第86話  フリーダム白竹一家 4

エピソード文字数 3,717文字

 ※


 保健室には誰もいなかったので、俺はまず「彼女は何者?」という質問から始める。


 急に沸いて出た美優ちゃんの双子ちゃんだからな。



 これは楓蓮でも知らない情報なだけに非常に興味があったが、二人とも何も答えない。答えないどころか逆に魔樹が質問してくる。

覚えているだけでいい。彼女がどんな風に振舞ったのか、何を言ったのか、教えて欲しい
え? 何でそんなことを?
頼む黒澤。そうじゃないと説明しようが無いんだ

 何でそんな真面目な顔なんだよ。別にお前は普通に紹介すればいいんじゃないの? そう思ったが、こいつの超必死な顔を見てると、分かったよと軽い口調で承諾した。



 一応、お前らがいなくなってから彼女はどういったのか、一から話していると、思わぬ場所で魔樹がストップを掛ける。

ということは。魔優と名乗ったんだね?
え? ああ。ってか何で? もしかして偽名?
…………

 二人はやたら真剣な様子で考え込んでいるようだ。


 何だか言い難そうな質問だったのだろうか。まぁそこまで悩むってことは偽名だと言っているようなものだぜ。


 魔優って……魔樹と美優が合体してるもんな。

続きは?

 俺の質問に答えるどころか、逆に催促されてしまう。


 まぁ別に名前のことなんてあまり気にしないが、それよりもずっと魔樹の顔が鋭すぎて困る。


 そこからは教室に入ってからの彼女の態度やら、何を言われたのか覚えている範囲で答えて、急に帰ると言ったのも説明する。



 そして二人が保健室にいるのを言い当てたのにビックリしたとか、ここまで来る経緯を話し終えると、魔樹は暫く考えてから……

悪いんだけど。この話誰にもしないで欲しい
こんなこと、誰にも言いふらしたりしないから、安心しろ

 だって魔樹。お前、顔を見てみろよ。

 今にも死にそうな面になってるし、後ろに隠れてる白竹さんまでブルってる。


 この姉弟にとっては、一大事よりも大惨事って感じの絶望顔だったからだ。

黒澤には後日改めて説明するから
別にいいたくなけりゃ説明しなくてもいいよ
く、くりょさわくん。ありがとぉございます!

いえいえ。気にしないで下さい。だけど……

クラスの人間には双子の妹の魔優ちゃんってことになってるから、それはどうしようもないですよ

 ぱぁっと表情が明るくなった美優ちゃん。

 魔樹までふぅっと溜息を吐くと、やたらと安堵してるようにみえるぞ。

ってか授業中だし。まだ帰ったら間に合うかも
 俺がそう言うと、二人とも思い出したように「あっ」と漏らしたと思えばすぐに立ち上がった。


 完全に授業のこと忘れてたって感じだな。

行こう美優。この話は帰ってからゆっくり考えよう
うんっ! そ、そですね
だけど何で……黒澤について回ったのだろう

そりゃこっちが聞きたいぜ。

ここまで彼女を送るクエストなんて謎過ぎるだろ

 そんな事を話しながら三人が保健室から出てくると、魔樹はすぐに走り出した。
黒澤。美優を頼む。僕は授業の初めからいなかったし、マズいかもしれない

 ああそうか。それは欠席扱いになるかもしれん。

 俺達は(魔優ちゃんだが)授業開始には教室にいたからな。

行けよ。俺らは大丈夫だから

 今日の魔樹はツンツンしておらず、やたら素直なので可愛く見えるから困る。まぁ普段が無愛想すぎるからな。



 と言う訳で、美優ちゃんと二人になってしまった。

 しかし彼女は依然として周りをキョロキョロしながら小動物のようにちっちゃくなっていた。

大丈夫ですか?
……あひ
 何も喋らないわけにもいかず廊下から階段へ登るとき、その空気に耐えきれず気さくな話でもしようとした。

でも魔優ちゃんって……うまいこと言いますよね。

魔樹と美優ちゃんの名前を合体させた感じで……

うはぁう。はぅうっ……

 このネタはまずかったか?

 俺は別に偽名という割には、ちゃんと考えてるなって思っただけなんですけど。


 こりゃ本当の名前を聞くのはNGっぽいな。

 まぁぶっちゃけ言わせて貰うと、名前なんてどーでもいいんだけど。

そういえば、やたら俺を知ってる風な感じだったんです
へゅ? 本当ですか?
はい。俺は全然身に覚えは無いんですけど

 あら。黙ってしまった白竹さんは、階段を上がるスピードがカタツムリ並みになってしまう。このままでは教室に辿りつけない。


 何か明るい話題に変えなければ。

そういえば、彼女に白馬の王子って言われましたよ。あまりにもメルヘンチックで心の中で笑っちゃいましたけど

 これは魔樹に話していない。


 なんとなく、あいつの求める真面目な話じゃないし、どちらかと言うとギャグっぽい話題だったからな。

ええっ! 黒澤くんは白馬の王子なの?

