女勇者の誤算

文字数 3,155文字

鎧を縮めるだけの下らない魔法。

だがそれは、襲い来る使い魔たちを退けつつ迷宮深部に辿り着いた頃、実に陰険な本性を明らかにし始めていた。
くっ……!
ティアリスを集中して狙う怪物たち。

その爪や牙でアーマー胸部はズタズタに切り裂かれ、倒せば更に縮まって、裂け目からいやらしく肉をはみ出させる。
剣を両手で持てない……胸を……胸を、覆わないと……!
戦闘に乳房が揺れる度、危うくこぼれ出てしまいそうな乳首。剣を振るために脚を踏ん張れば、はみ出てしまいそうになる女の秘肉。

それを、どうしても意識させられてしまうのだ。

これまで気にしたこともなかった仲間たちの視線。それが今や、痛いほどに突き刺さるものとして感じられ、恥ずかしい。
(み、見ないで……)
彼女とて子供ではない。男子木石にあらずと知っている。

自分の肉体に目を奪われる仲間を責める気はなかった。
(みんなのせいじゃない。この下らない魔法をかけたバロクのせいよ!)
だが、その下らない魔法のおかけで、ブリックは戦闘に集中できず、彼女のきわどい姿に気を取られては負傷し、スケアクロウの洞察眼はまさしく目を奪われた状態。

そして、最大の痛手はドロスの不調だった。
ああっ、また失敗だ……加護の祈りが女神に届かない!
今も、戦闘を終えて蛮人を介抱するために周囲に聖なる結界を張ろうとしているのだが、上手くいかないでいる。
(なんとかしないと、このままでは……)
危険だ。
(でも、どうすれば?)
何か上から羽織るものがあれば隠せもしようが、そんなものはない
(聖騎士は守りの要……敵がいつ襲ってくるかわかない状況で、ドロスに鎧を外させて服を借りるなんてできない)
(スケアクロウの忍装束は術の成否にかかわる生命線だし……)
(蛮族のブリックは、そもそもパンツ一枚しか身に着けていない……)
結局、このまま戦うしかない。
(でも、それでこの先、太刀打ちできるのかしら? 魔物たちはいっそう強力になるに違いないのに)
(かといって、今更引き返すには奥深くまで入り込み過ぎてしまった。この状態で敵の追走を受けるのは致命的……)
悔しいが、徐々に鎧を縮めていくだけというこの下らない魔法によって、にっちもさっちもいかない状況に追い込まれたのだと認めざるを得なかった。
ティアリス……
ひゃうっ!
思いにとらわれていたティアリスはいきなりドロスに話しかけられて跳び上がった。
な、なに……?
ようやく結界を張ることができた。しばらく魔物たちは僕らを見つけられないはずだ。
よい報せだったが、彼の面持ちは険しかった。

ためらいがちに言葉を続ける。
相談が……その、言いにくいことで……誤解して欲しくないんだが……協力して貰いたいことがある。
なんでもするわ、言って。
胸と股間を隠したままにしたものか、それとも意識してない振りをするべきか迷いながら、ティアリスは結局、身体を腕で覆ったままにしていた。
……。
聖騎士は一瞬ためらった後、彼女の手を取ると、決然と己の股間へと導いた。
……!
鎧に隠れて気づかなかったか、そこには硬く太く滾った男の怒張がすでに外に出されて屹立していた。
なっ……なんのつもり!?
驚き、慌てふためく。

突然の突拍子もない行為というだけでなく、それは彼女にとって初めて直接触れる異性の器官だった。

思いもかけない肉熱の激烈に心臓がドキドキと高鳴りを始める。
驚かないでくれ、男の体はこういうもの。決してやましい心があるわけじゃない。だが、女の……ティアリスの今の姿を見ると、どうしても……
ドロスの表情は真剣だった。
ここさえ鎮まれば、いつものように祈りが届くようになると思うんだ。
し、鎮まるって……どうすれば?
問いかけに対し、ドロスは彼女の手をゆっくりと前後に動かして、自分のものを慰める所作をさせてみせる。
こう……やって……さ、さすれば鎮まる……ということ?
顔を赤らめながら聞き返すと、聖騎士が気持ち良さそうに目を細めて頷く。
ああ、そうすれば……男のものは、やがて精を吐く。心も晴れて、祈りも届くようになる。また戦える。
でっ、でも……こんな場所で?
他にどんな場所があるというんだ? チャンスも結界のある今しかない。
確かに、彼の言う通りだ。
(ど……どうしよう?)
ドロスの言いたいことはわかった。仲間のために何でもしてやりたい気持ちもある。

