第9話
文字数 1,289文字
「名刺入れは持ってるか?」
アクタガワが不意にヘイジに尋ねた。
ヘイジは、頼んでもないのに注がれるカクテルを飲み干そうと苦しんでいたが、怪訝そうにアクタガワに顔を向けた。
「持ってるけど、いま必要なのか?」
驚くのはすっかりやめていた。もうどうにでもなれというきがしていたのだ。
アクタガワは頷いて、「ピーナッツあるやん、つまむめ」とせかす。
とそのとき、入り口のドアから慎重な様子でどんどんと鉄でできたドアを叩く鈍い音が響いてきた。
「なんや、どうぞ」
入ってきた男は二人組で、一人の男は二人に向かってこう言った。
「すいません。警察なんですけど、店内で暴れた若者がいるって通報があったんだけど君たちかな」
ヘイジはむせそうになり、あわてて立ち上がった。アクタガワは、調理場から飛び出して詰め寄り、挙動不審のヘイジを横目に慣れた手つきでポケットから身分証明書を警官に手渡して、
「よくてみぃ00や」と言った。そう答えるとアクタガワは男の階級章を確認して後ろで控える中年の男となにやら話し始めたのだ。
おそらくこの店のマスターがさっきの電話で通報したのだろう。警察官が現われた時には、この世の終わりだと思ったが、アクタガワと警察官の会話はスムーズで時おり笑顔が見える。このままアクタガワに任せておけば心配ないと高を括った。
「なぁアクタガワ」
「なんや」
「お前、さっきまで楽しそうに話していたよな」
「あぁ、おれお喋り好きやから」
「じゃあなんで・・・・・・おれたちはパトカーで連行されているんだよ‼」
不意に震えが走った。その瞬間に身内に沸き上がった感覚を理解するまでにそう時間はかからなかった。人は激しいストレスにさらされると見識が狭くなるらしい。二人は車内で両脇をがっちり警官に固められ身動き一つとれないでいた。
「どうしてこうなった」
怒りを押し堪え囁くように言った。
「だって正直に答えろ言うから、正直に答えてん。地球はあと10分くらいでなくなりますって」
「おまえなぁ」
「おいうるさいぞさっきから」
「すみません」
一喝され、ヘイジはすぐに謝ったがアクタガワは悪びれる様子もなく今度はみんなに聞える声で続ける。
「お仕事大変ですね、でも最後くらいは自由にやりたいことやったほうがええよ」
その口調に車内はとんでもなくギクシャクした空気になる。
「きみ、薬でもやっているのか?」
「残念ながらなんも、やってません」
「じゃあ本当に地球の終わりは近いのかね」
「あぁ」
「それはいつかは終わりを迎えるけどでもまさか今日の午後だなんて」
今度は車内から笑いが漏れた。アクタガワの学生書を確認した警官は彼が現在、大学六年生で職務質問から今年も卒業できる見込みがないことを知ったので、やけになってる変な奴だと思ったのかもしれない。
「そのまさかですよ」とあっさり答えた。
「助かる方法はあるのかい? 学校では机の下に隠れたり、床に寝そべったりといろいろ対処法を教えてもらったけど」
「お好きにどうぞ」アクタガワは陽気な口調で言った。
アクタガワが不意にヘイジに尋ねた。
ヘイジは、頼んでもないのに注がれるカクテルを飲み干そうと苦しんでいたが、怪訝そうにアクタガワに顔を向けた。
「持ってるけど、いま必要なのか?」
驚くのはすっかりやめていた。もうどうにでもなれというきがしていたのだ。
アクタガワは頷いて、「ピーナッツあるやん、つまむめ」とせかす。
とそのとき、入り口のドアから慎重な様子でどんどんと鉄でできたドアを叩く鈍い音が響いてきた。
「なんや、どうぞ」
入ってきた男は二人組で、一人の男は二人に向かってこう言った。
「すいません。警察なんですけど、店内で暴れた若者がいるって通報があったんだけど君たちかな」
ヘイジはむせそうになり、あわてて立ち上がった。アクタガワは、調理場から飛び出して詰め寄り、挙動不審のヘイジを横目に慣れた手つきでポケットから身分証明書を警官に手渡して、
「よくてみぃ00や」と言った。そう答えるとアクタガワは男の階級章を確認して後ろで控える中年の男となにやら話し始めたのだ。
おそらくこの店のマスターがさっきの電話で通報したのだろう。警察官が現われた時には、この世の終わりだと思ったが、アクタガワと警察官の会話はスムーズで時おり笑顔が見える。このままアクタガワに任せておけば心配ないと高を括った。
「なぁアクタガワ」
「なんや」
「お前、さっきまで楽しそうに話していたよな」
「あぁ、おれお喋り好きやから」
「じゃあなんで・・・・・・おれたちはパトカーで連行されているんだよ‼」
不意に震えが走った。その瞬間に身内に沸き上がった感覚を理解するまでにそう時間はかからなかった。人は激しいストレスにさらされると見識が狭くなるらしい。二人は車内で両脇をがっちり警官に固められ身動き一つとれないでいた。
「どうしてこうなった」
怒りを押し堪え囁くように言った。
「だって正直に答えろ言うから、正直に答えてん。地球はあと10分くらいでなくなりますって」
「おまえなぁ」
「おいうるさいぞさっきから」
「すみません」
一喝され、ヘイジはすぐに謝ったがアクタガワは悪びれる様子もなく今度はみんなに聞える声で続ける。
「お仕事大変ですね、でも最後くらいは自由にやりたいことやったほうがええよ」
その口調に車内はとんでもなくギクシャクした空気になる。
「きみ、薬でもやっているのか?」
「残念ながらなんも、やってません」
「じゃあ本当に地球の終わりは近いのかね」
「あぁ」
「それはいつかは終わりを迎えるけどでもまさか今日の午後だなんて」
今度は車内から笑いが漏れた。アクタガワの学生書を確認した警官は彼が現在、大学六年生で職務質問から今年も卒業できる見込みがないことを知ったので、やけになってる変な奴だと思ったのかもしれない。
「そのまさかですよ」とあっさり答えた。
「助かる方法はあるのかい? 学校では机の下に隠れたり、床に寝そべったりといろいろ対処法を教えてもらったけど」
「お好きにどうぞ」アクタガワは陽気な口調で言った。