第3話 第一回戦
文字数 1,808文字
「私立眼鏡学園理事会主催・第一回スミんこパーティ、はじまるよ、きゃはっ!」
バーン、という炸裂音と、ゲーム内世界らしい女性声優ボイスで開催が告げられると、おれも胸が高鳴る。
悪い風に高鳴る。
動悸が激しくなる、と表現した方がしっくりとくるような。
「いよいよ始まるんだな」
この砂嵐電脳界はアバターをつくってみんなで仲良く交流しよう、という目的でつくられた。
そのため、イカスミウォーターマシンガンという武器で戦うこのイレギュラーともいえるバトルは物見遊山にちょうどよく、他人の失敗や暗部や醜態を見て安堵したい、という欲望を果たすのに好都合であり、開催と同時にいやらしい言葉遣いの吹き出しが外野から一斉に溢れ出した。
目を向けてはならない。
娯楽がありそうで全くないようなこの「日常空間」を生きる者にとって、試合に参加するのと同じくらい、観戦して脳波キーボードを叩くのは快楽なのだ。
しかし、その吐き出される言葉自体は、「士気」が下がるから、見てはならない。
いや、自分の士気が下がる、という日本語が正しいかは知らないが。
「第一回戦のGブロックは、宝井アルファくん対室町バクオくんだよ!」
声優ボイスで紹介されたおれ、宝井アルファの目の前には、相手である室町バクオがニヤニヤしながらイカスミウォーターマシンガンを構えている。
戦うフィールドは、港の倉庫街。
そのコンクリートの路上。倉庫群は煉瓦作りだ。
精々地の利を活かした行動をしなきゃな。
しかし、回ってきました、おれの戦う番。
相手も幼稚園生。
アバターはりんご組のお坊ちゃまカット野郎だ。
服装はズボンをショルダーでとめてる奴。
一瞬、いい育ちのお坊ちゃんにも思える風貌。
だが、これはアバターだ。
中の人がどんな人間なのかはわからない。
「スミんこファイト! レディー・ゴー!」
あくまでロリボイスを貫くアナウンスで、試合は開始された。
相手の室町バクオはお坊ちゃまカットをくらくら揺らしながらマシンガンを構えつつ、攻撃はしてこない。
沈黙。
おれもこいつも動かない。
お互いが牽制し合う時間がしばし過ぎると、バクオは脳波キーボードを叩いた。
「あんたも運が悪いでちゅ。僕がなぜアバターにバクオという名前を付けたのか教えてやろうでちゅ」
どうも、アバターが幼稚園生であるので、お子様言葉にしているようだ。
「バクっていうのは、夢を食べるとされる動物でちゅ。僕もバクと同じで他人の夢が大好物でちゅ。だからバクオと名付けたんでちゅよ。……夢見るもんでちゅよね、こんな素敵な世界にいたら、もっともっと世界をよくしたいし、よくしようとすれば出来るでちゅ。……なんて、ここが『人間がつくりし世界』だから夢見るでちゅよ。多かれ少なかれ、みんなそう、夢見る時期があるんでちゅ。その、希望に脂がのった時期の夢を食べるのが僕はだいちゅき。逆になぁ、宝井アルファ。あんたみたいなのが僕は一番大嫌いなんでちゅ! 魂は既に身体と隔離されてしまったのに、あんたは身体の思考で生きている。身体の思考、野蛮な肉人形の思考! 魂だけの純粋な電脳体になったからこその純粋な『夢』が、宝井アルファ、あんたにはない! 園児は園児らしくしろ! 園児じゃないと思っているのなら、万死に値する。喰らえ!」
イカスミマシンガンを持ってない方の手を室町バクオは伸ばす。
が、なにも起こらない。
「あ……あ、あれ? あ、あ、ああ、あ。……そんな。食べる『夢』が、欠片も存在していない、でちゅ、……と?」
おれはためらいなく、室町バクオが身体をこわばらせた隙に、ウォーターマシンガンで神経毒を思い切り何発も叩き込んだ。
神経毒を塗り込まれたイカスミで、室町バクオは嘔吐しながら卒倒した。
「イカスミマシンガン、構えるならちゃんと戦う気でいろよ。身体中、がら空きだったぜ。いや、なにかする気だったのか。まー、いいや。勝ったし」
口から泡を吹いて倒れているバクオに話しかけるのは無意味そうだったが、一応おれはバクオに言葉を投げかけた。
「戦闘中にべらべらしゃべるのは、感心しないねぇ」
