溺愛症候群 ~ルッキング フォー トラブル~
文字数 2,611文字
「ワタシがいなくなったらどうするのよ?!」
自分で自分がマズいことを言っていることがよく分かっている。
「ワタシが死んじゃったらどうするの?!」
ああ、言ってしまった。こうなることは分かっていた。全部自分で計画していたこと。自覚は大いにある。目の前でバサくんが諦め顔をして首を大きく何度も振っていた。
「悪いけど俺もうつき合い切れないよ、コロ… 別れるのがお互いのためだと思う…」
バサくんはグラスの底の周りの水で濡れたテーブルの上にドリンク代を二人分置いて立ち去って行った。
“勝った!”
勝利の高揚感で胸をいっぱいにしてワタシは満足していた。
“やっぱりバサくんはワタシのことが好きじゃなかったんだ。ワタシなんかを好きになる人なんている訳ないもん。だってワタシ自身が自分のことが好きじゃないんだから”
*
ワタシは自分のことが嫌いだ。見た目がカワイイわけじゃない。スタイルだって全然自信ない。アタマも良くないし、お金もない。構って欲しくてしょうがないから面倒くさい。
こんなワタシでもイッチョマエに男の人のことが気になることがある。バイト先で一生懸命に働いている人や自分の世界を持って熱心に取り組んでいる人を見ると勝手に応援したくなっちゃう。気が付くと自分から近づていっていて手伝っちゃっているんだ…
そして一度恋に落ちるとその恋にワタシは溺れていっていく…
初めはフツーにお付き合いできるんだけど、相手の人のお仕事が忙しくなったり趣味のことに忙しくなってきたりすると少しづつ本性が顔を出してくる。そのうちワタシのことが優先されなくなって来ることがあると不満が募り…
「ワタシのことより自分のことの方が大切なんでしょ!」
「あなたにとってワタシってなんなの? 答えてよ!」
引き留めて欲しい… でも、そんな心とは真逆な態度や言葉をあたりかまわずまき散らしてしまう…
*
『おい、チョット待ってくれよ』
そんな一言が欲しいときに相手は引き留めてくれない… ワタシには気がないんだ…
失望してワタシは相手の愛情を疑い始める。仕事や趣味の方がワタシより大事なんだ… そんなことよりワタシの方を向いてよ! “疑惑”モードと“構って”モードが発動する。
初めの頃は愛してくれていたハズなのに逢うたびに相手を疲れ果てさせてしまい、いつの間にかワタシは愛想を尽かされてしまう。
でも、ワタシには初めから分かっていたこと。むしろ予想どおりの展開に安心してしまっている。そう、ワタシはやっぱり正しい。ブサイクでメンドクサイ、ワタシなんかを愛してくれる人なんかいるワケないじゃない。
それでも、どうしても相手の気持ちを試しちゃう。ソッケなくしたり浮気のフリをしたり別れをほのめかしたりする。相手を怒らせたり嫉妬させたりすることでワタシは自分への一時的な“愛”の実感を得られる。
ただ、ワタシのジコチューな安心感と引き換えに相手の気持ちはどんどん離れていってしまう。
*
「コロさん、良かったら交際からお願いできないでしょうか」
「ふへ?」
それは、さる士業の事務所でコピー取りとお茶くみなどの非常勤の仕事をしていた時であった。
いまだかつて現実世界では聞いたことのないコトバを聞いてワタシは自分の耳を疑った。これまでのお付き合いはワタシから相手にお声がけをして始まってきたものだ。
それに今回のお相手はどう見ても、容姿や言葉づかいや身に着けている物までワタシなんかとは釣り合いがとれていない。若干どころか大いに不自然さを感じつつ、とても手入れが行き届いているとは言えないワタシなんぞの手を取るお相手にワタシは目は合わせられないながらも首を小さくたてに振っていた。
しかし一度こちらのワナにかかったら最後。巣に絡みついた蝶に襲いかかる蜘蛛ごとくワタシは好き勝手にお相手へワガママをし始めた。いつもどおり“疑惑”モードと“構って”モードが時と場所を選ばず発動する。
「ワタシは激、激オコなんだから~!」
「わかった、わかった、良い子良い子してあげる」
「なんで連絡してこないのよ~!」
「毎日連絡するよ、コロちゃんに寂しい思いをさせてゴメンね」
「ワタシだって忙しいんだから勝手に予定決めないでよ~!!」
「先に予定を聞いておかなかったのがよくなかったね、悪かった」 etc.
