がね、ちょっとこうふざけるとね
困った顔して、んんって言うんです
あれが私好きなんです
……私は、ほんとにいいのに
優しすぎます
アプローチが足りませんかね
他の手を考えないといけませんね
彼、あんまり自分の事を話す方じゃないので
好みも手探りです
だいぶわかってきましたけどね
この時ばかりは自分の武器が使えて良かったと思います
えへへ
もっと、彼の色々な事を知りたいです
いっぱいお話をしたいです



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