だが、
(男のものを……あたしの手で……なんて)
戦いと冒険に明け暮れて生きてきた彼女にとって、初めての経験。

しかし、これが淫らな行為であることはわかっていた。

それを自分が、しかも、敵を追っている、そのさ中に……!
(ううっ……!)
背徳感がゾクリと胸を刺す。
行為する自らの姿が頭に浮かび、たちまち羞恥の念が湧き上がった。

そのためらいを察して聖騎士が諭す。
いかがわしいことじゃない……僕が祈祷でみんなの傷を癒やすのと同じだ。これは仲間のために必要なことなんだ。
仲間の……ため……!
そうだ。そう考えれば……。

仲間のため。こんな所で全滅してしまうわけにはいかないのだ。
(そうよ。ドロスだって好きでこんな提案をしているわけじゃない……)
魔法をかけたのはバロクとはいえ、自分の肉体のせいで引き起こされてしまっている事態だ。

せめてその分を自身でどうにかできるのなら……。
わ、わかった……わ……。
ティアリスは心を決め、行為をしやすいようにドロスの前に膝をついた。
こ……こうすればいいの?
掴んだ剛直をおずおずと指の中で滑らせながら尋ねる。
ああ……良いよ。ティアリスの手、気持ち良くて声が出てしまいそうだ……。
甘い囁き声に一瞬で頭に血が上る。
(あたしなんかの手が……気持ち良いですって?)
握るものといえば剣の柄ぐらいの自分が、男にそんな快楽を与えることができるなど、考えたこともなかった。

そのままさすりながら見上げると、ドロスは目を閉じて、うっとりとした顔をしている。
ああ……ティアリス……
(彼のこんな表情、初めて見る……)
そうさせているのは他ならぬ自分なのだと思うと、何故か胸の奥がキュンと締め付けられる。
もっと激しく動かしてくれないか。優しく触っているだけでは……男は、果てることができないんだ。
う、うん……わかった……
あ、待って……激しくすると痛めてしまうことがある。だから、できれば、唾液で濡らして……
えっ!?
さすがに驚いて聞き返す。
唾液って……それじゃあ!
ああ……舐めるんだよ。舌でねぶってこすりつけるんだ。
そんな……それは……
仲間のためとはいえ、そこまで……! 戸惑い、固まるティアリス。

そこへ、スケアクロウとブリックが気づいてやって来る。
どうしたでござ……ややや!?
チッ、チンポ出して何やってんだ!
ちっ……違うの! これは……!
慌てて弁明しようとする。頬が燃えるように熱い。
(ああっ! み、見られてしまった! 男……のを、握り締めているのを! は、恥ずかしい……!)
ティアリスに勃起を鎮めてくれるよう頼んだんだ。これでもう大丈夫だ。
引き取って説明するドロスの落ち着いた口調に、ティアリスもどうにか取り繕うことができた。
え、ええ……ほ……他に方法は……ないでしょう?
それを聞いて二人がおおと感嘆する。
成る程……!
確かに!
さあ早くティアリス、まずは僕から。みんなの分もある、急がないと。
ええっ……ぜ、全員……するの?
そうだとも。連携を発揮するには、僕だけ鎮めても意味がない。
そう言ってドロスが亀頭を突き出す。
(う……あ、ああ……本当にするしかないの……? 二人の前で……これを……く、口につける……の……?)
胸がドキドキする。

逡巡。落ち着かぬ心。

そのとき、ティアリスの下腹を身震いのような感覚が襲った。
生まれて初めての……切ない痺れ。

しかも、それは甘やかな疼きを伴っていた……。
(えっ……? な、何……これ……?)
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登場人物紹介

ティアリス・ライオンハート

豊満な身体をビキニアーマーに包んだ赤髪の女剣士。
世界に名だたる勇者であり、その愛剣で悪を討つ。

ドロス

ティアリスのパーティメンバーの聖騎士(パラディン)。
巨大な盾と神聖魔法を使う防御の要。

ブリック

ティアリスのパーティメンバーの蛮族(バーバリアン)。
巨大な二本の斧を軽々と振り回す頼もしい戦士。

スケアクロウ

ティアリスのパーティメンバーの忍者(ニンジャ)。
異国の秘術「忍法」と、持ち前の敏捷さで敵をかく乱する。

バロク

邪悪な魔法使い。
地下迷宮の奥底に隠れ住み、近隣の人々を苦しめる。

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