劫火(ごうか)

エピソード文字数 330文字

 全てが炎に包まれていた。
 母愛用の調度品。
 父が(えが)かせた家族の肖像画。
 うつ伏せ、横たわる両親。
 敬愛する二人の服は、元の色もわからないほど血に染まっている。
 炎を噴き出して燃えている(はり)が轟音とともに崩れ落ち、二人の姿を飲み込んでいった。
 その光景をかすむ目でぼんやりと見ている。浅い呼吸でも喉が焼けつくようだ。
 荒れ狂う烈火(れっか)が屋敷を喰らい尽くしていく音に紛れ、泣き叫ぶ声が切れ切れに耳に届いた。あれは妹だろうか。弟だろうか。
 助けに行かねばと思ったとき、背中に熱い衝撃が走った。
 幼い声が遠く、細く途切れていく。
 耳元で低い声がする。
 何を(ささや)かれたのか。
 理解する前に、世界は暗く閉じていった。
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