頭狂ファナティックス

一つの時代の終わり

エピソードの総文字数=2,243文字

このままショッピングモールに連れて行くぞ。あそこには楓子と赤藤先輩がいる。治療を手伝ってくれるはずだ。
 銀太は相方の右肩に両目を押し付けて静かに泣いていたために、返事をしなかった。紅月は右肩が熱く濡れていくのを感じていた。銀太の両足の切断面は焼け焦げていたために、出血は大怪我のわりに少なく、滴り落ちた血から次の血への距離は遠かった。
 銀太と別れたあと、紅月は第九校舎の大教室に安置されている生徒会役員三人の遺体を引き取るように実験棟に向かったが、警備に当たっている日本軍の歩哨と言い争いになってなかなか理事会の人間に取り次いでもらえず(というのも特別科クラスの権力も日本軍にまでは通用しないからだ)、時間ばかりを食っていた。その最中に学生寮の方から爆発音が聞こえたために、嫌な予感に取りつかれ、危うく銀太が焼死する場面に現れたのだ。

復讐は果たしたのか?
 紅月はショッピングモールに辿りつき応急処置を施すまで、何も質問をしないつもりだったが、やはり銀太と秋姫の決着の行く末はどうしても知っておきたかった。
秋姫さんを殺したよ。これでお姉ちゃん、守門先輩、常盤先輩、他にも僕の知らない殺された人々の復讐を終えた。そして何よりも僕自身の復讐も終わった。
 銀太の声は涙にまみれて震えていた。
後悔しているか? こんな結末になるなら、殺人犯の正体を知らなければ良かったと思っているか?
今はまだわからない。愛していた人を殺して悔恨しているのか、僕にとっての一つの時代が終わったことに郷愁を感じているのか、お姉ちゃんの仇を討って本望なのか、僕自身にもわからない。おそらくこの気持ちに整理がつくのは十年後か二十年後、僕が大人になったときなのだろう。
なぜ寮が火事になったのかは聞かない。無論、俺の部屋が消し炭になるのは残念だが。しかし銀太が秋姫先輩と心中するつもりだったのかは聞かせてもらう。あそこで俺が助けに行かなければ、お前は死んでいた。
確かに僕はあの場所で死ぬつもりだった。ただ理解して欲しいのは、秋姫さんからの愛情だけで心中の道を選んだわけではないということだ。秋姫さんはお姉ちゃんの知っていたコンプレックスに加えて、励起したコンプレックスをもう一つ隠し持っていた。その能力は僕が命を捨てる覚悟で挑まなければ打ち破れないものだった。殺された人々の復讐を果たすために、僕自身もその墓碑に名前を刻まなければ勝てなかった。
そうか。今はお前の行動を肯定も否定もしない。詳しいことは銀太の身体が回復してから聞く。
 二人はショッピングモールの正面玄関に着いた。七星が管理をしていたときのように守衛は立っておらず、住人の数も減っており、物資もほとんどが外部に流出していた。それでも楓子と赤藤がこの場所を寝床にしていたのは、いくつかの理由があるにしても、その中に敬慕の念から七星の遺体を学園の封鎖が解けるまで安配する目的があったのは確かである。紅月はショッピングモールに入ると、怒鳴り声を上げた。
生徒会庶務の瀧川紅月だ! 須磨楓子と赤藤梨音を呼んでくれ!
 ショッピングモールに残っていた数少ない人間で正面玄関の近くにいたものは突然闖入してきた紅月に困惑していたが、その声はフードコートでコーヒーを飲んでいた楓子と赤藤にも聞こえていたために、二人は急いで紅月のところまで駆け出してきた。そして紅月に背負われて、両足を失い、全身に火傷を負っている銀太を見て、すぐさま異常事態が起きたことを悟った。
医務室に連れて行きます。残りわずかですが、医療品が一式揃っています。
 赤藤が医務室へと案内しようとしたが、紅月はその配慮を丁重に断った。
申し訳ありませんが、先に常盤先輩の遺体が安置されている場所に案内していただけませんか? 銀太は他人の身体の部位を使って、自分の身体の欠損を修繕する能力を持っています。お二人は気を悪くするかもしれませんが、常盤先輩の両足を銀太に接合させていただきます。
もしも私たちがその提案を断ったら、常盤さんは天国から私たちを怒鳴りつけるわ。いや、地獄からかしら? 死してなお、人の役に立てるのならば、あの人の本望でしょう。あの人ならば生きていたときだって、喜んで人に自分の両足を差し出したわ。常盤さんの遺体はあの人が寝床にしていたぬいぐるみ専門店に安置してある。
 楓子はそう言うと、人差し指を上に向けて階上を示した。四人はエレベーターに乗り、四階へと向かった。七星の遺体は冬の寒さによって腐敗が遅れているということもあったが、楓子と赤藤の二人が毎日、水で薄めたエタノールとホルムアルデヒドを塗っていることもあり、真っ二つに切断されていること以外には、手入れの行き届いた状態に保たれていた。
銀太は『石蹴り遊び』によって七星の両足を自分の欠損した両足に接合した。その後、四人は医務室へと移動して銀太の火傷の処置をした。

 紅月は寮が火事になったので、再びショッピングモールで生活をさせてほしいと申し出た。楓子と赤藤は快諾した。現在のショッピングモールは統治している人間がいるわけでもないので、住み着いている人間は勝手に集まった人々であり、ここで生活するのに誰の許可を取る必要もないとのことだった。
 ただし七星が生きていたころの秩序と物資はもうすでに失っていると何度も念を押された。自分の身は自分で守れとさえ言われた。それでも銀太と紅月はもうこの学園の中で行く当てもなかったので、ここで生活をすることにした。

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