今までのノーマルタイプならワタシの愛に対して第二攻撃までに離脱しなかった者はいなかった。が、カレちゃまは別世界の住人様だった。ワタシが因縁をつければつけるほど、言いがかりをすればするほど生き生きとしていった。ワタシもそれに応える使命感を感じて、より過激な道を拓いていった。
*
“ワタシ、本当に愛されているかもしれない… こんなに酷いことをしてもカレちゃまはワタシより大きな愛で全てを受け止めてくれる…”
ワタシは自分の底なしだった愛の欲が満たされていくのを実感していき、少しづつカレちゃまのことに気遣いをしたり協力をしてあげられるようになった。
ワタシは今まで相手や周りの人たちよりも自分を愛していたんだ… カレちゃまのこれまでの態度や姿勢にそれを教えてもらったことにふと気がついた。そして自分のことが本当に恥ずかしくなった。これまでカレちゃまにいただいた愛をカレちゃまにお返ししたり、周りの人たちへおすそ分けをするようにしていった。
*
「コロさんお話ししたいことがあるのですが、お時間はありますか?」
“急にあらたまって、カレちゃまどうしたんだろう”
「お時間はありますか、コロさん?」
「はい」
「それでは、お話しというのは… まず、コロさん最近変わりましたよね。周りの人のことを気遣ってくれたり、仕事のことで私のことを助けてくれたり… はっきり言って人として立派に成長されました。とても素晴らしいことです」
ここでカレちゃまは居ずまいを正した。
「それで、コロさんに折り入って伝えたいことがあります」
“これってもしかして?!”
「私には今コロさんとは別に交際を考えている人がいます」
“ふんふん、ん?!”
「私の使命は恵まれない境遇にある方とお付き合いをすることなのです。最近、とても幸福どころか普通とは言えない境遇の方と出会いました。もうコロさんはお一人で充分立派に生活をしていけるようになられました。これまでお付き合いいただいて申し訳ありませんが…」
自分で自分がマズいことを言っていることがよく分かっている。
「ワタシが死んじゃったらどうするの?!」
ああ、言ってしまった。こうなることは分かっていた。全部自分で計画していたこと。自覚は大いにある。目の前でバサくんが諦め顔をして首を大きく何度も振っていた。
「悪いけど俺もうつき合い切れないよ、コロ… 別れるのがお互いのためだと思う…」
バサくんはグラスの底の周りの水で濡れたテーブルの上にドリンク代を二人分置いて立ち去って行った。
“勝った!”
勝利の高揚感で胸をいっぱいにしてワタシは満足していた。
“やっぱりバサくんはワタシのことが好きじゃなかったんだ。ワタシなんかを好きになる人なんている訳ないもん。だってワタシ自身が自分のことが好きじゃないんだから”
*
ワタシは自分のことが嫌いだ。見た目がカワイイわけじゃない。スタイルだって全然自信ない。アタマも良くないし、お金もない。構って欲しくてしょうがないから面倒くさい。
こんなワタシでもイッチョマエに男の人のことが気になることがある。バイト先で一生懸命に働いている人や自分の世界を持って熱心に取り組んでいる人を見ると勝手に応援したくなっちゃう。気が付くと自分から近づていっていて手伝っちゃっているんだ…
そして一度恋に落ちるとその恋にワタシは溺れていっていく…
初めはフツーにお付き合いできるんだけど、相手の人のお仕事が忙しくなったり趣味のことに忙しくなってきたりすると少しづつ本性が顔を出してくる。そのうちワタシのことが優先されなくなって来ることがあると不満が募り…
「ワタシのことより自分のことの方が大切なんでしょ!」
「あなたにとってワタシってなんなの? 答えてよ!」
引き留めて欲しい… でも、そんな心とは真逆な態度や言葉をあたりかまわずまき散らしてしまう…
*
『おい、チョット待ってくれよ』
そんな一言が欲しいときに相手は引き留めてくれない… ワタシには気がないんだ…
失望してワタシは相手の愛情を疑い始める。仕事や趣味の方がワタシより大事なんだ… そんなことよりワタシの方を向いてよ! “疑惑”モードと“構って”モードが発動する。
