第5話 GODマザー

文字数 1,320文字

神様。


もしもあなたが本当にいるのなら、もう一度だけ、あの人に会わせてください。





オレの人生は平凡だった。


ただ、オレの人生に関わってきた彼女の人生はいつでも想像を超えていた。


そんな彼女も、5年前に死んだ。


彼女に、もう一度だけ、会いたかった。





そんな願いは叶うはずもなく、オレの人生もまた幕を閉じた。





周りはただの真っ白な霧。


ここが地獄とか天国とか、そう呼ばれている所なのか。


そこに、声が響いた。


『次は何に生まれ変わりたいですか?』


何に…か。


そうだな。

今度は自分自身の人生を楽しめる人間になりたい。


『人間に』


オレが言うと、目の前がパーッと明るくなった。

一人の人間のような形が現れた。

後光が差していて、よく見えない。


もしかして、これが神様なのか。



だんだんと目が慣れてきた。


『次も、人間になりたいんだね?』


『はい』


『人間になって、何がしたいの?』


『心から楽しいと思えるものを追い求める人生を送りたいです』


『良かろう。そなたの願い、叶えよう。』


目の前の人物が、オレの頭の上に手を差し出した。



…と思ったら、引っ込めた。



「…えっ、マサオ!?」


顔を上げると、そこにいたのはオレの母さん、高橋カツ子(享年123歳)だった。


「母さん!?何で!?」


「やだぁ、全っ然、気づかなかったわよー!あんた、死んだの~!?もったいなーい!母さん今、『神様』やってんの!」


「えっ!神様!?何で!?」


「前の神様に頼まれちゃってさぁ~!私には荷が重すぎるって断ったんだけど、『イヤイヤ、地球から冥王星に行けたんだから、それに比べれば簡単だ』、なーんて言われてさ、えっ、そうなの?じゃあ、やってみようかしら、って引き受けちゃったのよぉ!これがホントの『神頼み』っ!なんちゃって!そしたら、も~大変なんだから、これが!」


「…ここでまで冥王星のことが影響したんだ、すごいな。オレも全然母さんだとは気づかなかったよ」


「でっしょ~う!?あの言い方、練習したもの~!『良かろう。そなたの願い、叶えよう。』って!笑っちゃうわよねぇ!『良かろう。そなたの願い、叶えよう。』アハハハ!あーおかしい!…『次も、人間になりたいんだね?』『はい』って!親子でなーに言ってんのって感じよねぇ!」


「でも、死んだのに2度も母さんに会えて嬉しいよ」


「私もだよ…マサオ、あんたはまた人間になるんだね…母さんはまたここから見てるからね…楽しい人生を送るんだよ!」


「うん、母さんを見習って、いい人生にするさ」


母さんもオレも見つめ合い、涙を拭った。


「さっ、じゃあ、もう一度、人間に生まれ変わらせるよ」


「うん、よろしく」


母さんがオレの頭に手をかざした。


次の人生は、もう親子じゃないんだな…。


「あと10秒で、生まれるよ。」


また、母さんの息子に生まれたかったよ…………ん?そういえば……


「母さん!そういえばオレ母さんに聞きたいことが!」


「母さんも今思い出した!あれでしょ!あんたの本当のおかあさ」



ピカーーーーーーッ




光が差し、オレは生まれ変わったようだ。



…また、聞きそびれた。



まぁいいか。



次の人生が始まるときには忘れているだろう。



…ん?真っ暗だ。



…母さん…。



オレ……これ、たぶんセミになったと思うんだけど。





作成日:2021年9月17日
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