第1話
文字数 1,552文字
ある夜、俺が自分の部屋でなんとなくスマホをいじっていると、突然ポンッと音がして、中からバッタみたいな虫が出てきた。
「な、何だおまえはっ」
「私はSNSの精です。元は送られたメッセージの一つだったのですが、ネットワークエラーでうまく送信されず、出口がないままLINE界をさ迷っていたところだったのです。このままだと永久にさ迷い続けるところでしたが、偶然あなたのスマホに受信されて、外に出ることができました。ありがとうございます。あなたに何か、お礼をしましょう」
「なに、SNS界。そんなものがあるのか」
「そうです。SNSでメッセージを送信すると、私のようなSNSの精が生まれまして、相手にメッセージを運びます」
「うーむ、そうだったのか。知らなかった。しかし精などというと、もっとかわいらしい妖精のようなものかという気がするが、そんなことはまったくないんだな」
「大きなお世話です。さあ、どうしますか?」
「お礼って、何をしてくれるんだ?」
「誰かと誰かのSNSのやり取りを、それを司る元妖精に頼んで、覗き見ることができます」
それを聞いて、俺はすぐに思い浮かんだ人がいた。俺が会社で好意を寄せている、A子さんという女性がいる。だがどうやら同僚のSも、彼女を狙っているらしい。A子さんは俺が話しかけると笑顔でこたえてくれるのだが、Sともよく楽しそうに話している。今のところ、彼女にとって俺とSはどうやらフィフティーフィフティーらしい。だが、本当のところはどうなのか。
「じゃあ、会社のA子さんとSのやり取りがあったら見せてくれ。あるかわからないが……」
内心、それがないことを祈りながら、俺は言った。
「わかりました」
SNSの精はスマホの中に戻っていき、すぐにまた現れた。
「ありましたよ。ちょうどついさっきトークをしていたようです」
あったのか……俺はガッカリしながら、LINEの精が表示してくれたトークの画面を覗いた。
A子「おやすみー。明日も仕事、がんばろう」(その後に、ネコの周りにハートが飛んでいるスタンプ)
S 「おやすみ」(クマが吹き出しでおやすみと言っているスタンプ)
「二人はもう、付き合っていたのか……」
俺はがっくりと肩を落とした。SNSの精は気の毒そうに、そんな俺を見ている。
「それでは、私はこれで……」
「あ、ああ。ありがとう……」
傷心の俺がうわの空で言うと、バッタみたいなSNSの精はスマホの中に戻っていった。
「うまくいったか?」
「はい、バッチリです。T氏はあなたとA子さんが付き合っていると思い込んだようです」
「よーし、よくやった。これでTは身を引くだろう。これからじっくり俺が、邪魔されずにA子を口説くことができるぞ」
そう言ってSはにやりとした。
「それでは、私はこれで……SNS界から出してもらったお礼は、たしかにしましたよ」
「ああ。ご苦労さん」
Sの浮かれた調子の返事を背に、SNSの精はスマホの中に戻っていった。
SNSの精が帰りにちらりとTの様子を見に行ってみると、Tはまだスマホをいじりながら、肩を落としていた。
「すみませんねえ……私ができる本当のお礼は、その人が望む誰かのニセのアカウントを作り、ほんのひととき、その人とニセトークを楽しませてあげる、というのものなんです。
それをSに話したら、こんなことを言い出したんですよ。本当はこういうのはなしなんですけどね。以前も、有名人のニセアカウントの不倫トークを作って、人に見せたらえらいことになりましてね。元妖精に大目玉くらいましたよ。Sがあんまり強く言うので、つい……。
少し気の毒な気もしますが、ま、あなたも、私のように出口を求めてさ迷っているSNSの精を、うまく拾ってください」
了
「な、何だおまえはっ」
「私はSNSの精です。元は送られたメッセージの一つだったのですが、ネットワークエラーでうまく送信されず、出口がないままLINE界をさ迷っていたところだったのです。このままだと永久にさ迷い続けるところでしたが、偶然あなたのスマホに受信されて、外に出ることができました。ありがとうございます。あなたに何か、お礼をしましょう」
「なに、SNS界。そんなものがあるのか」
「そうです。SNSでメッセージを送信すると、私のようなSNSの精が生まれまして、相手にメッセージを運びます」
「うーむ、そうだったのか。知らなかった。しかし精などというと、もっとかわいらしい妖精のようなものかという気がするが、そんなことはまったくないんだな」
「大きなお世話です。さあ、どうしますか?」
「お礼って、何をしてくれるんだ?」
「誰かと誰かのSNSのやり取りを、それを司る元妖精に頼んで、覗き見ることができます」
それを聞いて、俺はすぐに思い浮かんだ人がいた。俺が会社で好意を寄せている、A子さんという女性がいる。だがどうやら同僚のSも、彼女を狙っているらしい。A子さんは俺が話しかけると笑顔でこたえてくれるのだが、Sともよく楽しそうに話している。今のところ、彼女にとって俺とSはどうやらフィフティーフィフティーらしい。だが、本当のところはどうなのか。
「じゃあ、会社のA子さんとSのやり取りがあったら見せてくれ。あるかわからないが……」
内心、それがないことを祈りながら、俺は言った。
「わかりました」
SNSの精はスマホの中に戻っていき、すぐにまた現れた。
「ありましたよ。ちょうどついさっきトークをしていたようです」
あったのか……俺はガッカリしながら、LINEの精が表示してくれたトークの画面を覗いた。
A子「おやすみー。明日も仕事、がんばろう」(その後に、ネコの周りにハートが飛んでいるスタンプ)
S 「おやすみ」(クマが吹き出しでおやすみと言っているスタンプ)
「二人はもう、付き合っていたのか……」
俺はがっくりと肩を落とした。SNSの精は気の毒そうに、そんな俺を見ている。
「それでは、私はこれで……」
「あ、ああ。ありがとう……」
傷心の俺がうわの空で言うと、バッタみたいなSNSの精はスマホの中に戻っていった。
「うまくいったか?」
「はい、バッチリです。T氏はあなたとA子さんが付き合っていると思い込んだようです」
「よーし、よくやった。これでTは身を引くだろう。これからじっくり俺が、邪魔されずにA子を口説くことができるぞ」
そう言ってSはにやりとした。
「それでは、私はこれで……SNS界から出してもらったお礼は、たしかにしましたよ」
「ああ。ご苦労さん」
Sの浮かれた調子の返事を背に、SNSの精はスマホの中に戻っていった。
SNSの精が帰りにちらりとTの様子を見に行ってみると、Tはまだスマホをいじりながら、肩を落としていた。
「すみませんねえ……私ができる本当のお礼は、その人が望む誰かのニセのアカウントを作り、ほんのひととき、その人とニセトークを楽しませてあげる、というのものなんです。
それをSに話したら、こんなことを言い出したんですよ。本当はこういうのはなしなんですけどね。以前も、有名人のニセアカウントの不倫トークを作って、人に見せたらえらいことになりましてね。元妖精に大目玉くらいましたよ。Sがあんまり強く言うので、つい……。
少し気の毒な気もしますが、ま、あなたも、私のように出口を求めてさ迷っているSNSの精を、うまく拾ってください」
了