〇七・ 支店長: 滝川明子(たきがわ・あきこ)の業務報告。
文字数 2,853文字
パペル社直営『ポッポロ庵』支部パサミカワ支店長を務めております。
今日は先生が定期訪問というか、巡回視察と称して、差し入れに来てくれる日でした。
原稿は昨夜のうちに無事にあがっていたそうです。良かったですね。
(あがらないと訪問中止になる場合もあって…スタッフたちがガッカリしますので)
…いえ、原稿もとても楽しみです。次回作、なるべく早く出版されるといいですね…。
ウマシカ先生…カコ先生は、御自分では「三角貿易」と呼んでいるらしいんですが。
パサミカワに来店される時には必ず、ポッポロ本店やパコタテ支店の名産品を何か、大量に買い込んで来ては、スタッフ全員に配ってくれます。
今日の差し入れは本店特製キャラ菓子『くっきー』サンドでした。
御馳走さまでした。
とても美味しいし嬉しいです。
後発のパサミカワ支店としては、先輩他店は「追いつき追い越せ!」の目標というか。
僭越ながら、秘かにライバル視。しておりますので。
本店オリジナル商品を味見させてもらえるのは、大変いろいろと勉強にもなるし。
よし頑張ろう!という励みにもなります。
それでパサミカワ作業所からは…
自慢の新商品!
『自社製チーズの天然フリーズドライ』加工品各種を大量に!
(先生個人の自費で!)お買い上げいただきました。
やはり大人気なのは自家製チーズのフリーズドライをパン粉のような形状に、丁寧にクラッシュして仕上げた『チーズ粉』ですよ!
(粉チーズとは、違うんですよ!)
これをトンカツとかザンギとかコロッケとか。
揚げ物の衣として、たっぷ~り!まぶして!
揚げてみて下さい…。
まちがいなく、体重が一気に増加します…(笑)
あともちろんカットチーズをフリーズドライにして高野豆腐風に加工した試作品も。
これからいろいろ工夫できそうだと、試食をお願いした地元料理家の皆さんからは、
ご好評を頂いております。
どうぞご賞味下さい。
この作業は、世間様からは「聴覚不自由」と呼ばれる身体的特徴を持っているスタッフ一同が。
スマホの文字画面で連絡を取り合いながら、冬季休耕中のジャガイモ畑の大雪原に散らばって。
手作業で天日に当ててはひっくり返し、吹雪の時には急いでザルを回収格納し。
また晴れたらせっせと出し広げて、丁寧に干し上げて…。
根気のいる作業を繰り返しながら、心をこめて成型加工や粉砕作業をしました。
それで。先生は、御自分たちで本社やパペル寮で召しあがる以外の分は、ポッポロ本店やパコタテ支店のスタッフに、「個人的に差し入れ」して下さるんですよね…。
で、パコタテ支店からは主に「知的に不自由のある」スタッフたちが中心となって、手作業で加工した海産物などを、色々とお買い上げになって。
やっぱり、他の店舗のスタッフに、配って回っていらっしゃるとか…。
毎月の各支店ならびに本店の売り上げのうち、実は五%くらいが、こうしてカコ先生個人の財布によって、賄われております…
重ね重ね、ありがとうございます…。
*
併設の、パサミカワ福祉作業集積センターについてもご説明しますね。
島北や島東の出身者を中心に、各種「心身知的に障碍がある」人たちや、一人親家庭や病児親やで定時の勤務が難しい方々や、不登校による低学力のため成人後に通信制で補習中の生徒など。
何らかの理由で「一般就業が難しい」と認定されているスタッフたちが、主にそれぞれの特徴傾向別の生活寮で共同生活をしながら。農林作業や加工品製造や調理や店舗販売、また配送作業や配送経理事務などを分担しあって、運営を続けております。
もちろん行政からの補助金や、短時間スタッフにとっては生活保護などの福祉収入が頼りの、苦しい運営収支ではありますが。
なんとかそれなりにご利用者様にもお客様からも、愛され盛り立てていただいて。
そこそこ繁盛しており、みな、楽しく忙しく、一生懸命に働いております。
ポッポロ本社直営の既存の郊外型施設を拡張更新して就業可能人数を順次拡大する、という当初の案を、カコ先生が却下して、各地分散して新規複数の同時立ち上げをという、運営的にも金銭的にもたいへん厳しい道を選んだのは。
震災津波がくれば全域海没の恐れのある平野部に位置する首都ポッポロ市への一極集中を避けたい。また、直近に建設されてしまった幻視毒発電所に事故があれば、大量被毒の心配もあるし。というお考えの他に。
ポックル島の西端に位置するポッポロからだと島北や島東の遠隔地出身のスタッフは、連休時などに帰省で往復するための費用と時間が大変だから、というお気遣いがあったそうです。
障碍を持つ者が、親元を離れて寮に住んで、一人前に働く、ということと。
地元や血縁者から切り離され、その存在を「恥」として隠されて寂しい老後を迎える、
ということは、別!
と、かねてから主張をしていらっしゃいます。
パサミカワ農場では新造の巨大ドーム型ハウスをフル活用して、通年収穫が可能な液肥トマトや蔓浮きメロン、また埋雪冷蔵による越冬甘味強化野菜の通年販売など、手作業・小規模ならではの高付加価値化が可能な作物の研究生産に励んでおります。
また、冬季の強風と夏季の日照時間を活用して。
なるべく、エコなエネルギーの自給自足(可能なら転売収入に!)チャレンジ中です。
そして、なるべく無添加で、アレルギー対応で…と。
ポッポロ島内外から幅広く通販でご利用くださる常連のお客様がたの、ニッチでコアな今風のニーズにお応えするべく。
工夫を凝らした商品開発を目指しております。
まだまだこれからですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
…こんな風で、良いでしょうか? どうも作文は苦手で… もうしわけありません。
*
え、私のことですか?
七十七歳、現在単身です。カコ先生と同年代。ですよね?
交際相手というのでしょうか、異性の茶飲み友達は複数沢山おりますので、それなりに充実した毎日ですが。再婚は、もういいですねぇ。夫はとても良い伴侶でしたから。あれ以上の同居人は、もう望めないと思います。
今は仕事が一番の恋人ですねぇ。
スタッフたちはみんな、我が子のように…
いえ、我が子よりも手がかかる分、もっと、ずっと、とっても。
可愛いです。
実子たちは皆それぞれ勝手に育って勝手に各地に散って。
勝手に元気に愉しそうに暮らしておりますので。
からだとあたまが効かなくなったら、『もしも寮』への入寮希望です。
ちょっとボケながら、車椅子でミニトマトの収穫作業なんか参加しながら、
ぽっくり。逝けたらいいですねぇ…
(まだたぶん、夫が待っててくれてる。と、思いますし…!)
え、ノロケですよ? もちろん?