 え? あ、いや……


 普通だったら「あふっ」という声と共に笑顔になってくれそうな気がしたが。

 そんな真面目な顔で受け答えされたら「そうです」って言った方がいいのか。

残念ながら俺は馬なんて乗った事がありませんし、触ったこともありませんよ。ちょっとだけ乗ってみたいという願望はありますけど

できれば小さいやつとか。ほ、ほら。ポニーとか。

あ、大型犬の背中とかでもいいです。

 自分で言っておいて寒いのは分かってる
 っていうか。さっきから白竹さんのテンションがおかしい。

 俺が茶化して話しているのに、まるで神のお告げを聞くようなピュアな目になってるし。


 この後、フィアンセやら婚約者やら、言いたい放題だったのを語るのを戸惑うじゃないですか。   

 そして……白竹さんは突然言い放った。
黒澤くん! 本当にママがそう言ったのですか?
へ? ママ?
 すると白竹さんは魔樹のような顔芸をお見舞いすると共に、階段から落ちそうになり俺は慌てて手を伸ばした。
ああうう……あうあ

 やばい! 白竹さんがマジで死にそうだ。


 顔は真っ青で、口元がプルプル震えてらっしゃる。美少女であらせられる彼女が、この時ばかりは美的オーラが完全に消えていた。


 まともに喋れないのか、身体も動かす事が出来ないようだ。


 とりあえず彼女の身体を引っ張って階段の踊り場まで来ると、壁に寄りかかりながらヘナヘナと座り込んだ。

あの……今のは聞かなかったことにしてくださぁい!
ママって話ですか?

 ああ、しまった。言葉に出しちゃまずかったらしい。


 座り込んだ態勢から、床にまで崩れ落ちた白竹さんは、息も絶え絶えに「お願いします」と小さく呟いた。

わかりました。わかりましたから。起きましょう

 よほどショックなのか、寝転んだまま動こうとしないので、結局俺が身体を起こすハメに。

 あなたのような人が、こんな場所に寝転がっちゃダメですよ。

さっきのは聞かなかった事にします。

うん! 忘れた! 大丈夫です。美優ちゃん!

 ようやく彼女の瞳に生気が戻ってくると、俺は何度も「忘れました」と言い聞かせる。すると徐々に復活しだした白竹さんは何度もお辞儀をするのだった。

わたひ。昔から、大事な事をポロっと言っちゃう時があって……
あぁ、何だか分かるような気がしますね。俺もそういう所ありますから
 そこまで言うと、下の階から足音が聞こえてきたので、思わず美優ちゃんの手を取った。
授業戻りましょうか
うん!

 こんな場面を教師に見られるとマズい。まぁ生徒でもマズいんだけど。


 そこから美優ちゃんの足取りも軽くなったので、あっという間に我がクラスの三階まで辿りついた。


 だが、そこで一旦ストップしてしまった白竹さん。

あ、すいません。勝手に引っ張っちゃって
一応授業中なので小声で話すが、今度は彼女の手が俺を引っ張り出すと、逆方向へ向かうのだった
待って下さい。あの……黒澤くんにはちゃんと、お、お話しますから

 白竹さんの思いつめたような表情に気を取られていると、彼女は更に階段を上がろうとする。


 その時、下からも足音が聞こえてくると、誰かがすぐ傍まで来ていると察知していた。




 やばい。見つかる!

ちょっとすんません
あふっ

 その瞬間、ひょいっと彼女の身体を抱えると、俺はそのまま四階、更に五階へ進み、屋上前の踊り場まで逃げていた。 

  

 ここなら大丈夫だろ。行き止まりだしな。


 俺はそーっと四階を覗き込むと、階段を上ってきたのはどうやらウチの担任じゃないか。何をしてるのか知らないが、そのまま教室方面へ歩いていった。



 そこまで確認すると、白竹さんを降ろして踊り場に座り込んだ。

ちょっと狭いっすね。色んな物置いてあるし
 おかげで四階部分から覗かれると一発でバレちまう。

 ここから屋上に出られればいいんですけど。



 一応ドアノブを回してみるが開かない。だが……

 

 ちょっと力を込めてドアノブを回すと「ガコッ!」という激しい音と共にドアが開いてしまう。



 やばい。ドアノブ自体が飛び出してぶっ壊しちまったぞ。


あ……ははっ。どーしよ。これ
あはっ

 思わず照れながら引きつり笑いを見せると、白竹さんは最初めちゃ驚いていたけど、暫くしてから凄い笑顔を見せてくれた。

どうせなら壊したついでに屋上に出てみます?
……うん!

 おっと。危ない。


 こりゃ俺の頭の中にある白竹さんメモリーの中でも、トップクラスの笑顔であり、穢れの無い……純粋無垢な笑顔だ。

 こんな顔を西部にでも見せれば「もう結婚しましょう」とか言いそうだ。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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