初めの頃は愛してくれていたハズなのに逢うたびに相手を疲れ果てさせてしまい、いつの間にかワタシは愛想を尽かされてしまう。
でも、ワタシには初めから分かっていたこと。むしろ予想どおりの展開に安心してしまっている。そう、ワタシはやっぱり正しい。ブサイクでメンドクサイ、ワタシなんかを愛してくれる人なんかいるワケないじゃない。
それでも、どうしても相手の気持ちを試しちゃう。ソッケなくしたり浮気のフリをしたり別れをほのめかしたりする。相手を怒らせたり嫉妬させたりすることでワタシは自分への一時的な“愛”の実感を得られる。
ただ、ワタシのジコチューな安心感と引き換えに相手の気持ちはどんどん離れていってしまう。
*
「コロさん、良かったら交際からお願いできないでしょうか」
「ふへ?」
それは、さる士業の事務所でコピー取りとお茶くみなどの非常勤の仕事をしていた時であった。
いまだかつて現実世界では聞いたことのないコトバを聞いてワタシは自分の耳を疑った。これまでのお付き合いはワタシから相手にお声がけをして始まってきたものだ。
それに今回のお相手はどう見ても、容姿や言葉づかいや身に着けている物までワタシなんかとは釣り合いがとれていない。若干どころか大いに不自然さを感じつつ、とても手入れが行き届いているとは言えないワタシなんぞの手を取るお相手にワタシは目は合わせられないながらも首を小さくたてに振っていた。
しかし一度こちらのワナにかかったら最後。巣に絡みついた蝶に襲いかかる蜘蛛ごとくワタシは好き勝手にお相手へワガママをし始めた。いつもどおり“疑惑”モードと“構って”モードが時と場所を選ばず発動する。
「ワタシは激、激オコなんだから~!」
「わかった、わかった、良い子良い子してあげる」
「なんで連絡してこないのよ~!」
「毎日連絡するよ、コロちゃんに寂しい思いをさせてゴメンね」
「ワタシだって忙しいんだから勝手に予定決めないでよ~!!」
「先に予定を聞いておかなかったのがよくなかったね、悪かった」 etc.
今までのノーマルタイプならワタシの愛に対して第二攻撃までに離脱しなかった者はいなかった。が、カレちゃまは別世界の住人様だった。ワタシが因縁をつければつけるほど、言いがかりをすればするほど生き生きとしていった。ワタシもそれに応える使命感を感じて、より過激な道を拓いていった。
*
“ワタシ、本当に愛されているかもしれない… こんなに酷いことをしてもカレちゃまはワタシより大きな愛で全てを受け止めてくれる…”
ワタシは自分の底なしだった愛の欲が満たされていくのを実感していき、少しづつカレちゃまのことに気遣いをしたり協力をしてあげられるようになった。
ワタシは今まで相手や周りの人たちよりも自分を愛していたんだ… カレちゃまのこれまでの態度や姿勢にそれを教えてもらったことにふと気がついた。そして自分のことが本当に恥ずかしくなった。これまでカレちゃまにいただいた愛をカレちゃまにお返ししたり、周りの人たちへおすそ分けをするようにしていった。
*
「コロさんお話ししたいことがあるのですが、お時間はありますか?」
“急にあらたまって、カレちゃまどうしたんだろう”
「お時間はありますか、コロさん?」
「はい」
「それでは、お話しというのは… まず、コロさん最近変わりましたよね。周りの人のことを気遣ってくれたり、仕事のことで私のことを助けてくれたり… はっきり言って人として立派に成長されました。とても素晴らしいことです」
ここでカレちゃまは居ずまいを正した。
「それで、コロさんに折り入って伝えたいことがあります」
“これってもしかして?!”
「私には今コロさんとは別に交際を考えている人がいます」
“ふんふん、ん?!”
「私の使命は恵まれない境遇にある方とお付き合いをすることなのです。最近、とても幸福どころか普通とは言えない境遇の方と出会いました。もうコロさんはお一人で充分立派に生活をしていけるようになられました。これまでお付き合いいただいて申し訳ありませんが…」