第286話 バズる法則

文字数 1,462文字


 正直、もつ鍋水炊きガールズは悪いところだらけだ。
 トーク下手。歌が下手。ダンスも下手。
 良いところと言えば……特にない。

 俺が黙って唸り込んでいると、痺れを切らしたかのように、長浜がテーブルを叩いて叫ぶ。
「アタシたちのどこが悪いっていうのよ! 福岡のトップアイドルよ!」
 いや、福岡でも認知されてないだろ。
「……」
 どうしたものか。正論を叩きつけても自信過剰な長浜には通用しない。
 右子ちゃんと左子ちゃんなら……ちゃんと話を聞いてくれそうだが。
 ん? この二人ならば、双子の大人しいシンクロアイドルっててことで売れそうだ。
 脚を引っ張っているのは、リーダーの長浜かもな。
 しかし、三人で売れたいというのが本音だろう。
 確かにルックスだけ言うならば、長浜 あすかは可愛い部類だろうな。
 黙っていればの話だが……。

「……そうか。黙っていればいいのか!」
 閃いたぞ。
 ダンスも下手。歌も下手。トークも緊張してダメ。
 なら、何もさせなければ良いんだ!
 俺はあまり触らないが、聞いたことがある。
 若者の間で流行っているアプリ。
『トックトック』だ。
 あれならば、多少踊りが下手でもルックスさえ良ければ、売れる可能性がある。
 トックトックのフォロワー数が多ければ、面接にも有利とギャルが豪語していたしな。
 よし、これで行こう。
 確かあれだ。
 あの動画サイトは承認欲求の塊ばかりだろう。
 つまり、ミニスカや露出度が高い衣装でも着て、パンチラとかパイチラがあれば、再生回数上がるだろう。知らんけど。

 俺は椅子に座り直して、3人にプレゼンを始める。
「おほん! 君たちの良いところを俺なりに考えてみた。それはルックスと若さだ!」
「「ルックスと若さ?」」
 声を揃えて驚く左右コンビ。
 対して長浜は当然だと言わんばかりに、鼻で笑う。
「フンッ! アタシが美人だって福岡市民は全員知っているわよ!」
 クソが。
「まあ話を聞け。言っちゃ悪いが、長浜はテレビ慣れしていないように見える。以前もテレビに出演した時、緊張してちゃんとトークできていなかったな」
「な、なによ! ガチオタのくせして!」
 顔を真っ赤にさせる。どうやら正論を言われて動揺しているようだ。
「本当のことだろ? どんな人間でも緊張するのは仕方ない。慣れだからな」
「うう……」
 なにか言いたそうな顔をしているが、俺は無視して話を続ける。
「ならダンスはどうだ? 本業だろ? トックトックという動画アプリを知っているか? 」
 長浜の代わりに左右コンビが反応する。
「「知ってます」」
 良い子たちだ。
「あれならば、この事務所でもどこでも撮影できる。また喋りも必要ない。スマホ一台でやれるから緊張することもないだろう。グループでやるのもいいが、ソロでやってみるのもいいかもな」
 俺がそう説明すると、長浜を除く二人は「うんうん」と頷いて見せる。
「あと、撮影する時は衣装を着た方がいいだろう。特にミニスカとか、あと女子高の制服とかもあれば、もっとバズれるだろう」
 デジタルタトゥーになりがちだけど。
 それまで黙っていた長浜が大きな声で叫ぶ。
「わかったわよ! 素人と芸能人の格を見せてやるわ! 右子、左子! あなたたち、高校の制服持ってる?」
 おいおい、乗っちゃったよ。
「あ、私お姉ちゃんのがあるよ」
「ちゅ、中学生の時のでもいいかな? ブルマもあるけど」
 ファッ!? どこか別の変な動画サイトに転載されそう。

「いいわね! 全部持って来て! 色んなコスプレを事務所に持って来て撮影しましょ!」
 し、知らねっと……。
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