見下ろしながらとどめに一発、神経毒をまた喰らわせてから、おれはその場に倒れるバクオに背を向け、二回戦へとコマを進めた。
バーン、という炸裂音と、ゲーム内世界らしい女性声優ボイスで開催が告げられると、おれも胸が高鳴る。
悪い風に高鳴る。
動悸が激しくなる、と表現した方がしっくりとくるような。
「いよいよ始まるんだな」
この砂嵐電脳界はアバターをつくってみんなで仲良く交流しよう、という目的でつくられた。
そのため、イカスミウォーターマシンガンという武器で戦うこのイレギュラーともいえるバトルは物見遊山にちょうどよく、他人の失敗や暗部や醜態を見て安堵したい、という欲望を果たすのに好都合であり、開催と同時にいやらしい言葉遣いの吹き出しが外野から一斉に溢れ出した。
目を向けてはならない。
娯楽がありそうで全くないようなこの「日常空間」を生きる者にとって、試合に参加するのと同じくらい、観戦して脳波キーボードを叩くのは快楽なのだ。
しかし、その吐き出される言葉自体は、「士気」が下がるから、見てはならない。
いや、自分の士気が下がる、という日本語が正しいかは知らないが。
「第一回戦のGブロックは、宝井アルファくん対室町バクオくんだよ!」
声優ボイスで紹介されたおれ、宝井アルファの目の前には、相手である室町バクオがニヤニヤしながらイカスミウォーターマシンガンを構えている。
戦うフィールドは、港の倉庫街。
そのコンクリートの路上。倉庫群は煉瓦作りだ。
精々地の利を活かした行動をしなきゃな。
しかし、回ってきました、おれの戦う番。
相手も幼稚園生。
アバターはりんご組のお坊ちゃまカット野郎だ。
服装はズボンをショルダーでとめてる奴。
一瞬、いい育ちのお坊ちゃんにも思える風貌。
だが、これはアバターだ。
中の人がどんな人間なのかはわからない。
「スミんこファイト! レディー・ゴー!」
あくまでロリボイスを貫くアナウンスで、試合は開始された。
相手の室町バクオはお坊ちゃまカットをくらくら揺らしながらマシンガンを構えつつ、攻撃はしてこない。
沈黙。
おれもこいつも動かない。
お互いが牽制し合う時間がしばし過ぎると、バクオは脳波キーボードを叩いた。
「あんたも運が悪いでちゅ。僕がなぜアバターにバクオという名前を付けたのか教えてやろうでちゅ」
どうも、アバターが幼稚園生であるので、お子様言葉にしているようだ。
「バクっていうのは、夢を食べるとされる動物でちゅ。僕もバクと同じで他人の夢が大好物でちゅ。だからバクオと名付けたんでちゅよ。……夢見るもんでちゅよね、こんな素敵な世界にいたら、もっともっと世界をよくしたいし、よくしようとすれば出来るでちゅ。……なんて、ここが『人間がつくりし世界』だから夢見るでちゅよ。多かれ少なかれ、みんなそう、夢見る時期があるんでちゅ。その、希望に脂がのった時期の夢を食べるのが僕はだいちゅき。逆になぁ、宝井アルファ。あんたみたいなのが僕は一番大嫌いなんでちゅ! 魂は既に身体と隔離されてしまったのに、あんたは身体の思考で生きている。身体の思考、野蛮な肉人形の思考! 魂だけの純粋な電脳体になったからこその純粋な『夢』が、宝井アルファ、あんたにはない! 園児は園児らしくしろ! 園児じゃないと思っているのなら、万死に値する。喰らえ!」
イカスミマシンガンを持ってない方の手を室町バクオは伸ばす。
が、なにも起こらない。
「あ……あ、あれ? あ、あ、ああ、あ。……そんな。食べる『夢』が、欠片も存在していない、でちゅ、……と?」
おれはためらいなく、室町バクオが身体をこわばらせた隙に、ウォーターマシンガンで神経毒を思い切り何発も叩き込んだ。
神経毒を塗り込まれたイカスミで、室町バクオは嘔吐しながら卒倒した。
「イカスミマシンガン、構えるならちゃんと戦う気でいろよ。身体中、がら空きだったぜ。いや、なにかする気だったのか。まー、いいや。勝ったし」
口から泡を吹いて倒れているバクオに話しかけるのは無意味そうだったが、一応おれはバクオに言葉を投げかけた。
「戦闘中にべらべらしゃべるのは、感心しないねぇ」
見下ろしながらとどめに一発、神経毒をまた喰らわせてから、おれはその場に倒れるバクオに背を向け、二回戦へとコマを進めた。